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祭りは既に始まっていた。
2024年4月21日。上宮津祭の本日(ほんび)。
仕事終わりの午後17時半頃、小雨降るなか生田神社へ駆けつける。ちょうど、太刀振りに続いて二台の屋台が鳥居をくぐろうとしているところだった。
少し離れて見ていると、近所でお世話になってるKさんがこちらに気づいてくれた。「夜中2時から寝てないねん」と目を赤くしながら笛を鳴らす彼。そう、上宮津祭の始まりは夜明け前。「過酷。でも楽しいね。ほら、もっと近くで見ておいで」
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神社の中へ入ると、神楽が始まった。口を大きく開けたり、体を捻ったり、駆け回ったり。なんとも動きの激しい神楽。「怒った〜怒った〜」というかけ声とともに、身を奮い立たせるあの動きが目に焼きついている。
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続いて、太刀振り。笛や太鼓の音に合わせて、しなやかに力強く振り踊る姿。"次はお前だぞ"と託されたものを背負い踊る姿。私にはないもの、ない感覚。羨ましくも、そこへはきっと踏み込めない。
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雨の一日。気づけばあたりは暗く、提灯の灯りが赤々と光る。眠気や酔いで朦朧と、うつろな表情を浮かべる人がたくさん目に映る。
長い一日。上宮津祭が終わりを迎える。
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2024年4月22日。上宮津祭の翌日。
昨夜聞いた笛や太鼓の音が、頭の中を巡る。不安定なようで、祭りや心を導き続けるあの音色が、しばらく耳から離れない。音のない町が少し寂しい。
仕事終わりに少し駆けつけただけなのに、なぜあれだけ感じるものがあって、目や耳から離れず、もはや寂しさまで感じるのだろう。
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あぁ、そうか。
祭りは既に始まっていたんだ。
祭りというと、本日(ほんび)ばかりに夢中になっていたけど、違う。それまでにも毎晩のように練習が行われ、町には笛や太鼓の音が響いていた。近所を歩けば「そろそろ祭りの準備せななぁ」「今年はこの役やで気張らなあかん」なんて声が聞こえてきて。町が、ごく自然に、どこかひとつの場所へ向かっているような空気に包まれていた。
そして、私は知らない間にその中にいた。
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笛や太鼓の音が耳から離れないのも、聞こえてこない町に寂しさを覚えるのも、ただ本日(ほんび)を数時間見たからじゃない。知らぬ間に長い間耳にしていたから。ひとつに向かうその町の中で時を過ごしていたからだ。
祭りは既に始まっていた。
既に心は祭りへ向かっていた。
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暮らしの中に祭りが、伝統があること。
町や人がひとつへ向かう日があること。
誇りだと思う。