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駅
地元の駅ビルに用があり、車を走らせてた夕方のことだった。
「電車に乗ればここから外に出られるんだよなー」
いつからか生まれ育った街に愛着がなくなったような感覚がよぎった。
初めて一人で電車に乗ったのはいつだったっけ。
たしか、高校生の頃。
大学のオープンキャンパスと受験で東京に行った。
初めて一人で電車に乗って県外に行くことは冒険で、未知で、恐いものだったかもしれない。
田舎者だった俺は電車が隣の県に入って、地元では見かけない制服の中高生が車両に乗ってくるだけで異国感を感じていた。
ゆえに、東京なんて当時の気持ちでは情報量が多すぎてキャパオーバーだった。だけど受験は無事に終わった。
そこから進路も東京に決まり、19歳で上京することとなった。
初めての暮らす東京は当時の俺にとって情報がありすぎた。
新宿や渋谷の駅の複雑さ、街の汚さ、すれ違う人たちの忙しなさ、何もかもが新しくて恐ろしさすら感じた。
「ここで暮らしていくなんて俺にはできない」
就活のときに改めて感じて、今住んでいる地元に戻ることとなった。
生まれ育った街がいい。東京と違って人の流れもゆるやかだ。俺はこういう場所が合ってるんだ。
そんな感覚で内定も決まらないまま地元に戻った。
社会に出て8年。30歳にもなると流石に感覚も変わるようだった。
仕事が嫌だったりとか東京、大阪でよくやるようなイベントがないとかちょっとした不満はあるが、決して暮らしは不自由ではない。
大切に想っている人たちだっている。それが地元に居続ける理由でもある。
だけど心は日に日に空虚さを感じるようにもなっていた。
昨今の経済状況で日本が貧しくなって、地元は暗くなったとも感じる。
地元の活気はなくなりつつあり、夜の街頭の暗さと冬のイルミネーションの寂しい光がより虚しいものとなってたりする。
現状の仕事の不満とも重なるが、仕事も地方が故に製造業の工場向けの商売ばかりで何事にも新しさを見出せずにもいる。
眠れない夜に車で街を走らせても、便利な世の中になったからこそ本屋もなく、ひたすらに暗い道が続くばかりだった。
新しさが入りにくい、暗い夜道が続くかのように、日々萎びていく自分を感じる。
外に出たい。
新しい何かを見たい。知りたい。
俺が生きるヒントがほしい。
答えを見つけたい。
そんな感覚なのかもしれない。
5,000円もあれば東京なんて往復できる。
電車乗って2時間乗れば東京なんて行ける。
もっと金と時間をかければ大阪も行ける。
外へなんて簡単に出られるはずなのに。
ほんとうはもっともっと自由なはずなのに。
10年の時を越え、今度は違う葛藤を地元の駅の景色を見ては思う。
あぁ、今年もまた夏が始まる。