【You Tube】裏切りのサーカスの動画の原稿【誰も見ぃひん】

という事で今回は裏切りのサーカス。原題は小説版とも同じですが
「ティンカーテイラーソルジャースパイ」の比較、解説、ちょっぴり考察、といった事をやっていこうかと思います。

しかしまぁコレがまず厄介なのは、この映画、僕はもうハマりにハマって何十回も見返している作品なんで
個人的には間違いなく超面白いとは思うんですが、作りがとにかく難解なんですよね
映画に関しては「どうせ一回見ただけじゃ分からないから」という事で、
半券持参で2回目以降は1000円で観賞できるというキャンペーンが開催されたとかいう話です。

そんでじゃあ一方、小説の方はわかり易いのか?と聞かれると、ハッキリ言ってそんな事も無いんですね
まずこのジョン・ル・カレ、去年肺炎で亡くなってしまったそうなんですが、文章が非常に独特というか
結構どうでもいいような部分はくどくどと説明しているのに、肝心なところは平気ですっ飛ばすみたいなところがあって
「え?コレ今誰が喋ってるの?」とか「こいついつ登場したの?」とか「この比喩の意味が全然分からないんだけど」とか
読んでると結構そんな感じなんですよね。だからまぁ映画、小説共にとっつきにくいって言えばとっつきにくい作品なんですよね

ですのでまぁひとまず、この映画、裏切りのサーカスがいったいどういう作品構造になっているのか、という事を
出来るだけ簡潔に説明し、その後で小説版の方の比較といったあたりをやっていこうと思います
映画の内容はほぼ頭に入ってるよ、という人は次の動画で会いましょう。

まずサーカスっていうのは何かというと、イギリスの諜報組織の本部があるのがサーカスという場所、つまり地名なんですね
SF映画でNASAの事を「ヒューストン」と言ったり、日本だと官僚を「霞が関」とか言ったりするじゃないですか、そういう感じですね
そしてサーカスってのは諜報組織ですから、当然国家機密をゴリゴリに扱っている部署でして
どうやらその中枢に、敵、この場合はざっくり共産圏という事になりますが、ロシアのスパイが潜り込んでいるらしいぞ、という事が判明し
そのスパイを、ジョージ・スマイリーという男が探しだす、というストーリーですけれども

で、この「どうやらスパイがいるぞ」という事に気付いた人間ってのが、サーカスの内部に2人いる訳です
一人がサーカスのチーフであるコントロール。もうひとりがサーカスのスカルプハンター、処刑人、暗殺者であるリッキー・ター
まず最初に「もぐら」の存在をに勘付いたのはコントロールですね。ここは映画版だとカットになっているんですが
小説だとパーシー・アレリンという男と結構激烈な権力闘争を行っていたという事になっていて、そしてその争いにウルトラ劣勢状態です
何故かというと、アレリンには「ウィッチクラフト」と呼ばれる謎の情報源が存在しており
英国側が欲しい情報を次々と仕入れてくる。一方でコントロールはそのような秘密の情報源を持っておらず
むしろ「こんな情報は怪しい、こっち側に都合が良すぎる」といって
ウィッチクラフトによってもたらされた情報は相手にすべきでない、という立場を取ります
しかし「諜報組織的には極めて怪しい」としても、イギリスの高官やら政治家にとっては「願ってもない情報」という事になる
となると、組織内でのコントロールの立場は当然悪くなっていきます。ようは文句ばっかり言ってて邪魔ばかりする老害、という訳ですね
そしてコレはもちろんですが、ウィッチクラフトは邪魔なコントロールを権力の中枢から引きずり下ろすために
敵側が用意した存在である、という話になります。

ウィッチクラフトに関して「絶対に裏があるに違いない」と考えるコントロールは
過去の情報を徹底的に洗い直し、「これはもう幹部の5人のうちの誰かがもぐらに違いない」というところまでは辿り着きました
しかしどうしても決定打に欠けますし、キリストのように「この中に一人裏切り者がいる」と言い出す訳にもいきません。
もぐらを捉えたくば、バレないように、秘密裏に、確実に追い込み、決定的な証拠を突きつけなければならないのです。
絶対に逃げられる訳にはいかない。
自分のためにも、サーカスのためにも、イギリスのためにも、そして全ての民主主義国家のためにも、です

