晩秋の暁月
1日目
暑い季節はとうにすぎ、目覚める時間の曙色の日差しが秋から冬に変わっていく日々を感じさせていた、2021年11月19日の13時ごろ。
誰もいない秋葉原のホテルのロビーで、一本しかないフロントへの動線を睨むかのように見つめていた。
初対面の面々がほとんどのオフ会の初日待ち合わせだ。
初対面ということもあり、どういった心持ちで望めばいいかすこぶる悩んだ。悩んだ結果、することもないので動線を見つめていることにした。インパクトは大きい。
エレベーターの音が鳴り、2人やってきた。最も早いチェックインまで1時間あるので、たぶん待ち合わせしている友人たちだろうとは思った。2人がフロントに向かって歩いている数歩、一瞬手が見える。片方の手に見覚えがあったので、すぐに判断はついた。
2人とも荷物を預け終わったようで、こちらに向かってきた。第一声が何だったか、正直覚えていない。緊張していたのだと思う。とりあえず近くの店で昼を食べるということは決まっていたので、前に行ったことのあるビアホール形式の店に行くことを勧め、そこへ行くことになった。
エレベーターに乗って、ホテルを出て、徒歩2〜3分ほどの店は向かう。しかしその間も、なんとなくのぎこちなさを感じている。声や文章ではこれまでやりとりしていたものの、いざ初めて会うとなると何故か話題を無理矢理探そうとしてしまう自分がいた。かといって何か適切な言葉が見つかるわけではなく、探そうとすればするほどこぼれ落ちていく。
ビアホール、だった店は店内を改装してあり、仕切りなどがある普通の飲食店になっていた。時代だ。
席に座ってメニューを見る。ビールとソーセージを頼む。VCでよく飲酒をしている3人ではあるが、当然顔をあわせて酒を飲むのは初めてだ。グラスを合わせて乾杯をする。
昼間から飲む酒はうまい。会って30分ぐらい経ったからなのか、アルコールが入って変な緊張がとれたからのどちらかはわからないが、この辺りになるともう微妙なぎこちなさはなかった。ビールを飲み、ソーセージを食べ、ビールを飲む。何を話したかもう覚えていないほどのたわいのない話をし、ゆったりとくつろいでいた。座り方さえも徐々に変化し、入店時はちゃんと一人分のスペースのみ使っていたが、後半になるともう広々と幅を使い、1.8人分ぐらいの場所をとる座り方へと変わっていた。
ジョッキを2~3杯飲んだところで、当初のチェックイン時が来た。あっという間に感じる。14時を少し過ぎたぐらいで店を出て、チェックインをしに行くと、それぞれ同じホテルの別々の部屋をとったにも関わらず、同じフロアの向かいや隣に部屋がある。都合を図ってくれたのだろう。荷物をおいて、身支度を整えて5分ほどで次の目的地に皆で出発しようとしたが、一人なかなか来ない。お手洗いかと思ったがそうではなさそうで、手持ちと天井の2通り出るタイプのシャワーの水圧を確かめようとして、誤って天井から水を浴びたとのことだ。確かに構造はわかりにくい。一通りドライヤーで乾かし終わったあと、次の目的地である浅草の斧投げバーに向かった。
斧投げバーに着くと、平日の昼ということもありかなり空いていた。自分は初めて聞いた場所ではあったものの、Youtuberなどが来て利用している動画があるとのことだった。当然皆初めてで、投げ方の説明を受けた後に実際に投げてみることとなった。刺さらない、当たらない、真っすぐ飛ばない。店員がかるーく投げて当たっていたため、簡単にできるものなのかと思いきやそんなことはない。
それでも投げているうちに何となく離すときの位置、手首のスナップ、力の入れ方などがわかってくる。手探りではあるが皆どんどん上手くなり、一時間ほどの滞在でかなりの充実感を得られた。また来ようと思う。ここではコロナビールを飲んだ。ライムがないのが残念ではあったものの、それでもおいしい。
