【天国でまた会おう】歪な運命の鎖は終戦後も人を苦しめる
去年映画化もされた『天国でまた会おう』(ピエール・ルメートル)は、第一次世界大戦終戦後のフランスを舞台にした小説である。一言でいうなら、戦争中に構築された関係が終戦後も継続して人を苦しめるという話だ。
戦争で運命が入れ替わった男たちの物語
ときは1918年11月、第一次世界大戦が間もなく終えようとする頃、マイヤール、エドゥアール、プラデルという3人の兵士を中心に物語が始まっていく。
元銀行経理の兵士マイヤールは臆病でまぬけですぐに小便をちびるような男だ。不幸なことにマイヤールは、上官プラデルの不正を偶然に発見してしまう。発覚を恐れたプラデルの手により、マイヤールは生き埋めにされてしまうのだが、同僚の兵士であるエドゥアールから救い出されて、九死に一生を得た。しかし、その直後にエドゥアールに砲弾の破片が激突して、とても大きな障害を負ってしまう……。
一度死んだマイヤールと運命を入れ替えるように、障害を負ったエドゥアールは死んだも同然の男となってしまったのだ。マイヤールは命を救ってもらった恩を感じているだろうし、大怪我をさせてしまった負い目もある。エドゥアールが放埓な態度を見せても、ときには一線を超える要望を出しても、マイヤールは面倒を見続ける。
友情や絆ではない、歪な運命の鎖
エドゥアールの身勝手で破滅的振る舞いは読者も苛立ちを覚えることだろう。それでも覚悟を決めたマイヤールの献身は本当に頭が下がる。一方、プラデルは終戦後に事業を始めるのだが、目的のためなら手段を選ばない悪徳行為を繰り返し、野心のまま、破滅的に突き進んでいく。
物語の中盤、エドゥアールは徐々に生気を取り戻していく。マイヤールも素直に回復を喜ぶのだが、エドゥアールに内包する沸々した感情は社会復讐へと変貌し、国家レベルの詐欺計画を練り上げていたのだった。
一度死んだ男マイヤール、死んだも同然の男エドゥアール、終戦後も彼らを結び付けるものは友情や絆であるはずがない。戦争によって繋がれた歪な運命の鎖だ。マイヤールが、エドゥアールが、そしてプラデルも、法やモラルの一線を越えてゆくたびに、運命の鎖は何重にもきつく巻かれていく。
いつまで続くか分からない感染症との戦いに疲弊している人も多いと思うが、いずれ「終わり」はやってくる。闘いが終わっても人生は終わらない。彼らを繋ぐ運命の鎖が外れるときは来るのか。危険なジェットコースターのように走りだした物語の「終わり」はきっと天国なのだろう。