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「なんか日々消耗している」大人のための小説、モモ(ミヒャエル・エンデ作)の書評

読書は嫌いではないが、読んだ本の記憶を片っ端から忘れていく人間なので、書評を残すことにしました。#アフリカ読書チャレンジ

まず、これは全然児童文学じゃない。

町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります…。「時間」とは何かを問う、エンデの名作。小学5・6年以上。(「BOOK」データベースより)

個人的対象年齢は22才以上。社会に出て忙しく働いて、「今たくさん頑張ればあとあと楽になるんじゃないか」とか、「時間を有効に使わないと、一生は短いんだから!」とか思ってる全ての大人がターゲットです。

どんなに効率化を考えて時間を節約しても、それらが蓄積されて数十年後にプレゼントされるなんてことはない。あなたが未来のために貯めていると思っている貴重な時間たちは、資本主義に飲み込まれ社会に消耗されているだけ。本当に幸せな時間の使い方ってなんだろう?を考える本。(小・中学生にはさすがに荷が重いのではないか・・・?)

読んだのは人生3回目だが、今回が一番刺さった。

刺さったポイントなど引用 ※ネタバレ注意

1. 大きなことを成し遂げるには、次の一歩のことだけを考えること

「とっても長い道路をうけもつことがあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、こう思ってしまう。」
・・・(省略)・・・
「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。」またひと休みして、考えこみ、それから、「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな、たのしければ、仕事がうまくはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」

ミヒャエル・エンデ,大島 かおり. モモ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1601-1607). Kindle 版.

道路掃除夫ベッポのセリフ。深すぎる。今わたしはアフリカで新規事業を立ち上げて軌道に乗せて現地の人たちの生活をちょっとでも変えるぞ、という大きな目標を持っているけど、ずっとそればかり見ていると疲弊してしまう。

マネジメントの立場では中長期を考えることも大事だけど、中長期の戦略や計画を一度立てたら、あとはそれを信じて目の前の仕事に集中する。そして時々、2週間に一度とか1ヶ月に一度とか、ふと後ろを振り返って「このまま進んでて大丈夫かな」を確認する。

そうやって「視野の上げ下げを能動的に行う」ことが、息切れせずに大きなことに向かう時のコツなんだろうなと思う。

2. 文明の利器を導入して何を得るのか

毎日、毎日、ラジオもテレビも新聞も、時間のかからない新しい文明の利器のよさを強調し、ほめたたえました。こういう文明の利器こそ、人間が将来「ほんとうの生活」ができるようになるための時間のゆとりを生んでくれる、というのです。

ミヒャエル・エンデ,大島 かおり. モモ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3173-3179). Kindle 版.

ルンバとか洗濯乾燥機とか、絶対買いたいと思ってたけど、それらの導入によって浮いた時間を「さらなる仕事に当てる」ならめちゃくちゃ本末転倒だなとハッとした一文。

結構前に話題になったこのnoteを思い出しました。

結局どんな文明の利器も、その前提として「人間らしい暮らし」「豊かな時間の使い方」を知らないと、全く功をなさないよねということを改めて突きつけられたワンシーン。

3. 時間を節約すればするほど、生活はやせ細っていく

時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしているということには、だれひとり気がついていないようでした。じぶんたちの生活が日ごとにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、だれひとりみとめようとはしませんでした。
・・・(省略)・・・
けれど時間とは、生きるということ、そのものなのです。
そして人のいのちは心を住みかとしているのです。人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。

ミヒャエル・エンデ,大島 かおり. モモ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3313-3316). Kindle 版.

時間をケチケチしない!!

4. 「成功すること」は何よりも大事なのか

「人生でだいじなことはひとつしかない。」男はつづけました。
「それは、なにかに成功すること、ひとかどのものになること、たくさんのものを手に入れることだ。ほかの人より成功し、えらくなり、金もちになった人間には、そのほかのもの友情だの、愛だの、名誉だの、そんなものはなにもかも、ひとりでにあつまってくるものだ。」

ミヒャエル・エンデ,大島 かおり. モモ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4140-4151). Kindle 版.

時間泥棒(敵)のセリフ。時間泥棒は資本主義の風刺みたいな存在なので、これはある意味で暗黙の了解になっていることだと思う。でも、本当の友情や愛を育むための時間を節約したら結局何も得られないよね!

時間を何に使うことがもっとも有意義(という表現はモモ的には微妙かもだけど)で大切なのか、を今一度考え直したい。

5. 心が時間を感じ取れないなら、それはないも同じ

「時計というのはね、人間ひとりひとりの胸のなかにあるものを、きわめて不完全ながらもまねて象ったものなのだ。
光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ。ちょうど虹の七色が目の見えない人にはないもおなじで、鳥の声が耳の聞こえない人にはないもおなじなようにね。でもかなしいことに、心臓はちゃんと生きて鼓動しているのに、なにも感じとれない心をもった人がいるのだ。」

ミヒャエル・エンデ,大島 かおり. モモ (Japanese Edition) (Kindle の位置No.7117-7124). Kindle 版. ​

時間を司るマイスター・ホラのセリフ。ちゃんと時間を心で感じよう!!!!

まとめ

自分が充実感や喜びを感じるために働くのは素晴らしいこと。でもいつの間にか働くために生きているならそれは本末転倒。自分の貴重な時間は自分にしか使えないし、今日いまこの時にしか使えない。

時間とは生きることそのもの。時間を節約すればするほど生活はやせ細っていく。刺さるよ〜〜〜。

日々なんか消耗してるなあ!っていう人にはオススメです!おわり!

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