ふたり乗り

免許をとり、誰彼構わず車で色々なところに行く年頃はもう過ぎた。隣に乗せる相手は誰でも良いわけじゃない。バイクじゃなくても、車にたったふたりであればふたり乗り。前の車のブレーキランプでふたりの顔は赤く染まる。そんな時間帯になると、隣に乗る相手のことをふと考えてしまう。

あなたと海へ行ったときは、潮風がすこし肌寒くも感じられる夏の夜だった。遠くでは海で夜を越すのか、停泊中の船たちの光。そんな小さな光たちは、宝石のようにキラキラ輝いていて、私たちふたりを見ていてくれる。光は私達ふたりがふたりきりで、確かにここに存在していた、生きていたことの証明者だ。空いっぱいに輝く星たちも私達ふたりを見ていてくれる。真っ暗なときも、ふたりの時間を光たちは彩ってくれる。光があれば、真っ暗でも貴方の顔を覚えておくことだってできる。

海辺の公園の椅子は石でできていて、ひんやりとしていた。夏になると、夜が好きになる。夏の夜はやさしい。心に静寂とひんやりとした心地の良い寂しさをくれる。今年はどんな二人乗りで何処へ行こう。夏が来る、もうすぐ、夏が来るよ。好きだったひとたち、どんな夏を過ごすのだろう、どんな夜を生きるのだろう。今年の夏、私はどんな相手と、どんな光を見るのだろう。どうか過去の貴方たちは、夜の寂しさを感じずに息をしていてくれればいいなと勝手なエゴを思い浮かべ、ふかふかの布団に潜る。

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