ブラック企業で輸出管理が崩壊していた話
営業からの書類
ある日、営業から仲介貿易の輸出審査書類の提出がありました。
添付書類を見ると、少し前の日付の輸出用インボイス、そしてAWBがセットで提出されていました。
輸出審査なのに、なぜAWBがついているのか。
出荷状況について営業に確認します。
すると既に得意先へ納品済みとの事。
社内審査を行わず、仲介貿易取引が行われていたのです。
事後対応となった社内審査
書類審査を大至急行います。
幸いにも過去に出荷実績のある貨物で、非該当である事はすぐに確認が取れました。
また、取引実績のある得意先であり、需要者確認も問題なし。
該当品、需要者要件該当であれば無許可取引として行政制裁・罰則の対象となるところでした。
状況を役員へ報告します。
事後処理
役員からの指示は、輸出審査書類を過去の日付で作る事。
つまり、仲介貿易取引の前に審査した事にしていました。
営業担当には取引前に審査書類を出すようにと、メールして完了。
実態
営業部隊は輸出管理の重要性や、社内審査の手続きが全く浸透していません。
輸出管理を理解している人員が、前線・管理どちらも退職済みであり、全社的な知見は低下していました。
その実態として、審査書類の該当・非該当もかなり適当に判定して提出されていました。
なので、仲介貿易取引の審査を事後で平気で提出してくるという事も起きたのです。
また、事後処理においては、納期最優先で手配しなければ商談が無くなっていたという営業の言い分の方が、輸出管理の重要性より役員の耳に届きました。
その結果がこの事後処理です。
経営層が輸出管理を軽視
一応CP届出を行っていた企業です。
外為法等遵守事項に基づいて、社内審査はもちろん、教育、監査や文書保管も行わなければなりません。
酷すぎてここには書けない対処をしている場面も見かけました。
「これが軍事用途に使われるわけないだろう。非該当でいいんだよ」
「法律じゃなくて商材の事をもっと勉強しろ」
「そんな細かく調べているから仕事が終わらないんだ」
「商談が消えたらどうするんだ」
「営業にとにかく負担をかけるな」
営業利益が最優先、営業部隊の足を引っ張るなという社風。
その為ならグレーな事も厭わない。
昨年ニュースになったビックモーターが他人事とは思えなかったです。
輸出管理は管理部門の雑務の一つくらいにしか見られていません。
社内審査の不備であれこれ営業へ指摘していると、上司が目くじらを立てて何をやっているんだと言う始末。
こんな状況の中、真っ当な管理が出来るわけありませんでした。
民間企業の自主管理に思う事
輸出管理内部規定を経産省へ届け出る事が、予防法務の観点から自主的に実施する法令順守の取り組みとして決められています。
この予防法務の自主管理が真っ当に出来ているのは、コンプライアンス意識が高い大手企業のみではないでしょうか。
国に都度申請するわけではなく、社内の輸出管理へ審査をさせるというのは一気にコンプライアンス意識のハードルが下がります。
営業利益重視、管理部門の仕事は軽視、というような社風の中では自主管理は成り立ちません。
中堅規模程度の企業では、企業体力があるわけでなく輸出管理にも人員を割いてくれないのが実態です。
特に、世襲制かつ非上場企業であれば最悪です。
経営者一族に対してのイエスマンしか上層部に残らず、トップが輸出管理の重要性を全く理解していない指示が末端にガンガン降りかかります。
そうして、輸出管理は他の貿易実務等の片手間程度で行わなければならず、十分な審査も出来ない最悪の激務環境が仕上がります。
営業・管理部門ともに理解している人間が、綱渡りで仕事を回しますが、一向に上層部の理解力は変わりません。
優秀な人は見切りをつけて次々退職し、全社的な知見は無くなります。
私が中途入社したのは、優秀な人が退職したタイミングの人員補充でした。
地獄を見て分かったのは、企業の自主管理が機能せずともビジネスはギリギリ回ってしまうという事です。
まとめ
法律の仕組みが悪いのか、どんな仕組みならブラック企業でも自主管理ができるのか、まだ私の中で結論は出せていません。
現在は、真っ当な企業に転職して輸出管理を担当しています。
ブラック企業は全てを投げ出したくなるほどキツい経験でしたが、管理を緩めればどうなるかを身をもって知りました。
崩壊した現場を作り出さないのが使命だと思い、今は取り組んでいます。
結論は急がず、これからじっくり考えていきます。