【You Tube】裏切りのサーカスの動画の原稿【誰も見ぃひん】②

それでは小説版との比較をやっていこうかと思うのですが
やはり話の内容が非常にややこしく、どう説明したものかという感じなので
ここは面白みに完全に欠けますが、最初から章に沿って順番に説明していこうと思います

まずその前に原題であるティンカーテイラーってのがいったい何なのか、という話なんですが
これはマザーグースに出てくる詩、みたいなものらしく

Tinker,
 Tailor,
Soldier,
 Sailor,
Rich man,
 Poor man,
Beggarman,
 Thief.

鋳(い)かけや
 仕立てや
兵隊
 水兵
金持ち
 貧乏人
乞食に
 どろぼう

と続くらしいんですね。で、コレがいったい何なのかというと、イギリスの少女達は縄跳びを回しながらこの歌を口ずさみ
例えばベガマンで引っかかってしまったら、その女の子は乞食と結婚する事になる、みたいな、そういう遊びがあるらしいです
イギリス人的には誰でも知っていて、ティンカーテイラーソルジャースパイとくると、なんかインパクトがあるんでしょうが
日本人だとまぁちょっと分かりにくいですよね。ちなみにここで重要なのは、ビル・ヘイドンのコードネームがテイラー
つまり洋服屋さんであった、という部分です。それ以外は、実はそこまで重要ではありません。ビルはテイラー。これは覚えておきましょう

ではいきます。

まず一番最初のシーンはジム・プリドーがサースグッドの学校に来たところからになります。
ジム・プリドーのシーンはビル・ローチ少年とほぼセットというか、ビルローチの視点で大体のシーンが構成されています。
映画だと「自分には何も取り柄なんて無いです」という少年に「お前は一番優秀な監視者だろ?メガネが頼りだがな」と返すシーン
小説はここから始まります。
ちなみに小説版のジムは翻訳の関係もあるんでしょうが、非常に粗野で荒っぽく威圧的でありながら
でも決して乱暴という訳でもない、という、なんだか不思議な印象のキャラクターになってますね。映画とちょっとだけ違います

そしてスマイリー。映画のスマイリーは非常に寡黙で冷静沈着で、一種の神々しさすら放つキャラクターでしたが
小説のスマイリーは結構ゴチャゴチャ頭の中で考えていて、特にアンに関しては「もう離婚じゃこらあ!」みたいな
映画とは全然別のキャラクターだったりします。しかも身長も低く、太っていて、何処にでもいる、普通のおっさんって感じですね

そしてギラムが登場「ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」みたいな感じでスマイリーを訪ねてきて

リッキー・ターと引き合わされます。
ちなみに小説のギラムもちょっと印象が違って、映画だともろに「スマイリーの忠実な部下」って感じですが
小説だと部下ではあるがそこそこ対等、というか、映画みたいな子分感みたいなものは殆どありません
一方でターは割と子分感が強いですね。マッドマックス感は無いです

そしてそこからしばらくリッキーの話。映画版と結構違いますが、この改変にどのような効果があったのかはちょっと謎ですね
せっかくトム・ハーディをキャスティングしたし、デジロを確保したかったんでしょうかね
ここで早々にポリヤコフの名前が出てたりします。
映画版でもスマイリーがもぐらの調査を渋るシーンがありますが、映画だと「お前達が切ったくせに…」という恨み節って感じですが
小説版だと単純に「面倒臭ぇ」みたいな印象があります。映画のスマイリーとは大部違う感じですね。

そしてまぁ当然ですが、スマイリーはもぐら探しを引き受ける事になります。

映画版と同様、サーカスの内部に侵入出来るのはギラムしかいないので、ギラムが身を切って内部情報を得なければなりません
ひとまずスマイリーは現在のサーカスの内部事情を調べるためにギラムを送り込みます
ちなみに小説のギラムは政治感と忠誠心に厚いヘテロセクシャルです

そしてスマイリーはスマイリーでコニーを訪問。ここはほぼ映画と同じですが、
ところどころスマイリーの「面倒クセェなぁ…」みたいな描写が挟まれたりしていますね
小説版のスマイリーは非常に人間的です。人間的過ぎるくらいに。

そしてレイコンからアレリンが提出したウィッチクラフトの資料を受け取る。
危険の少ないところから攻めていく、といった感じですね

そしてこの辺からようやく物語は面白くなってきます。アレリンとコントロールの権力争い
アレリンは映画版だと何故か偉くなった小物、みたいな感じですが、いうて諜報組織の長に収まるくらいですから
小説版だとそれなりに優秀であった事が示唆されます。そしてアメリカに対する尊敬の念と、過剰な出世欲が強調され
コントロールはアレリンのその部分が本当に嫌いだったようですね。