そしてある日コントロールは重要な情報を掴む事に成功します
それは「サーカス内部に潜り込んでいるもぐらの存在を証明できる人物」が「イギリスへの亡命を希望している」という情報です。
亡命と引き換えに、もぐらの情報を明かす、と。

この情報も結構怪しいんじゃねぇのかと思う人もいるでしょうが、そこはまぁご愛嬌。もぐらサイドも上手くやったのでしょう

権力闘争で相当劣勢にあるコントロールとしては大逆転のチャンスです
もぐらを探し当てる事が出来れば「ほら、俺の言った通りだろ?」という事になる訳ですからね

しかしコレは当然ロシアともぐらが仕組んだ罠だったという事が明らかになり
コントロールは完全に地位を失墜させられてしまう、というのが映画の冒頭で描かれている部分。
何故か分かりませんが、盟友ジョージ・スマイリーもセット販売とばかりに引退させられ
失意のどん底に突き落とされたコントロールは、ある日突然心臓の発作で死んでしまいます。

ここはちなみに映画版だけ見るとロシアのスパイに毒殺でもされたんじゃないのか?という描写にも見えますが
小説版だと「パーシーとの権力争い」の時点から老衰と心臓の病気が進行していた、といったような描写があるので
まぁ普通に「自然死」と言っていいかと思います。ロシア側としても今更コントロールを殺す必要も無かったはずですしね。
という事で、「もぐら」からすればもはや自分の存在を脅かす人間はいなくなり
完全にサーカスを牛耳る事が出来るようになったのです。やったーーーー!

しかしそうは問屋が卸さない。彼の名前はリッキー・ター。組織の中では誰も彼の事を知らないような存在でしたが
彼が潜入していたロシアでちょっと引っ掛けた女性イリーナが
実はロシアの諜報組織の中でも結構な地位にある女性である事が判明しました
しかも彼女が言うには、サーカス内部にはもぐらが存在しており、そしてそれがいったい誰なのか?という事も知っているらしいのです

「こりゃ凄い話だ!これで俺も大出世間違いなしだぜ!」と歓喜するリッキー。ここで地獄のような凡ミス
「裏切り者がいる」と分かっている場所に向けて「お前達の中に裏切り者がいるぜ!」という情報を打電してしまいます。
それを見た裏切り者は当然焦って、すぐさまリッキーと、ロシアを裏切ろうとしているイリーナを始末しにかかります
すんでのところで逃げ延びたリッキーは自分が殺されかけた怒りと「イリーナを巻き込んでしまった」という自責の念とで
もぐらに対する復讐を誓い、上司であったピーター・ギラムと接触する事になる訳ですね

それによって「どうやらコントロールの言っていた事は本当らしいぞ?」という事が明らかになり、
スマイリーはもぐらを探し出すべく調査を開始する、という事になります

そしてこの調査の仕方、というのが面白いというか、まぁそういうものなのだろうとは思うのですが
スマイリー一派は、決して「もぐらを調査しているぞ」という事をもぐらに勘付かれてはいけない訳ですね
ですので自分と同様「最近解雇された人間」辺りから徐々に徐々に攻めていき、情報を集めて本丸に到達するという事になります

まずはコントロールの身辺整理
映画だとここでスマイリーは「自分もモグラ候補の一人であった」という事を知り愕然とした表情をしますが
小説版のスマイリーは「そりゃまぁ当然だろうな」みたいな感じで気にも留めていない感じでしたね。

そして最近解雇されたコニー・サックスという太ったおばちゃんから「ポリヤコフ」という男を探っていたら解雇されたという事を聞かされます
まぁつまりは「裏にいるのはどうやらロシアだぞ」という事が示唆されるシーンな訳で
この一連のシーンを見ると明らかに「もぐらはアレリンだな」と思うような作りになっていますね。
しかしそれらはそのように見えるように仕組まれた巧妙な罠です

