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メトロポリタン美術館の青いカバ(追記あり)

メトロポリタン美術館のガチャがあるんだよと知人に教えてもらい、羽田空港でそれをみつけました。

どれも欲しいものばかり!

どれがでてもいいなあ!と思いましたが、
だんだんと、
できればこの青いカバが欲しいと思うようになり、

青いカバのウィリアムがでますように!
祈りながら目をつぶってハンドルをまわしました。

お母さん!青いカバだ!一発だ!すごい!

体には、豊かなナイルをイメージしたロータスやパピルスなどの水辺の植物が描かれています。

わあい!
ようこそ!ウィリアム!


この青いカバ、
メトロポリタン美術館ではウィリアムという名前なのだとか。いろいろな名前のいろいろな青いカバが世界中に存在しているようです。

中近東文化センターにいるそれは
「ルリカ」というらしく、http://www.meccj.or.jp/


ルーブル美術館にいるのは「ヒッポ」

こちらはエジプト美術館(カイロ)の青いカバ
名前はわかりません。

前1700年頃

ベルリンにある新エジプト博物館には親子のカバがいるそうです。


また、先日訪れた銀座のミュージアムショップ、MMM メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンドでも、いろんな青いカバが売られていたことを思い出しました。
こちらは、大英博物館のミュージアムショップで扱っている青いカバが販売されています。

メゾン・デ・ミュゼ・デュ・モンド
東京銀座にあります
大英博物館のミュージアムグッズを展示。
大英博物館の青いカバには名前がないそうです

ぬいぐるみもあるんです!かわいいですね!

強いカバさん!
手前には金属製の小さなカバも!

さてさて、この青いカバですが、
エジプトのお墓に納められていた像の一つでありました。動物だけでなく、女性像などもあったようです。

でも、動物の中でもカバを選ぶだなんて、どうして?って思ってしまいます。そんなにも身近な動物だったということなのでしょうか。

まずはカバという生き物が、当時エジプトの人々にとって、どういう存在だったかというと…という話からになるのですが…

カバはナイル川流域における最大の動物で、
大きな身体からは豊饒のイメージがありましたが、夜になると陸に上がって畑を荒らす害獣でもあったようです。退治されるべきものとして考えられてもいたので、カバを槍で突いてしとめる「河馬狩り」が先王朝時代から行われ、その様子は古王国時代から盛んに墓の壁画に描かれたようです。

「カバ狩り、魚釣り」(一部分)前2400年頃
この作品はテイ(ピラミッドや太陽神殿の監督官として、
ネフェルイルカァラー、ニウセルラー王に仕えた)の
墓の壁に描かれていたもの

威嚇したカバや、ワニに噛み付いているカバも描かれていて、動物園でみたことのあるカバのイメージとはちがい、かなり獰猛な様子がうかがえます。

湿地での河馬狩りは、当時一種のスポーツとして行われただけでなく、獰猛で邪悪な河馬を狩ることによって、象徴的に邪悪を駆逐することを意味し、永遠に狩りが成功することを祈ってカバの像が墓に納められたのではないかと考えられているといわれています


あ!たしか以前行った「ポンペイ展」でも、カバが恐ろしい顔で描かれていた作品があったかも!と思い出し、当時の図録を広げてみました。

ワニとむきあうように真ん中に描かれているカバ

あ!やっぱりいた!
やっぱり怖い顔だ!
獰猛そうな姿がそこにはありました。

作品の名前が「ナイル川風景」。
前2世紀の作品で、ポンペイ最大の邸宅「ファヌウスの家」の入り口にあったモザイク作品です。
「ファヌウスの家」というと、エクセドラ(建築用語・ここでは住居の談話室、中庭、応接間というような場所として表現)に「アレクサンドロス大王のモザイク」がある大邸宅で、その他にも様々なすばらしいモザイク作品がありました。
しかしここはイタリア。ナイル川のあるエジプトとは遠いはず…と不思議に思いながら作品の説明を読んでみましたら、
この作品にあるようなマングースとコブラ、カバとワニ、2羽のトキ、後景にはカモといったような地理的な表現と空想上の表現としての「ナイル川モザイク」はこれまでにいくつもの作例が見つかっているそうで、
この主題は前30年のアウグストゥスによるエジプト征服によりますますイタリア半島に広まることになったそうです。
ナイル川を守る女神イシスはギリシャ・ローマの運命の女神テュケ・フォルトゥナと同一視されており、その女神の加護がアレクサンドロス大王に決定的勝利をもたらしたと考えられています。


カバは、出産をつかさどるタウレト女神として崇拝される一面もありましたが、このように恐れられてもいたため、プトレマイオス朝時代には邪悪の象徴となる悪神セトとみなされていました。

先王朝時代より見られる河馬姿の神で「母なる女神」。
のちに妊娠と出産の守護女神として広く崇拝された。
ワニの尻尾をつけライオンの後ろ足をもつ、妊娠した河馬の姿
初期に外国から入ってきた神。
暴風雨や混乱、砂漠の神とされる。
オシリス神話では兄オシリスを殺し、ホルスと敵対する


このような小像はカバだけでなく、様々なものがたくさん作られていました。
犬猫などの、当時ペットとして飼われていた動物やヒヒ、ハリネズミなど野生の動物も多数含まれています。

猫、ハリネズミともに第12王朝 前1950年頃
猫:メトロポリタン美術館
ハリネズミ:カイロ、エジプト博物館


さて、この青いカバの色ですが、
ファイナンスというものでつくられております。

エジプトも含めて古代オリエント地方では青い色の宝石が珍重されていました。そのため、トルコ石やラピスラズリの青色をめざしてガラス質のファイナンスで人工的につくる方法が発明されました。
ファイナンスは石英を主に、炭酸カルシウム(石灰岩など)炭酸ナトリウム(ムギやアシなどの植物の灰)を粉末にした基本の釉薬に漆喰(2018年東海大学が発表)を加えて型取りしたり整形したもので、この青いカバはガラス質の青みがかった釉薬をかけて焼き固めています。


だけど、みてください!
このあたりでは様々な岩や石が採掘されるようで、
わたしは下の図をみてびっくりしました。

金も取れるのですね!

美しい色の様々な岩石がこんなに種類も豊富に採掘されるのですねえ。
自然の中からこんなにたくさんの色が得られるなんて素晴らしいなあ!

墓の壁に描かれた彩色豊かな壁画も、こういう岩石からできる顔料を使っていたのですね。

貴重な青い色を使って作った青いカバ。
かわいい!なんて思っていましたが、
当時の人々の強い想いが詰まっていたのですね。

神話の世界にも入り込み、
ああもうなんだかはてしなく興味がつづいていきます。


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