ある道のデッサン
人家の間に繁る木々からちょこんと顔を出した小柄な月の光を受ける草花や用水路やのただ中で彼は佇んでいる。買い物をするときに毎度通る、人気の無い通りの途中で、ふと脇道に逸れたのだった。そこから5分も行けばよく知る大きな通りに出て、苦もなく帰れるはずなのだ。見知った通りを背にして、前方に見知った通りを予感する。傍を流れる水は、どこからどこへ流れるかは知らずとも、どこかで会ったことはある水だ。彼は光を湛えているかのような猫を見て足を止め、はたと月を眺めた。猫はよそのと変わるまい、月は昨日と変わるまい。彼はいま、何に驚いているのか。彼はどんな暗号を受け取ったのか。弾むような足取りで家路に就いて、しばらくしてまた月を見ると、彼は悲しい気持ちになった。
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