そしてその後で、ハンガリーで殺されたはずのジム・プリドーが生きている事を知り。
もしかしたら何か妙な事が起きているのではないのか?という事が示唆されます。

更にその日帰ってみると、リッキーが部屋の中に忍び込んでいた、という話になるのですが、小説版だとここはかなり違っており
むしろ最初にリッキーがギラムを介して
「スマイリーさん聞いてくださいよ。サーカスにはもぐらがいるんです」と接触してきたところから話は始まります

ですので冒頭付近のリッキーがピーターにまず電話をするというシーンは小説版では存在しません

よくよく考えると映画版の「何故ピーターが突然電話してきたリッキーを信用したのか?」というのは結構謎なんですよね
リッキーはもぐらによって既に「ロシアに寝返った裏切り者」と吹聴されていたはずですので
信じる理由というのは結構薄弱な気がしますが、
まぁそこはもしかしたらギラムにとって「スマイリーの汚名を晴らす機会だったから」と考えるとまぁ辻褄は合うのかもしれません

ちなみに映画版のピーターはホモセクシャルとして登場しますが、小説版では普通にガールフレンドがいたりしており
この辺りの改変は「ギラムのスマイリーに対するある愛情」というか
ギラムの行動は全てスマイリーのためであり
なればこそ仲間を平気で裏切ったり、捕まれば終わりといった任務に赴く事も出来た、と言えるのかもしれません

そしてここで謎の最重要人物「カーラ」が登場しますね。カーラはもぐらを裏で操っているラスボス的存在であり
映画版ではスマイリーとはコインの裏表といった感じで登場する事になります

というのもこの「裏切りのサーカス」という映画は、どの登場人物達も一様に何かしらを裏切っている
まぁ裏切りとは行かずとも、秘密を抱えている存在として描写されています

即ち「結局のところ人間は故あれば平気で仲間を裏切る存在なのである」と
逆に「裏切らない存在の方が奇妙なのである」と言っていいような描き方なんですよね
そんな中、劇中で決して誰も裏切らないのがジョージ・スマイリー。彼は浮気性の妻を許し、自分を失業に追い込んだコントロールを許し
職務に忠実で、一種の超越者、いうなれば神的存在として映画内で君臨しております。

で、一方カーラ。
なんでも「裏切る可能性がある人間は片っ端から殺してしまえ」というのがロシアの基本方針らしくてですね
「そんな滅茶苦茶あってたまるか」と僕も思う訳なんですけれども、冷戦真っ只中ののロシアでは
「こいつ裏切るんじゃねぇだろうな?」という人間に対して粛清の嵐が吹き荒れていたらしいんですね

インドに派遣され、それなりに高い地位にあったカーラはロシア当局からすると「裏切り者候補の上位」にランクインしています
となれば他の国の人間からすれば亡命や西側の生活をちらつかせて寝返らせ、ロシアの情報を取りたい
ロシアに戻ればどうせ「お前裏切っただろう」と拷問され、そして「裏切って無い」と言っても無視され
殺されてしまうというのが目に見えています。そんな状況におかれれば誰だって裏切りますよねぇ?

で、ジョージ・スマイリーは、当初から目をつけていたカーラを裏切らせるべくモスクワ・センターへと飛んだ訳ですが
そこで出会ったカーラという男は、色々と説得したにも関わらず
拷問され、処刑される事が殆ど確定しているはずのロシアに帰っていった、と
つまりジョージ・スマイリーをも超越する、恐るべき国家、或いは政治理念に対する忠誠心な訳ですね。
つまりそんな男が敵側に存在しているとするとすればサーカスは大ピンチな訳です
すなわちスマイリーは東側、共産主義側の、ある種もう一人の自分と戦わなければならないという構造になる訳です

ちなみにスパイというと007みたいにあれやこれやする人達って感じですけど、現実のスパイの仕事というのは
「裏切りそうな奴を見つけて裏切らせて、情報を取る」というのが基本の仕事と言われています。

続いてジェリー・ウェスタビーと接触。この人は結構影が薄い登場人物なんですけど
ティンカーテイラーソルジャースパイの続編であるスクールボーイ閣下では主人公だったりするキャラクターです