しかしそのコントロールも小説版だとハッキリ言ってほぼいいところが無い感じですね
僕は映画版でコントロールをやったジョー・ハートという役者…この前死んでしまいましたけど
この人大好きなんでね。というかエレファントマンですからねこの人。エレファントマン嫌いな人いませんよね
あとはエイリアンにも出てましたしね。お悔やみ申し上げますって感じですけど
映画版だとスマイリーは「コントロールの敵を討つ」みたいな雰囲気も多少あったかと思うんですけど
小説版だと本当にそんな感じ、全然受けないですね。コントロール死んじゃったんだって、みたいな感じで

そしてアレリンの説明の後はトビー・エスタヘイスとロブ・ブランド、ビル・ヘイドンの説明も行う訳ですが
まぁそれぞれにそれなりに優秀、という感じの描写は出てくる訳ですが
その中でも、ご承知、ビル・ヘイドンは何十年に一人の傑物というか、「サーカスのアラビアのロレンス」などと言われ
それはそれは優秀であるという風に描かれていますね。
一方でアレリンはウィッチクラフトの情報を独占し、トビーはコンプレックスが強く出世欲に貪欲
そしてロブ・ブランドに至っては父親が共産主義者で、自身も左翼系の新聞に寄稿した事があるという話があり
それぞれに「何か怪しい」といったような雰囲気を与える描写が散りばめられている、という訳ですね
ロブ・ブランドに関しては怪しいとかそういうレベルじゃないですけどね。マジモンやんけ、っていうね

そしてビルがいかに優秀かという描写の中で、アン・スマイリーとの関係が登場します。
ところでこのアン・スマイリー関連の話って僕はちょっと良く分かっていなくって
まぁカーラがスマイリーの弱点はアンだと見抜き、そこを責めてきたっていう話は分かるんですけど
そこを責められたスマイリーがいったいどんな失点を犯してしまったのか?というのが僕にはまるで分からないんですよね。
まぁ考えてみるとスマイリーが非常に優秀であると判断したカーラがビル・ヘイドンがモグラであるという事実を晦ますために
ビルにスマイリーの美しい嫁を寝取らせた、という事なんですかね。僕の頭ではこんな推察が精一杯です

で、一方でそういう妙な色眼鏡とは無縁のコントロールは、モグラの存在に勘付いた、と
まぁそういう風に考えれば考えられますが、具体的にスマイリーがやらかした、という描写は出てこないんで
なんかカーラの嫌がらせ以上の意味は無かったんじゃないの?なんて思ってしまったりもしますね

そしてここで田中内閣という単語が。こういうのはちょっと「おぉ…」って思いますよね
イギリスからしても日本という国は無視できないプレイヤーなんだな、と、ちょっと誇らしい気持ちになります

そしてギラムが再びサーカスに潜入。次は本格的に、資料となる証拠を盗んで来てくれ、とのご用命
まぁあれやこれやあって、無事に仕事をやってのけます。Mr.ウーのシーンは小説には無いですね

そしてスマイリーのターに対する最終確認。映画だとここで取っ組み合うのはギラムですが、小説だとスマイリーです。
ターを侮辱し、その反応を見る事によって、ターが裏切る可能性が低いという事を確信したスマイリー
作戦を次の段階に移行します

そしてカーラとの邂逅の回想シーン。カーラは結構前からサーカスがマークしていた人物で、
彼を寝返らせるためにスマイリーはインドのデリーへと飛んだ、という事になっています。
まぁ結局カーラがまるで裏切る素振りも見せずにロシアに帰っていったというのは映画の通りですが
小説版のカーラの描写は、なんだか非常に病的というか、むしろ狂ったロシア人って感じですかね
カーラがどのようにして粛清を免れたのかは描写されませんが
まぁその人並み外れた精神力で拷問に耐えきった、とかそんな感じなのかもしれませんね。

そしてテスティファイ作戦が失敗した夜の話。ここは映画ではジェリーウェスタビーが出てきますが
小説ではサムという男です。まぁ発言内容は似たようなもので、まぁビルヘイドンがすぐに駆けつけてきたよ、という話です

そして次は映画版では完全にカットになっていますが、マックスという、ジムプリドーと同行していた男との会話
まぁようはジムが打たれてしまったテスティファイ作戦の裏で、ビルヘイドンが色々と動いていたという話
あっちが怪しいと思えばこっちも怪しくなってくる、と。小説を初見で見る人からすれば頭がこんがらがってくるような感じでしょうか
果たして誰がモグラなんだ?と