当初の考えだと、浅草でまた飲んでから秋葉原に戻ろうかと思っていたが、斧投げの疲労が思いのほかあったとのことで先に秋葉原に戻り、今回の大きな目的の一つであるエオルゼアカフェがあるカラオケパセラに向かうことになった。カラオケに入るとボードゲーム貸出が目に入ったので、部屋で休憩しつつ機を見てボードゲームをし、集合時間の20時ごろまで過ごすという計画だ。とりあえず部屋で酒を頼み、カラオケに入っていたff14の映像をみるなどして一時間過ごした。1時間ほど経って体力が落ち着いてきたタイミングで、ボードゲーム枯山水をした。2年前ぐらいに1度やったことがあるものの、ルールをほぼ忘れており、解説書をみたり友人に開設してもらいながらゲームを進めた。途中までは優勢に進めていたが、最後の最後で逆転されてしまった。美しい庭を造る禅の心がまだ足りなかったようだ。元々枯山水が目安で1時間ぐらいかかるゲームとのこともあって、最後のほうは当初の集合の19時50分を少し過ぎていた。撤収を急いでやったこともあり、枯山水の写真は残っていない。残念である。
ほぼ20時ちょうどに、パセラの2Fにあるエオルゼアカフェに到着できた。そこで新たに合流する友人たちも、同じく今日が初対面だ。ただすでに初対面の人と会うのは昼間にしたばかりなので、最初に感じたようなぎこちなさはない。カウンターで注文用のタブレットと、メインジョブのコースターを受け取り、席に着く。なんとなくの席の割り振りだった。そこでもVCで話したり歌を聞いたことがあったり聞いてもらったりの感じで、昼と同じような入りであったが、すぐにいつも話しているのと同じような感覚になれた。ゲーム内の各種要素をちりばめたコラボメニューを食べ、ドリンクを飲み、ビールを飲んだ。パン1斤を使ったコラボハニートーストが抽選で当たり、皆で分けて食べられもした。途中食べようと思っていた切り分けたあとのハニートーストを小さめのが食べたいという理由で対面に没収されたり、コラボドリンクに入っていた光る氷風の素材を食べないようにって言ったボケをスルーされかつ再度説明を求められたりなどはしたものの、それも含めて普段と同じだなという思いでいた。
適度なタイミングで席替えをした。
次もまた声だけ聞いたことのある初見勢もいる。が、すぐにいつもと同じような言動と行動に視覚的な要素が加わっただけだなと改めて思った。
予定の2時間はあっという間に過ぎ、まだ皆時間に余裕もあるとのことだったので次の場所を探すことにした。店を探しては見たもののまだ時短の影響が残っており、早く閉まる店がほとんどであったため、ホテル勢の部屋を一つ使い酒などを持ち込んで話すことになった。
シングルルームに8人入り、現地にいない人もVCで巻き込みつつ雑談を始めたがそこでも変わらず、部屋のすみのマッサージチェアで静かにほほえむ人、みんなで食べる用の個包装のつまみをベッドに広げる人、人のTwitterのいいね欄が妙に肌色だと聞くと本人の前でそのいいね欄を見ていく人、ベッドの脇に座ってる途中で身体をつる人、最近のメンズコスメのオススメを聞く人など、各々の個性が8人には手狭な空間で、一層引き立って感じられた。
電車で帰る皆が24時前に部屋を出たあとも、25時ごろまでVCを繋ぎつつの雑談は続いた。普段の金曜土曜より早くの終わりではあったが、8の楽しさと2の疲労を持って金曜を終えた。
2日目
2日目の朝を迎えた。といっても高ぶりからかなかなか寝付けず、あまり睡眠時間はとれなかったが、不思議と疲労はない。
11時半前にチェックアウトし、2日目の目的地である横浜中華街に出発した。Discordのテキストチャンネルに、続々と集合時間より早く着くといった報告がくる中、電車の遅延もあって無事少しの遅れが確定していた。電車が遅れたのだから仕方がない。
それでも店の予約時間には遅れることなく、たまたま同じ電車に乗っていて一緒に遅れていた友人から唐突に背後から襲撃されるなどはしたものの、目的地である元町中華街に着いた。他の皆は先についており、昨日ぶりや初対面、コロナ禍もあって2年ぶりに会う友人もいた。久々に会う友人はさほど変わりなく、2年も経っているような感覚は全くなかった。
店に向かうときの人混みに紛れ、一瞬はぐれかけもしたが、2〜3分歩いて中華料理店に到着した。席に案内されるや否や上座に座る。端すぎてむしろ狭い。
事前の打ち合わせ通り食べ放題を注文した。ただどれほど量があるかはわからなかったため、ある程度は頼んだものの、食べたいもの全てではなく少しずつ頼むことにした。一皿目、二皿目が運ばれてくる。想像以上に多い。チャーハンのサイズも一般的なものではない。瞬く間に中華テーブルの上が皿でいっぱいになった。食べ終わらなければ机の上が片付かないため、少し急ぎつつ食べた。早めに食べたせいもあってか、3時間の食べ放題のうち半分の1時間半もすると、新しく大皿でくるであろう料理を注文しようとする人は誰もいなかった。身の丈を知っている。
