スポーツ中の脳震盪:自律神経のチェック方法、氷水を用いて
こんにちわ、Calant Sports Rehab & Performanceの爪川です
今回もスポーツ中の脳震盪に関しての文献をご紹介したいと思います
脳震盪を受傷すると身体の様々な機能に影響を及ぼしますが、そのうちのひとつに自律神経への影響があります
自律神経の役割も多岐に渡るのですが、心拍数と血圧のコントロールも自律神経によって制御されています
ですので、もしスポーツ中の脳震盪により自律神経の機能が低下してしまうと、心拍数や血圧をうまくコントロールできない可能性が出てきます
運動を行うと通常であれば心拍数や血圧は上昇しますが、脳震盪によって自律神経が影響を受けているとこれらをうまくコントロール出来ずに、脳震盪の症状の悪化などに繋がります
脳震盪からの復帰段階でも自律神経に機能の低下があるままだと、心拍数を上げる様なこと(例えばバイクなど)をすると症状の悪化がみられます
ですので、スポーツ中の脳震盪が起きた後は自律神経に影響があるかどうかをチェックする必要があります
今回ご紹介する文献では、この自律神経の機能を氷水に手を浸けてからの心拍数や血圧の変化によって評価することを試みています
通常であれば氷水に手をつけたら心拍数や血圧は上昇しますが、同じことを脳震盪を受傷した患者や選手が行ったらどうなるのか?
このことを実験しています
今回の文献はこちら↓
題名は「脳震盪を受傷した大学生アスリートのコールドプレッシャーテストへの心臓血管反応の減弱」
この実験では大学生のアスリートを対象として実験を行います
男女5名ずつ、計10名の1週間以内に脳震盪を受傷した大学生アスリートのグループ(脳震盪グループ)と男女5名ずつの健康で日常的に運動をしているグループ(健康グループ)が研究に参加しました
実験内容は氷水(約0度)に右手首まで手を浸けます。その状態を2分間キープし、実験前、実験中30秒ごと、実験後30秒ごとの心拍数などの数値の変化を記録します(研究ではこの氷水に浸けるのをCold Pressure Testと呼んでいます)
心拍数以外にも最高と最低血圧、一回排出量、心排出量も計測していましたが、わかりやすく現場でも計測しやすい心拍数と血圧をここでまとめます
心拍数の結果が以下のグラフです↓
上の赤い枠に囲まれたのが、氷水につけてからの心拍数の変化です。黒い丸が健康グループ、白い四角が脳震盪グループです
下の赤い枠は計測したタイミングを示しており、Baselineとは氷水に手をつける前に計測した数値、その次の4つは氷水に手を浸け始めてから30秒後、60秒後、90秒後、120秒後、最後の2つは氷水から手を出してから30秒後と60秒後の計測結果です
上の赤い枠のグラフを見ると、脳震盪グループは氷水に手をつけてから30秒後、60秒後、90秒後と氷水から手を出して60秒後の数値が健康グループと違う反応を示していることがわかります
ただし、このような科学的実験では統計学的にどの程度信頼性があるのか(数値は違うけど誤差の範囲なのか?などなど)ということを調べるのですが、この心拍数の変化に関しては脳震盪グループと健康グループでは違いはあるけれども、統計学的に有効な差ではありませんでした
次に血圧をみていきます
右上の赤い枠が最低血圧の変化、左下の赤い枠が最高血圧の変化です
先程のグラフと一緒で黒い丸が健康グループ、白い四角が脳震盪グループの数値を示しています
どちらの血圧のグラフも健康グループは脳震盪グループよりも氷水につけることによって上昇しています
そして心拍数の時と違い、最高血圧も最低血圧も統計学的に脳震盪グループと健康グループの差は有効でした(統計的に有意と表現します)
どちらの血圧も氷水に浸けてから60秒後、90秒後、120秒後、氷水から手を出してから30秒後の数値が統計的に有意であり、この発見は脳震盪患者は氷水に対しての血圧の変化が健常者と異なることを意味しています
冒頭にも書きましたが血圧は自律神経によってコントロールされているので、この脳震盪グループは脳震盪の影響により自律神経の機能が低下し、血圧のコントロールが健常者と比較して違いが出たという様に解釈出来ます
まとめ
脳震盪を受傷すると様々な症状があり、その症状の原因の一つに自律神経の機能低下があります。脳震盪後の対応やリハビリで難しいのは、全ての脳震盪患者が自律神経に機能低下があるわけではなく、症状やその原因は本当に十人十色なところです。ある方は自律神経の問題が大きかったり、違う方はバランス能力の問題、違う方は首の問題など様々ですし、複数の要因が重なる場合の方が多いです。ですので、目の前の脳震盪患者がどの原因で今の症状が出ているのかを適切にチェックする必要があります
今回の研究では、もし目の前の脳震盪患者が自律神経に機能低下を起こしている場合であれば、氷水に手首を浸けてからの血圧の変化を見ることで、自律神経が正常に働いているかどうかを判別できます
ただし、この研究では被験者がまだ10名の大学生であり、この発見を今すぐに現場に落とし込むのはまだ早いのですが、今後の研究でより詳細なことがわかってくるのだろうと思います
参照文献
Calant Sports Rehab & Performance
代表:爪川 慶彦
www.calant.org
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