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天敵彼女 (41)

 あれからすぐ俺達はスーパーを出た。周囲に異常はない。

 俺は、パンパンになったエコバッグを持って歩いた。何かあっても身軽に逃げられるよう、奏には何も持たせていない。

 奏は、申し訳なさそうだったが、気にすることはない。

 俺は、心底満足していた。初めて使うエコバッグの割には、食材がきれいに収まったからだ。

 この中には、俺なりのこだわりが詰まっている。

 どうすれば卵が割れにくくなるのか? 肉や魚のパックはどう重ねるのがベストか? 長ネギを折らずに運ぶコツは?

 その一つ一つが苦い失敗を経験したからこそ生まれたノウハウだ。

 俺は、敢えてエコバッグを揺らしてみた。中身は全く崩れていない。ここまで来るのに何年かかっただろう? 

 こんな無駄技術、誰にも誇れないが、何より俺自身がその価値を分かっている。そんな俺の小さなプライドを奏がくすぐって来た。

「峻って、袋詰め上手だよね?」

「そ、そう?」

 思わず頬がひくついた。

 浮かれそうになる自分を律する為、俺は周囲を見回した。

 さっきの女子達はまだいるだろうか? そんな事を考えていると、奏の声がした。

「さっきの子達もう帰ったみたいだね」

「えっ?」

 俺は、驚いて奏の顔を見た。

 どうやらあてずっぽうではないようだ。俺は、奏に訊ねた。

「見たの?」

「うん、見たよ」

 奏が言うには、さっきの女子生徒達はしばらくスーパーの外にいたようだが、俺達がレジに並ぶ頃に帰ってしまったそうだ。

 俺は、またしても奏の諜報スキルの高さを目の当たりにした。

 これは、俺には真似できない。素直にすごいと思った。

「奏こそ、すごいよ。買い物しながら、俺と話しながらでしょ? すごいよ。俺には無理だよ」

「そんな事ないよ」

「いや、すごい。だから、協力してくれる?」

「いいけど、何を?」

「買い物とか、学校の行き帰りとか、周りで何かあったら俺に教えて欲しい。俺だけじゃ見落としがあるかもしれない。だから、これからは奏も周囲を警戒してくれる?」

「いいよ。でも、どうすればいいの?」

 俺は、それから奏に説明した。

 基本的に前方と首を振って見られる範囲は俺。死角になりそうな場所は、奏にチェックしてもらう感じだ。

 どうも、俺は複数の事を同時に処理するのは向いていない。何かに集中するとそれ以外の事に注意を向けられなくなるからだ。

 その点、奏は俺と話しながらでも周りの事をよく見ている。

 奏に協力してもらえれば、今みたいに物々しい感じを出さなくても良くなるかもしれない。

 さすがに、無言でJKの後ろを歩くDKはまずい……俺は、悪目立ちしかねない今のやり方を改めることにした。

「もう家だね」

「うん、鍵開けてくれる?」

「また別々?」

「いや、うちの玄関から入ろう。一緒に」

「うんっ」

 嬉しそうな奏。今日は、一緒に出かけてよかった。

 俺は、奏に続いて玄関に入った。

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