林檎鮫

短編小説をちまちま書いてはあげていきます。出来ちゃったので投稿する、みたいなアカウント…

林檎鮫

短編小説をちまちま書いてはあげていきます。出来ちゃったので投稿する、みたいなアカウントです。

最近の記事

神様

今日は満月である。 満月になったら世界が覗きやすくなる。 今日の世界はどうだろうか? そっと穴を覗き込む。 人々もこちらを気にしているようでドキッとした。 またゆっくりとこの穴を半月かけて閉じていく。 世界を覗くのは一月に一回と決めているのだ。 「あのウサギみたいな影はおまえかよ」と、生意気を言った人間のことを思い出す。 心臓をカリカリと掻いた。 また誰か遊びに来てくれたらいい。

    • 短編小説 【 奈、無、 】

       あと少しだった。 あと、一日だった。  (土砂降りだった。)  あの日の二日前、私はいつも通り仕事のために隣町へ向かう。毎日 長めに待たされる交差点には電気屋。入口に体重計とドライヤー。 真正面、信号機と向かい合って五台置かれたテレビから、毎日ほんの少 しだけ世間の事を知る。そこで、明後日を知った。  (無いものねだりな私になるまであと少し。)   あの日の前日、いつものほんの少しだけのテレビに、私は目が釘付けになった。 信号は青だった。 赤になった。 青になった。

      • 短編小説 【贖罪のメリーゴーランド】

         閉園十分前。土砂降りの遊園地。誰も乗らないメリーゴーランドは私だけを乗せて、楽しい音楽と煌びやかな電飾で、最上級の虚しさを演出していた。そこで一人、真っ白な白馬の上にて、私は吐血した。冷や汗が止まらないのに、メリーゴーランドは止まらない。地獄のような悪夢のような現実をぐるぐる回す。職員は気づかない。ロボットのように機械を動かし続け、それが終われば閉園の準備を進める。私はこのメリーゴーランドの最後のお客であるようだった。  傘をさした子連れの家族、あるいは学生たちが楽しそうな

        • 短編小説 【水溜まりの記憶】

           水溜まりの水を頭から浴びるには。  くるぶしを、水溜まりに浸してみた。そのままお辞儀をして頭から水溜まりにどぶん。更にそのまま、深く深く水に潜った。身体全部が水溜まりまみれ。成功。  耳に付けっぱなしだったイヤホンが、雨上がりの唄を流したままで上へ上へと消えていく。満足したので元の水溜まりに戻ろうと空を見上げた。  小さな窓がたくさん見える。街中の水溜まりが空の上。  時々、黄色い長靴が光った。  時々、カエルと目が合った。  革靴を履いた人間の舌打ちが何回もこだました。

          短編小説 【桜のち】

          「街角の 桜溜まりの霞より 赤へ赤へと 春を消し去る」 「何それ」 「短歌だよ」 「…ふぅん」 学校の帰り道のいつもの河川敷を、りっくんと2人で歩いていた。今日は大学3年の始業式で、今日はとても調子が良くて、明日からも調子が良いままだといいなぁと思っていた。数日前までしっかりと調子が悪かったので、私はまだ、春を満喫出来ていなかった。私が春を満喫する為に詠んだ短歌は、私たちの周りの空気を少しだけ澱ませた後、りっくんの「ふぅん」と一緒に風に乗って消えていった。桜の木がこれでもかと

          短編小説 【桜のち】

          短編小説 【 先輩 】

           先輩はやたらと高いところが好きで、よく私を連れて行ってくれました。オフィスビルの31階にあるドトールコーヒー、「アメリカみたいな夜景だね」ってアメリカの夜景なんて見た事もないのにそう呟いた展望台、無言で乗った日本一大きな観覧車。  「人間っちゅうのはな、地に足つけて生きる生物やねん。それやのにそーんな高いところが好きやなんて、あいつ、ほんまの阿呆やで。阿呆やし多分鳥や。知らんけど。」  と、店長はよくそう言っておりました。店長は高いところが駄目なのです。そしてきっと先輩の前

          短編小説 【 先輩 】

          短編小説 【真っ白部屋】

           いつもはあの忌々しい灯台がよく見える私の部屋は、雨が降ると真っ白で何も見えなくなってしまう。だから私は雨が好き。  今日は雪の日だった。灯台の明かりがぼんやりと優しく窓から入ってきて私の手帳を照らした。捨てることも開くことも出来ぬままで放置している去年の手帳には、十二月三十一日に大きなバツ印。そう、 私が、灯台近くの海に私を捨てる、と決めた日。   今日は私の四十九日。

          短編小説 【真っ白部屋】

          夜溜まり

          4歳くらいの時、「夜はどこから来るの?」 と、母に聞いた。 「あっちの方から来るんだよ」 と、母は坂の下にある森の麓をゆびさした。 今思えばそれは「西」だった。 「西」をまだ知らなかった私は、昼間でも暗い森の麓に 「夜が溜まっている」のだと思った。 それから数日、夕方になるとそこをじっと眺めていた。 溜まった夜が流れ出すのを待っていた。 母の言う通り、夜はそこからじわじわと流れ出た。 私は怖くなって「西」を知るまでそこに近付けなかった。 下手に触れば、昼だろうと夜が溢れ出して

          夜溜まり

          短編小説 【異常者マンホール】

          「聞いた?2組のかんちゃん、異常だって」 小学6年生の春の健康診断。そこで隣のクラスのかんちゃんは“異常”の診断を降された。 「やっぱりね。だって、先生に当てられても一言も喋らないんだもん。」 私は嘲笑気味にそう吐き捨てた。かんちゃんは人前で話せないようで、いつも先生にあてられてもだんまりを決め込んで授業を止めてしまうような子だった。でも、どうでもよかった。別に“異常”になったって死ぬわけじゃないでしょ。正直うんざりしていたのだ。かんちゃんが先生に当てられる度に授業が中断する

          短編小説 【異常者マンホール】

          自覚多重人格(仮)

          仕事に行く前の朝の私 仕事終わりの私 違う人です 短編小説や詩を書く私 SNSに投稿する私 も違う人です 朝と夜とで別人です さっきと今でも別人です もはや月始と月末で別人です こんなにもいろんな私がいるのなら 記憶がちゃんと繋がってるだけで もはや多重人格じゃないか こんなにもいろんな私がいるのなら 私同士で喧嘩するのも当たり前じゃないか 私が私を批判しても おかしくないじゃないか いろんな私が仲良く生きれるように 次の私を予測しないと 明日の私が怒らないように

          自覚多重人格(仮)

          短編小説 【美味時間】

          休日の正午過ぎ、時間をカフェオレに溶かして飲んだ。 1時間分。 飲み終わると、当たり前だが1時間が過ぎていた。 「また時間を溶かしたの?あーあーそんなに無駄にして…」 「無駄って言わないでよ、美味しく頂いたんだから。」 呆れた顔の母。母にはこの味がわからないらしい。 「時間は溶かすものじゃない、過ごすものだ」 これは母の口グセ。私の耳には立派なタコが出来た。 「昨日は何してたの?」 「昨日は丸ごと飲んじゃいました。」 そんな日もある。 そんな次の日はこっぴどく叱られた。母から

          短編小説 【美味時間】

          欲張りさん。

          ロウソクに  時々灯る恋でいい 燃えあがったら灰になるから 小さくゆっくり照らして 風のあまり吹いてない少し寂しい夜に そっと灯して それだけでいい コップ一杯の愛で構わない 溢れてしまえば溺れ死ぬから だけど乾く前に気づいて 思い出したような少し切ない夜に そっと注いで それだけでいい

          欲張りさん。