最後には酒やデザートなどを頼みつつ、3時間が過ぎた。合間合間で各々の性格が見えてくるようで、これもまた楽しい時間であった。
次の民宿にチェックインするまで時間があったので、ゲームセンターのエアホッケーで完勝したりパンチングマシーンで恵まれた体格からクソみたいなパンチ力を晒すなどして時間を潰し、蒲田の民宿へ向かった。
こういう形式の宿に宿泊するのは初めてであったが、なかなか楽しそうなところに見える。
一通り荷物を片付けたあと、ベッド位置を決めるためのゲームが始まった。基本的にff14で遊んでいる面々なので、switchを使って対面で遊ぶのは(少なくとも)初だ。
事前の打ち合わせで遊ぶことになっていた、1・2・switchで遊び始めた。直感型のゲームで、みな初めてとのことだったが大いに楽しめた。同じように買い出しに行く面々もゲームで決め、戻ってきたあとにまた皆で酒を飲みだした。
惣菜や材料を買ってきて作ってくれたサラダなどを食べながら、普段と同じように各ジョブのPvPアクションについての話をしている。そんな折にふと、顔を合わせてもいつもと変わらないな〜と言った。当たり前じゃ〜んと返された。そりゃそうだ。白湯が暖かいってことぐらい当然のことだ。いつもと変わらないことが、初めて顔を合わせてもされているということが妙に感慨深く、ふと口に出てしまった。酒を飲んでいたからだろうか。
泊まらずに帰る友人を見送ったあと、また1・2・switchをした。途中から昨日のVCへの動画配信が始まっていたので、そこで見てくれている人へのパフォーマンスを意識して(大騒ぎしながら)プレイすることができた。見事チーム戦では勝利を収めた。観客のおかげだ。
酒がなくなったので、買い出しをしたあとまたボードゲームをしていると、もう3時近くになっていた。寝る人もいる。自分も寝ようと思ったが、最初に決めたベッドの上に散乱しているスーツケースを片付ける気力がなく、居間にあるベッドを使って寝ることにした。まだ飲みながらポケモンの話をしている人の話を片耳に挟みつつ、眠りについた。
3日目
3日目の朝は、昨日民宿を貸してくれる人から猛烈にアピールされていた朝食を食べたいと思っていた。起きる人はいるかわからなかったがとりあえず朝の7時に皆が寝ているゲームスペース兼寝床で騒ぎ、起きた人と7時半に屋上で朝食を食べた。
屋上は少し寒かったが、しじみの味噌汁も作ってくれていたので酒を飲んだ翌日にちょうどいい。お弁当を受け取る時に、民宿の人から大学の集まりか何かですか?と聞かれたので、そんな感じですねと明らかに違うが適当に答えた。
人数分のお弁当が用意されていたので、寝ていた人のぶんを部屋に持ち帰ったあと誰かは食べないだろうと思い追加でお弁当をもう一人前食べ、まだチェックアウトまで時間があったので少し寝ることにした。
また目覚めた後に身支度を整え、10時にチェックアウトをする。昼からまた合流してカラオケの予定があったが、ちょっと時間があったので喫茶店にてゆっくりし、昼から一日目にきてくれた友人達と合流しカラオケに行った。なんだかんだ世代が近く選曲がたのしい。
最後まで盛り上がってカラオケは終わった。
18時ごろに退店する。小雨が降っているなか、徐々に解散していく。この時間帯が一番名残惜しい。
帰りの交通機関の時間もあったので、すこし早めに帰路についた。じゃあね、またねといって帰った。また会うから。
暁月
初めて会う人や初めてすること、初めて行くところもたくさんあった。なかなかない機会だ。そのめったにない機会で、改めて変わらないものも再確認できたような気がする。
漆黒が明け、暁の空に月が見えるように、見えているものだけが全てではないだろうけども、次に見える新しいことは常々やってくるもので、どんな一瞬も新しい。
ff14においても、自分にとって初めての大型アップデートがもうやってきている。今はどういう経験になるのか、全くわからない状態ではあるものの、また新しいことを経験するのだなということは確実にわかる。
息も白くなってきて、秋も明け、また冬が来る。今年も全ての新しさに会えるのだと、師走の日に思う。
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