丫人 4
声の主は小さい人について説明を始めた。
外に出たら食われる。そう思ったら怖くて、なかなか外に出られんかったんや。あの食われたおっさんが蓄えてた食料で生き延びようと思ったけど、食料なんてなかったんや。あったんは、大きな池だけやったんや。あとで知ったんやけど、多分バケツやったと思うわ。
水だけ飲んで暮らし見ると、ほとんど腹が減らんかった。なんか食べたいっていうのは習慣的なもので、小さくなると食事はほぼ必要なくなった。ただ、水分だけは取らんとあかんかった。体が小さい分、蓄えられる量が少ないからこまめに取らないといけない。
大量にあった水が少なくなったとき、どうにかして水を確保せなあかんかった。よく見てみると、蛇口が見えたんや。でもな、小さくなった俺からするとそれははるかかなたにあるように見えたんや。どっかから登っていったら蛇口にいけたんかもしれんけどな。でもどうせ行ったって、ひねられへんから水なんて出せんのやけどな。
そこで俺は外に出ることにしたんや。命取られるかもしれんけど、ここでじっとしてたってどうせ死ぬんやと。思い切って外に出てみた。
まずはあの谷を越えなあかん。橋を渡って向こうに行った。広大な土地が広がっていると思ったけど、あれはただの通りやったんやろな。今みたいに道路が舗装されてないから、砂利道が蜿蜒続いていると思った。
水を求めて右往左往してたら、車にはねられそうなおっさんを見つけたんや。
「危ない!前に飛べ!」
って叫んだら、おっさんは間一髪車を避けることができたんや。でも、そのまま気絶してしまった。で、よく見たらおっさんが急に小さくなってたんや。俺と同じ現象やった。
とにかく、そのままに放置していたら危ないと思って、近くの建物の中に運んだんや。たまたま空き家には水もあったし、いくらかの食料もあった。そこを根城にして、助けたおっさんと生活をすることにしたんや。
その後、俺もそのおっさんも死にかけてるおっさんに声を掛けて助けていって、ある程度の人数になったんや。ただ、外出中に死んでしまうやつがおったから、最大何人やったんかはわからんねや。
俺らはお互いにどうなっているかを見て、実験を繰り返したんや。
どうやら、この現象はおっさんである人が死にかけたのを、俺らに助けられたら、小さくなってしまう現象のようやった。最初は小さくなることを矮小化って言うから「矮人(わいじん)」って呼んでたんや。でも、次第にこの言葉がどこかから漏れて、一時期有名になってしまったんや。
俺らを捕まえようという人がうろうろして、俺らも移動しづらくなった。でも、外出してた仲間が人間に捕らえられることはなかった。どうやら人間には俺らの姿は見えんようやった。でも、ネコやねずみに仲間が食われていたことから、動物には見えるようや。
人間を助けるときに声は届くから、姿が見えないだけで声は聞こえている。そして、おっさんが気づいたように、俺らの陰は元のサイズの影のままやった。
矮人で騒がれることになったから、名称を変えることにした。矮のワイとアルファベットのYをかけることにしたんや。でもY人(ワイじん)やとそのまま過ぎるから、少しだけひねって「丫(あ)」を使うことにしたんや。こっちやったら漢字やから、都合が良いと思ってな。
ということで、俺らは丫人とかいてワイじんという存在になったんや。
おっさんのネーミングセンスはさておき、俺の状態になった人間は複数いることがわかったのだ。
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