余剰人制度

お疲れ様でした。これが今回3日間の報酬の6万6千円です。

3日間、都内にある某私立高校で担任業務を請け負った。何でも、担任の先生の身内にご不幸があり、慶弔休暇を取得したため、その代わりがいなかったということだ。

担任業務と言っても、昔と違って教室に行く必要はない。生徒は各家庭から学校オリジナルのサイトにアクセスしてバーチャル教室にログインする。以前はアバターと呼んでいた自身の分身ではなく、ほぼ完璧な自分自身が仮想世界に存在し、やりとりすることができる。

担任も同じく、バーチャルの中の先生としてログインすることになる。個人情報の観点から、教師は学校に出勤する必要があるが、以前のような広大な広さの学校は必要なくなった。

余剰人である俺は臨時の職員となるため、自宅からアクセスすることになる。交通費が架からない上に、アクセスのための環境設定は個人持ちとなっているため、学校側は報酬を支払うだけで済む。

2019年、新型コロナウイルスが世界に広まり、多くの感染者、死者を出すこととなった。世界各国で取り組みが異なったが、どの国も感染が増えたり減ったりを繰り返した。日本は緩やかな制限や解除のタイミングが悪かったせいで、100年にわたりコロナに苦しめられることとなった。

2100年になるころには、コロナに罹っても飲み薬で治すことが出来るようになり、コロナを恐れることはなくなった。しかし、2101年にミチルという新型の感染症が広まり始めた。

コロナウイルスは発熱や風邪症状などが現れ、呼吸器官に症状を引き起こすものであったが、ミチルは症状が特にない。しかし、脳に直接ウイルスが入り込み、重大な疾患を引き起こす恐ろしい感染症であった。

意識を失うだけでなく、人格が変わったように暴れ出したり、人に気概を加えるようになった。脳内を支配し、人を介して意思疎通を図るミチルも現れた。

人類はこれまで言語を使って意思疎通をすることができる生き物は人間だけだと思っていたが、ウイルスにも意思疎通が出来ることが分かり、世界に衝撃が走った。

米印阿三国国際機関は人類の代表として、ミチルとの交渉に乗り出した。しかし、ミチルとの交渉はうまくいかなかった。

ミチルは人と人を介して感染する。体内に入り込んだミチルは、脳内に侵入し、命令系統を支配してしまうタイプと血液中の養分を吸収し、ミチルの子ミチルを生み出すタイプとあった。ミチルはコロナウイルスと違って、人以外に感染することがなかった。そのため、人と人が接触することが最も危険な行為ということになった。

こうして、学校や会社は最も危険な場所ということになった。コロナウイルスの時よりも急務として、人と接触せずに過ごす方法を編み出すこととなった。

バーチャル空間の発達は2120年頃に急展開を迎えた。それまでVR技術やAR技術の発展を目指していたが、なかなか上手くいかなかった。しかし、ミチルとの戦いの中で、人類の脳に影響を与える方法を発見してしまった。これをデジタルと結びつけることで、現在のバーチャル空間を編み出した。

一人一人の脳内に電気信号を与え、空間を確立させる。そこに自我を形成させる。その後、インターネット回線を通じて念波を送り込み、他者をそこに形成させる。一人一人の脳内に空間はあるものの、人はそれぞれの自我の動きを他者の中に表出させるので、同じ空間を過ごすことができるという仕組みである。

インターネット回線は5Gからは発展しなかった。高速といっても電気信号しか送れないものは、時代遅れとなり、現在は念波と呼ばれる思考信号を送信することができる5Nという規格に変わった。

このような経緯で、2222年の今は誰しもが念波を使って生活をするようになり、人と直接接触することはなくなってしまった。

余剰人である俺が仕事を自宅でできるのも、この仕組みがあるためである。人類が自分たちの力では進めなかった技術に進化することができたのは、ある意味ミチルのおかげといえる。

そういえば、余剰人について、質問が来ているのであった。その説明は次回の記録に残すことにしよう。


続く。

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