今スクールボーイ閣下のwikiを見てみたら村上春樹が「ジョン・ル・カレはぐしゃぐしゃした変な文章を書く人」と言ってるらしく
どうやらル・カレの文章が読みにくいのは僕の読解力の問題じゃなかったっぽいですね。安心しました。
ちなみにスクールボーイ閣下は僕は読みましたけど、その続編の「スマイリーと仲間達」はまだ見ていません
映画製作の話があるので、その後で読もうかとか思っていたのですが、なんかもう待ってるのも時間の無駄っぽいですね
近々読もうかと思います。

さて、ジェリー・ウェスタビーはハンガリーでの事件の夜、サーカスの本部で当直をしており、その当時の様子を克明に覚えていました
コントロールの対応、ビル・ヘイドンの対応。ジム・プリドーの家に行って証拠を隠滅した話などを聞き、情報は着々と集まりつつあります。

ここで今一度強調しておきたいのは、スマイリーの仕事はサーカスで働いていた時も
そしてもぐらを探しているこの段階においても、スパイの仕事の基本
「寝返りそうな奴を見つけて、寝返らせ、情報を取る」事にあります。
スマイリーは慎重に慎重を期して、四人の中で誰が裏切るかを探り出している最中、という訳ですね

そしてようやく出てきたジム・プリドー。コントロールに言われてハンガリーに趣き、罠にかかり、銃殺されたとされていた人物です。
彼は実はその後に無事に帰国しており、恩給を貰い、今ではサースグッドという場所でフランス語の教師をしている、と。
当時の話をスマイリーが聞くと、自分はコントロールに派遣されて、銃撃されて、拷問を受けて
自分の知っている事を洗いざらい喋らされてしまい、あっちこっち引きずり回されたと思ったら気付けばイギリスに送り戻されていた、と。

そして「エスタヘイスにティンカーテイラーの事も忘れろと言われた」と話し
スマイリーも「何でエスタヘイスが?」と疑問に思うというシーンが出てきます
このシーンは非常に重要なシーンかと思われます。
このシーンは恐らくですが、ジム・プリドーの最後の悪足掻きという意味かと僕は思いますね。
ティンカーテイラーの話を知る人間は、たったの二人。コントロールは既に死んでしまっていますので
残るはジム・プリドー本人と、もぐら、もう言ってしまいますが、ビル・ヘイドンしかいません。
そしてビルしか知り得ないはずの情報をエスタヘイスが喋ったんだ、となると
これはもう単純に「エスタヘイスがもぐらだ!」となるのが普通です。

ビル・ヘイドンをどうにかして救いたいと考えるジムとしては
スマイリーがそうやって物事を単純に考えてくれる事に賭けたんじゃないでしょうか。
しかしスマイリーはそんな事には引っ掛かりません。
むしろここでついに「あぁ…そういう事か…」と思ったんじゃないでしょうか。

物語は佳境。ついにサーカスの幹部の一人であるエスタヘイスに接触します。
スマイリーからすれば「エスタヘイスがモグラのはずがない」という事なのでしょう。このモグラはあまりに優秀過ぎました
サーカスの中枢の中にあってほぼ確実にもぐらでは無く、そして恐らく、こちらが追い詰めれば必ず裏切るであろう人間
トビー・エスタヘイスをスマイリーが陥落させ、欲しかったコマは全て揃いました

スマイリーはついにモグラ狩りを決行。
リッキー・ターの命を餌にもぐらをおびき寄せ、ついにモグラの捕獲に成功します。


と言うのが映画のざっくりとした内容となりますかね。それではこれから小説版との比較、解説に移りたいと思います


この辺りで恐らくスマイリーとしては一体誰がもぐらなのか、というのは半ば分かっているんじゃないのかと思いますね。

話としてどうとかいう

何故ティンカーテイラーを知っている?>ヘイドンのメッセージだった。俺は裏切り者だ、と
そしてプリドーはこの事に対して一切の沈黙を守る事に決めた。
しかしスマイリーに勘付かれてしまった。

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