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Photo by
osmr147
俎板の上
そうしてまた悲鳴にならない
悲鳴が飛び交う市場の賑わいのなか
売り買いされるものをみつめる
切り刻まれるのは
爼上に挙げられた
言葉が指さす人たち
他人の顔をしているが彼らが
彼らのためにつくりあげた食材だ
誰もが無意識に人を捌いている
市場の賑わいが
それぞれの戸口に
呑まれていく夜に
俎板の上で私も誰かを切り分けていく
耳を削ぎ鼻を削ぎ平らかにして半分に
切り分ける、眼輪筋が美味しいよ
眼玉がぐるん、と後ろを向いた
みていられない? お前は私なのに
顔は悪いけど髪だけはとても
艶やかと撫でたのは誰の手?
もう忘れてしまったんだ、と
切り分けておいた唇が耳に囁いて
鼻がすん、すん、と細く筋ばった
指の先を嗅いでいる、指輪はどこに
やったんだっけ?
テーブルの上には僕や
君や私やあなた、全て私から
作られたのになんて多種多彩
骨灰磁器の上、活き造りの
唇から指輪がはみ出し
私は私たちで食卓を囲んで黙々と
食い尽くしていく、綺麗さっぱり
骨灰磁器はしまい込まれ私という
私たちも、棚や冷蔵庫、冷凍庫に
収まっていき、灯りが吹き消される
テーブルの下で膝を抱えて眠る私の
指にそっ、と指輪が嵌められて
また私、は生まれ始める、次の
食卓のためにテーブルを磨き
花を飾りゴミを捨て戸口に立つ
捨ててしまいたい指輪を光に透かして
また市場へ、また市場へ、そっ、と
俎板の上を爪弾くようにつま先で歩く