【5月の終わりに100パーセントの筋肉に出会うことについて②】
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「とにかく何も分からないということね」
大家は電話越しに言った。空気がぴんと張りつめた。
僕自身、誠意を持ってトイレが詰まった時の状況を伝えたつもりだった。
春の嵐のように突如トイレが使えなくなったこと、24/365の業者を呼んだら筋肉質の若い青年が来たこと、彼の筋肉が真実を伝えてくれたこと。
「トイレは悪くないんです」
「でもあなたはその理由を説明できない」
僕は沈黙した。
トイレが詰まるという事態は初めての経験だったし、何よりトイレが使えないことは僕を精神的に追い詰めるには十分すぎる状況だった。
「あなたの置かれた状況はとても大変なことなのは分かっている。でもあなたはその理由を説明できない、分かるわね?」
言い返す言葉を持ち合わせていなかった。僕にとっては業者の筋肉が教えてくれた「トイレは悪くない」が唯一の真実だった。それ以外の真実は、たとえ目玉が3つになったところで見つけられないだろう。
「もう一度聞くわね、あなたは何も分からないということね」
大家の口調に僕は沈黙した。死体安置室のように静まり返った。
「私はこの状況をビル管理会社の人間に伝えなければならないの。トイレが悪くないのは分かったけれど、その理由が分からないのよ」
大家は深くため息をついた。
「繰り返すけれど、とにかく何も分からないということね」
僕が黙っていると大家は言葉を重ねた。
「分からないけどとにかく困っている」
「とにかく困っている」
僕は復唱した。
「わかったわ。ビル管理会社には『何も分からないけど、とにかく困っている』と伝えておくわ。それでいいわね」
僕の返事を待たず、大家は電話を切った。
結局いくら説明を重ねたところで、筋肉質の青年が伝えてくれた真実は大家には伝わらなかった。真実を伝達したのは筋肉であって、僕にはないものだ。当然といえば当然なのかもしれない。
僕はスマートフォンをポケットにしまった。まるで世界中のドンペリをひっくり返したように陰鬱な気分だった。
「やれやれ」
依然、トイレは詰まったままである。
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