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天敵彼女 (42)

 帰宅後、俺達は二人で施錠確認してから、ホームセキュリティの外出監視を解除した。

 これを忘れて窓を開けたりすると、思い切り警備会社に通報が行ってしまうらしい。

 先日の工事で壁に取り付けられた端末といい、父さんがどこからともなく入手して来た防犯用の刺股といい、うちの玄関は一体どうなってしまったのかと思う変わり様だ。

 俺は、一応侵入監視をセットしてから靴を脱いだ。奏は既に廊下に上がっていたが、どこに行くわけでもなく、刺股を興味深げに眺めていた。

「いつみてもこれすごいね」

 目を輝かせる奏。余程、刺股が珍しいのだろう。

 俺は、靴の向きを揃えると、興味なさげに言った。

「刺股でしょ? まぁ、父さんらしいよ。ああ見えて、やる時は徹底してやるタイプなんだよ……でも、まぁ、これは余り役に立たないけどね」

「えっ、そうなの? 刺股って学校とか公共施設にも置いてあるんでしょ?」

 奏はひどく驚いていた。俺の「刺股役立たず説」が余程意外だったようだ。

 俺は、良い機会なので刺股について、奏に俺なりの考えを伝えることにした。

「確かにそうだね。でも、刺股は実は使い方が難しいんだよ。これで暴漢を押さえつけようとしても簡単に逃げられちゃうからね。ほら、先の所がU字になってるでしょ? これだと、こっちは竿の部分を持ってるだけなのに、相手は二か所掴めるわけだ。どちらが力を入れやすいか分かるよね?」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、どうすればいいの?」

「刺股で押さえつけようとしちゃ駄目だね。特に相手が男だと力で簡単に持っていかれるからね。もし、使うとしたら、とにかく相手を殴る事だよ。もしくは、抵抗する気がなくなるまでひたすら突きまくる感じかな? 顔や喉、鳩尾、脛辺りも狙い目だよ」

「ふーん」

 奏は、壁付けホルダーから刺股を取り外し、また元に戻した。

 正直、女子に刺股の話をするのはどうかと思ったが、奏は興味を持ってくれたようだ。

「まぁ、こんなの使わないで済むに越したことはないんだけどね」

「確かに、そうだね」

「とりあえず、買ってきたもの置いちゃおうか?」

 俺がそう言うと、奏がリビングドアを開けてくれた。

「後は、私がやるから部屋で休んでていいよ」

 奏は、エコバッグを受け取ろうとしたが、俺は首を横に振った。

「いいよ。ついでだし、やっとくよ」

「でも悪いよ」

 奏は、何故か気乗りしない雰囲気だった。

 一瞬、手伝わない方が良いかもしれないと思ったが、それより俺の中で盛り上がった「作業欲」を抑えられなかった。

「大丈夫だよ。すぐ終わるから」

 俺は、そう言うと奏の横をすり抜けた。一瞬、奏が複雑な表情を浮かべた気がしたが、欲望に抗えなかった。

 俺は、キッチンカウンターにエコバッグを置くと、食材を取り出した。

 それから、腕まくりをし、一応手を洗う。

 ここからはこだわりの時間だ。

 俺は、食材を冷蔵庫にきれいに収納する為の無駄スキルを発動した。その間、奏はノリノリで作業する俺をただ見守っていた。

 そこはかとなく、何かが足りない気はしたが、俺の勢いは止まらなかった。

「これ、ありがとう」

 キレイに片付いたキッチンをバッグに、エコバッグを差し出す俺。多分、ドヤ顔になっていたと思う。

「うん、こちらこそ」

 奏は、遠慮がちにエコバッグを受け取ると、きれいに畳み鞄に仕舞い込んだ。

 俺は、してやった感を漂わせながらキッチンを出た。あとはよろしく的な感じだったが、奏はなかなか夕食の準備を始めなかった。

 俺は、しばらく考えた後で、ある事に気付いた。

「あっ、ごめん。その服で料理したら汚れちゃうね。着替えてくる?」

「あっ、うん。ちょっと待っててね」

 奏はすぐに自分の家に着替えに行った。

 時計を見ると結構いい時間になっていた。こんな事なら初めから奏の言う通りにしておけば良かった。

 俺は、テンションが上がって周りが見えていなかったことに気付いた。勝手な思い込みで、奏の予定を狂わせてしまったようだ。

 次から、もっとうまく出来るようにしなければ……俺は、いきなり反省モードになった。

 俺は、これ以上邪魔しないようにソファに座り、テレビをつけた。

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