そしてここで出てくるのがジェリーウェスタビー。彼はサーカスの諜報員でもあり、新聞記者でもあるという男で
チェコでハージェクいうイギリスのスパイがチェコで待ち伏せされて撃たれたという記事を掲載しようと思ったら
トビー・エスタヘイスが怒髪天の勢いで怒り狂ったという話。ハージェクというのは作戦におけるジム・プリドーの偽名でした
すなわち「テスティファイ作戦は全て仕組まれた罠だった」という事を仕組んだ側としては公にされる訳にはいかない、という
それ以来ジェリーはサーカスから締め出されてしまった、と。
まぁ作者的には「やっぱりエスタヘイスも怪しい!」と思わせたいミスリードを狙ったシーンでしょうね
そしてそれらの全てを巧妙に操っているのはモグラであり、そしてカーラでもある、という訳です

そしてジムがどのようにしてサーカスに入ったのか、というシーン。ビル・ヘイドンの推薦だったようです。

そしてここでスマイリーがついにジム・プリドーを訪問。
ついにティンカーテイラーのシーンです。
この辺りから映画は好きだけど小説読むのは…という人も気になってくるような話なのではないでしょうかと思います
「君はベガマン、乞食だった」という言葉を聞いて「へえ!私がねぇ」という反応は映画版ではちょっと考えられませんよね
そしてスパイなんているはずが無いじゃないか!などというジムに対してスマイリーはこう言い放ちます

******

これがスマイリーのものの考え方なのでしょう。全ての人間は、条件さえ揃えば容易に裏切るのであると。

そしてジムが受けた訊問及び拷問シーン。映画版では割とあっさりしていましたが、小説では結構長々と書いてくれています。
まず拷問を受ける際の心構えですね。ちなみに著者のジョン・ル・カレはMI6に本当に務めていたような人なので
この辺りに書いてある事は現実と大差無いと考えてもいいのでしょう。
ですのでここはちょっと詳細に語っていきましょう。みなさんも拷問される時は参考にして下さいね。

拷問された時はどうやらまず抵抗しても無駄っぽいです。
という事で問題は何処まで話すのか、何なら話して良く、何を話してはならないのかという階層を
自分の心の中で作っていく事が重要だ、と書いてあります。
そして最後の最後まで話していない段階で相手が「こいつには最後の最後まで話させた」と思わせればこちらの勝ちなのである、と

まず何を第一線に置くのか。ジムの場合、これは「テスティファイ作戦の輪郭」だったようです
***

第二線はマックス。まぁ「売ってもいい仲間を売る」という意味なのでしょうね

その後は最近のスカルプハンターとしての仕事
サーカス内の噂話と

で、ここがこの小説の、というかこのシーンの面白いところ
それはスマイリーの訪問によってジムプリドーは何を思っているのか?という話なんですね
つまりビル・ヘイドンがもぐらであるという事をジム・プリドーはとっくの昔に気が付いている訳です。
それは何故かというと、トビー・エスタヘイスがジムを訪問し、慰謝料とアルビスという高級車を渡した際に
「ティンカーテイラーも忘れろ」と言ったという発言。これはようするにビルがエスタヘイスに対して話したに決まっている訳で
つまるところこれはビル・ヘイドンからの「俺がもぐらだ」というメッセージだったと考えられるんですね。
そしてそれを知っているが故に、ジムプリドーは一切の行動を起こす事は無かった。絶対にサーカスに接触しなかった
にも関わらず、ここでスマイリーが訪問してきた。どうしますか?スマイリーに何を話しますか?
ジムとすれば答えはこうです。何を話すにしろ「ビル・ヘイドンの事だけは絶対に話さないぞ」考えている訳です。
つまりカーラにどのような訊問、拷問をされたのか?拷問される際に自分の心の中に階層を創り
何を言い何を言わずにいたのか、という話をしている間

ジムプリドーはスマイリーに対して「何を言い、何を言わずにいるべきか」という、同じ手法を使い
スマイリーに対して「自分はあなたに言うべき事は全て話しましたよ」と思わせなければならない、と思っている、という
二重構造になっている訳です、このシーンは実に見事なシーンだと言えるのでは無いでしょうかね。凄いと思いますね。

しかしスマイリーがそのような事に引っかかる訳がありません。拷問こそしませんがジムに対して確信に迫る詰問をします。

*****

この発言に対して力なく答えるプリドー。スマイリーとしては「まぁこんなものか」といったところなのでしょう
恐らくプリドーはまだ話していない事があるが、彼は被害者であり、死にかけ、拷問され、今では職を解かれ、しがない教員になっている訳です

そしてエスタヘイスを呼び出し、詰問
映画ではわざわざ飛行機が降りてきて「送還してやるぞこのやろう」と脅しを入れますが
小説ではそんな事もせず、スマイリーが理路整然と今の状況を話した事で、エスタヘイスは簡単に折れます。

