久しぶりに

 昨夜久しぶりに鮮明な彼の夢を見た。夢で来ている彼のシャツやデニムは全て想像のものであるくせに、あの頃の色褪せた合わせ方は残ったままのように思った。黒いシャツを着ていて、少しレディスライクだなと思った。いつしか日常に彼を思い出すことはスッとなくなり、お互いの世界から排除された。それでも優しい雰囲気は変わらないままで、夢でさえ優しい彼にもはや羨望の眼差しを送っていたような気がする。
 朝起きて、ハッとなり、ああ今は2024年6月かとまともになりながら、久しぶりに会った嬉しさのような不思議な感情になった。周りから聞く話では私と別れてすぐ、彼女ができたそうなので、あの頃の私の予感は正しかったように思う。
 女の勘ってものはときに凄まじい威力を発揮するもので、私の中の女の勘も、凄まじい勢いでカラカラと音を立てていたように思う。特別何かをされたというわけではないし、気持ちの変化について言われたわけではないのだけれど、大学生になったという環境の違いで、私たちの心はズレていった。
 あの頃彼はバイトを始めたてで、サークルに、大学生活と楽しもうとしていたと思う。私はというと、家族がコロナになり、入学早々の大事な時期に移されまいと、ひとり、ビジネスホテルで1ヶ月ほど暮らしたことだった。 朝起きてもひとり、大学に対する不安、大学が終わった帰ってもひとりきり、という途方のない不安と苦しみを乗り越えるべく、彼に泣きながら連絡をしたこともある。彼は「なんでも言ってね」「味方だからね」そう言ってくれたことを憶えている。
 しかし、あの頃の私はきっと、言葉じゃなくて、会いにいくよと半ば強制的に来てくれ、熱い抱擁を交わすといったような、少女漫画かのような、接し方を求めていたんだと思う。「違う、そうじゃない。違うよ、、。その優しさじゃない」という小さな違和感が、どんどん積み重なり、私には手に負えない感情を残した。
 負の感情を纏っていることは自分でもわかっており、私死ぬのかなとホテルの大きな窓から遠くの地面を眺めていた。負の感情を纏った私は汚いからあなたに会う資格すら無いと思うようになった。
 その時の彼もまさしく忙しく、正直私に構っている時間が惜しかった、そう思っている様子を感じた。きっと私に捧げる時間が惜しく、他のことに使いたいと思っているんだろうな、そう感じて、私はあなたの人生には居られない、邪魔をしてしまうかもしれないと、自分から一方的に離れた。私の側面から言えばこうなるけれど、彼にも彼なりの意見があるだろう。もう聞くことはないけれど、いつかどこかでばったり会ったのなら、きちんと謝れたらあの頃のわたしたち、救われるのかな、と思っている。

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