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ブラック企業エピソード:理不尽な上司と該非判定書

ブラック企業の元社員です。

当時所属していた組織は、トップダウンの有無を言わせぬ空気がありました。その空気は末端の仕事にも影響が及びます。
該非判定書作成に関する小話です。

該非判定書は該非判定を行った結果を記した書面のことです。該非判定書には決まった書式はありませんが、製品の名称、型式等を記載することでどのような貨物、技術であるか、またそのスペックを特定し、該当項番、判定結果、判定根拠を明確に記載し、判定日を記載することで法令改正に対応しているか判断できる必要があります。

日本商工会議所

パワハラと該非判定書

「16項の該当、非該当ってどういう事だ」
ある日残業中に上司から聞かれました。
状況を伺うと該非判定書を作ろうとしているとの事。

上司は営業畑を歩んできており、貿易の事は全く理解しないまま役員へ就任した人です。
該非判定書が何なのか理解していないまま作成しようとしている様子。
当時貿易実務担当だった私は輸出管理は専門外ですが、輸出管理担当者は鬱病、同部署の総合職は退職して誰も居なかった為、ラストマンの私に質問が飛んできました。

大至急、16項(キャッチオール規制)について調べます。
会社の書庫に入っていたCISTECの輸出管理冊子を引っ張り出し、16項は関税分類によって非該当となる事を理解しました。
経産省が公表しているリストも見ると、食品や木材等の1部を除くと、殆どのHSコードがキャッチオール規制対象品目となっています。

該非判定書を作ろうとしていたのは電子部品。
私は通関士資格は持っており、HSコードの分類は素人よりは分かるのですが、明らかにキャッチオール規制対象品目に該当する貨物です。
よって該非判定書の以下の項目には該当にチェックを入れるべきだと考えました。

16項(キャッチオール規制対象品目)に □該当 □非該当 と判定いたします

該非判定書 16項記載イメージ

すぐ調べ上げた内容を上司へ報告します。
しかし、返ってきた反応は思いも寄らないものでした。

「該当?この部品が軍事に使われるわけないだろう!」
「俺はそこまで調べろと言ってない。部品を理解していれば非該当とすぐ分かるはずだ」
「お前は商材の勉強不足だ。勉強会に強制参加させる」

上司は自分の頭に正解があって、それに沿わない意見を述べると激昂する傾向がありました。
法律を根拠に説明しても、頭に血が上ったら基本話は通じません。

説教にシフトチェンジした該非判定書の相談は、あらぬ方向にいき、私は勉強会参加&勉強報告を課されました。
残業100時間ペースで限界が近づいている頃で、これ以上の仕事は勘弁してください状態にあり、反論する気力が削られました。

その取引が力を入れている商談なのは分かっています。
だからと言って、ここまで聞き入れてくれないのは予想外でした。

「もういい、これは非該当で作成する」

あの一生懸命調べた時間は何だったのか。
こんな理論で作ってしまっていいのか。
失意の中、その該非判定書が16項非該当で作成されるのを横で見る事になりました。

キャッチオール規制(16項)とは

日本の輸出管理は、リスト規制(1-15項)とキャッチオール規制(16項)で構成されています。
リスト規制では、具体的な規制品が一覧として掲げられており、貨物とそのスペックによって輸出を規制します。
一方、キャッチオール規制は、リスト規制以外の貨物を客観要件(需要者要件、用途要件)で規制をします。
リスト規制を補完する、第二の規制の役割です。

・どのような需要者へ輸出するのか
・どのような用途で輸出するのか

キャッチオール規制対象品目となる貨物は、上記の点で審査し、懸念のある需要者に輸出する場合や、軍事用途で輸出する場合に経済産業省へ許可申請をしなければなりません。

経産省:16 項貨物・キャッチオール規制対象品目表
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/t07sonota/t07sonota_kanzeiteiritu.pdf

対象品目は関税定率表のHSコードによって決められています。
表の通り、食品や木材はそもそも軍事に使われようもないので対象品目から外されており、それ以外は基本的に対象品目となります。

輸出企業が発行する該非判定書には、このキャッチオール規制対象品目かを記載する欄があります。
上の話はその部分をどう書くかという事でした。

16項(キャッチオール規制対象品目)に □該当 □非該当 と判定いたします

該非判定書 16項記載イメージ

結果としては、幸い客観要件に該当する取引ではなかったので、この部分を書き違えていても問題にならなかったようです。

ブラック企業の組織風土

第一に、お上の機嫌を取ることです。
絶対君主的な存在である創業者一族が経営層にいました。
プロパーから成り上がった役員も創業者一族には頭が上がりません。

トップダウンで拡販の指示が出れば、それが絶対となる空気です。
トップの指示を役員はそのまま下の者に振りかざします。

「会社命令だ」
この言葉をリアルに聞いたのはあの組織だけです。

今回の該非判定書の話に戻りますが、貿易業務は信念を持ってやっていたので、意見を聞いてもらえず軽視されるのは苦痛でした。
それに、適当に作るのは外為法違反リスクも高すぎます。

しかし、当時の背景を振り返ると、トップの指示でこの仕入先の拡販を求められていた頃でした。
貿易を軽視していた上司にとっては、該非判定書作りは些末な事と見ていたのでしょう。
輸出商談を進める中で、細々と法律の話をする部下の言葉には耳を貸さずにさっさと作って終わらせたい気持ちがあったと思われます。

トップダウンが強すぎる組織では、逆らわずに従う者が出世していました。
ノーと言わせないトップの指示、軍隊のような組織風土から、このような細かい業務の綻びとして表れてきたのです。

私の関わった貿易業務は氷山の一角で、他にもあると思います。

ブラック企業の歪んだ常識は、絶対君主と従順なプロパー管理職達によって醸成されていました。

従う事への苦痛

あのような組織で仕事をするには従順になるしかありません。
トップが強すぎるので、時に合理的でない事もやらされます。

信念を持って仕事をしている人ほど、耐え難いストレスです。

退職した今だからこそ客観的に書けますが、当時あの風土の中で異を唱える事は難しかったです。
自分の信念と会社の常識、この方向性が一致している事が大事だと痛感した出来事でした。

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HANA
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