ポリヤコフとの密会の場所を突き止め、いよいよもぐら狩りは佳境
ターはパリへ。メンデスがサーカスにて見張り、というのは映画でも同じですね

そしていよいよモグラの捕獲。モグラの正体は…まぁご存知の通りビル・ヘイドンだった訳ですが
その事が判明した瞬間のスマイリーの心情描写がとても面白いです。

*****

うん。なんかもう、暗澹たる気持ちになってきますよね。コレがスパイの世界というものなのでしょうか
ちなみにこのティンカーテイラーソルジャースパイの続編であるスクールボーイ閣下という本はもっと暗澹たる気持ちになれますけど
ようはスマイリー的には「他の誰かなら絶対にこんな完璧にやれるはずが無い」と思っていたって事なんでしょうね。
絶対にしっぽを見せるはずだ。何故見せない?それは優秀だからだ、そしてサーカス内部でそんなにも優秀な人間と言えば
そう、ビルヘイドンしかいない、と。本当は最初っから分かっていた。しかし信じたくなかったのだ、と。


そして最後にここですね。

****

これはまるっきり明示されていませんけど、例のティンカーテイラーの暗号、その暗号の中でビルヘイドンはテイラー
すなわち服屋だったんですよね。そして服が届いて、その直後にビルヘイドンは死んだ
これは僕個人としては何かを明示している…つまりティンカーテイラーを知る者の犯行である、という事なのだと考えられる訳ですね
ティンカーテイラーソルジャースパイ。何故この小説がこのような題名になったのか
映画のラストシーンも最高の出来でしたけど、小説版のこの読後感もなかなか味があって悪くありません。

という事で、興味がお有りになる方は、ティンカーテイラーソルジャースパイ、是非とも読んでいただければと思います
それでは今日はこの辺で、ありがとうございました。


ちなみにコレはちょっとあんまり良く分からないんですけど、順番的にジムに対する接触って
もっと早くあってもよかったんじゃないのかと思うんですけど、なんやかやで結構引っ張られた感じがありますよね
映画版でも「一番最初に話し聞きにいってもいいんじゃないのか?」とは思うんですけどね
まぁ小説の展開的には、ついに物事の真相が明らかになるぞ、という感じで、この辺りに置いておきたい部分はあるんでしょうけど
ただまぁ予測はつくでしょうが、このシーンは非常に読み応え抜群で最高のシーンですね


いよいよ本格的にもぐら狩りに動き出します。


まずキャラクター毎に結構設定が変更されている、という辺りからいきましょうか

まず特筆すべきは「コントロールの存在感の無さ」と「ジム・プリドーの意味不明さ」といったところでしょうか
映画だとこの二人は非常に重要な存在で、むしろジムに関しては「実はこの人の話」っていうくらいの存在感ですが
小説版のコントロールは「引退間近の老人」といった感じで、正直映画版の「コントロールカッコいいなぁ」みたいなシーンは殆ど無く
出てきてから死ぬまで、いいシーンがまるっきり出てきません。
僕はエレファントマンが物凄い大好きで、このジョン・ハートという役者の人が死んでしまった時「エレファントマンが…」といった感じで
結構落ち込んだんですけど、小説版のもう「このコントロールって人全然駄目だな…」感は映画見た後だと結構衝撃です

一方ジム・プリドーに関してはかなり謎の男です。というか映画版のラスト、あの見事なラストシーンは小説版には存在せず
ビル・ヘイドンが突然殺され、それがジムプリドーによる犯行である事がうっすらと匂わされるような描写だけで終わっています
つまり恐ろしい事にあれだけ「意味が分からん」と言われていた映画版の方がわかり易い、みたいな事だったりするんですね

で、次はサーカスのもぐら候補の4人ですが
彼等は映画だと虚栄心の塊で、どいつもこいつも胡散臭い、みたいな感じになっていましたが
その辺の事は小説だとやはりちゃんと描かれていて、全員それなりに優秀なのである、という話にはなっています。

アレリン スコットランドの牧師の子供 父は長老教会派の熱心な信者 最初は厄介者みたいな扱いで南アメリカに派遣され
      派遣されたアルゼンチンでイギリスに優位な情報網を作り上げ、その事はコントロールも評価せざるを得なかった
      その後インドでもそれなりの仕事をした
      アメリカに対して強烈な尊敬の念を抱いており、一方コントロールはアメリカを軽蔑しまくっていた。
      ようは水と油のような関係だった。
      権力欲を隠そうとせず、自分の仕事をしきりに誇った。後に情報源マーリンと接触し、マーリンの情報をウィッチクラフトと呼称する

トビー  スマイリーの死んだ叔父が館長をしていた博物館の廃墟で、餓えていたところをスマイリーに見出された、という意味不明な経歴
      
ブランド ある指導教官が彼に目をつけ、スマイリーが組織に入れた。父親が熱狂的な労働組合運動家で共産党員

ビル ヘイドン 中東で活躍

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