CHEAPTRICK CAFE's TALK【♂1♀2不

◆タイトル…CHEAPTRICK CAFE's TALK(ちーぷとりっくかふぇずとーく)
※作、監修:HLUG 脚色:浅沼諒空

◇粗筋
予期せぬ出来事で急死した友人の告別式を終えた若者達の、喫茶店での何気ない会話。

◆登場人物…4人(♂1♀1不問2)
友人A(男)
友人B(女)
友人C(不問)
喫茶店のマスター(不問)ウェイトレスでも可。台詞極少につき声劇なら友人Aが兼任したり、舞台では影ナレで対応したりを推奨。

◆上演時間…約20〜25分



◇以下本編
【舞台はレトロな喫茶店。ドアベルを鳴らして喪服姿の客が三人、店内に入ってくる】

マスター:いらっしゃいませ。空いてる席にどうぞ。

【三人は入口近くのテーブル席に着く】
マスター:メニューはテーブルにございます。お決まりになりました頃にまたお伺いいたしますね。

友人A:はあー…。疲れたなあ…

友人C:ねえ……突然だったもんね

友人B:ほんと。私もびっくり。

友人A:なあ……。まさかこんなことになるなんて。なあ。

友人C:ねえ……本当はさ、いまだに信じられないんだ…。だって、まさかあの子があんなことになるなんて……

友人A:俺だって……

【マスター、注文を取りにやってくる】

マスター :失礼します。ご注文は?

友人A:あ?ああ。あ、っと……あ、コーヒーで。ホットでね。

友人B:あ、私もそれで。

マスター:かしこまりました。ミルクと砂糖は入れますか?

友人A:ブラックで。

友人B:私はミルクたっぷりで。

マスター:かしこまりました。

友人C:レモンティー。ホットで。砂糖は要らないです。

マスター:かしこまりました。では少々お待ち下さいませ。

【マスター、カウンターに戻る】

友人C:はーあ……。なんか、もう、どうしていいのかわかんないな……

友人A   俺もだよ……ほんと。突然すぎるんだよ……なんなんだよ、あいつ……

友人B:そうね。ほんと。突然だったよ。まさかこんなことになるなんて。

友人C:正直、まだ実感わかないんだ、あの子が……あの子が死んじゃったなんて……

友人A:そうだよなあ。俺だってそうだよ。

友人C:同い年の子がさ、高校卒業してちょっとしか経ってないのにさ、なのに…なんで…(ハンカチで涙を拭う)

友人B:あ、ねえ。泣かないで、ねえ。

友人A:(鎮痛な面持ちで首を振る)

友人C:久しぶりに高校のときの仲間が集まるって…。こんな理由で集まりたくなんてなかったよ……

友人A:そういえば俺たち、卒業してから同窓会すらしてなかったな

友人C:そうだよ、本当に……。あの卒業式から、次に皆で揃うのがこんな形だなんて…ね…

友人B:あれからもう五年経ったのね

友人A:そうだよなあ……。なんか、あっという間だったような気がするな

友人C:皆、意外と変わってなかったね

友人B:そっか……私は……長かったな。この五年……。

【マスター、注文されたドリンクを持って再び登場】

マスター:失礼します、お待たせいたしました。それではごゆっくりどうぞ。

【マスター、再び退場】

友人B:……あれ?私のが来てない。あ、あの!あの、すいませーん!(奥に向かって声を張り上げる)私のがきてないんですけど!ホットコーヒーお願いします!コーヒーよりもミルク多めで!ほぼミルクコーヒーで!

マスター:(カウンターから)失礼しました、少々お待ちくださいね。

友人B:んもう……。

友人A:ああ、そういえば、昔よくこうして皆で集まって喋ってたよな。

友人C:放課後に?

友人A:そう。放課後。確か高校三年の放課後だよ。部活とか、とっくに引退した後。勉強するとか言う名目で、こうやって店に皆で集まってたじゃん。

友人C:あーあったわねえ。そうね、でも、そうやって集まっても誰も勉強なんか欠片もしてなかったよね。

友人B:皆でずーっと喋ってたよね。

友人A:名前だけは『勉強会』みたいなことにしてたけどな。
友人C:ええー、一応参考書だけは広げておいてたよ。でも、その参考書の偉人にどれだけ上手く落書き出来るかとか、そういうことにしか使わなかったけど。

友人A:ああ、そうそう。最終的にはタイムトライアルになったな。確か。

友人C:TMR。

友人B:ん?あーあーあーあー(思い出した風に)。『とりあえず、皆で、落書き』だっけ。

友人A:あー。あったなあ……懐かしいな。やってたな。そんなこと。

友人C:ねえ。まだ高校生でお金ないからって、こんな小洒落た喫茶店なんかじゃなくってね。

友人A:そうそう。そうそう。安っすいファミレスでさ。ドリンクバーだけ頼んで。三時間も四時間もずーっとそんなことしながらダベってなかった?結局勉強そっちのけでさ。

友人B:今思うと、嫌な客だよね

友人C:あー、ねえ。あ、あと、ドリンクバーのメニュー、全部制覇したりしてたよ。

友人A:それでも飽きてきて、最終的にはどれとどれを混ぜたら、よりおいしいものが作れるか、とかやってたよな

友人B:ATMだっけ。

友人C:あー、そんなんやってたねえ……。『あるもの全部、適当に、ミックス』だったっけ?勉強しろよって、話だよね。

友人B:バカバカしいよねえ

友人A:ほんと、アホだったよなー

友人C:意外とイケてたの、なんだったっけ?

友人A:えーっと……ああ、あれだ。ウーロンコーラ。

友人C:そうそう。

友人A:割合、5対5

友人B:メロンソーダジャスミンティーもわりと良かったよ?
友人C:そういえば、あの子、なんか一人で皆と違うものをおいしいって言ってなかったっけ?

友人A:ああ、そうそう。なんか人と味覚が違ってたよな。あいつ。

友人C:なんであんなことが楽しかったんだろね

友人A:何やってても楽しかったよな。あの頃は。

友人B:なんでかわかんないけど、ただただ楽しかったよね。本当、何をしても楽しかったのにね…

友人C:今思うとおかしなことならいっぱいしたね。

友人A:そうだよな……

友人C:よく学校の理科室に忍び込んだし。

友人A:なんで理科室だったんだろうな。

友人B:いろいろ面白い器具があったからじゃない?三角フラスコとかプレパラートとか。

友人C:というか、なんで理科室に忍び込めたのかしらね。

友人B:カバーガラス、よくパクったわよね。でも、あれ、家に持って帰って何に使おうとしていたのかわからない。

友人A:俺もわかんない。

友人C:そこでさ、よくあれ作ったよね。あれ。アルコールランプとか勝手に使って。

友人B:ああ。えっと、なんだっけ・・・・・・。

友人A、B カルメ焼き。(同時に)

友人C:あーそうそう。本当、懐かしい。あれ、何気に結構おいしかったよね。

友人B:ねえ。甘くってね。

友人A:先生に見つからないように必死に隠れながら作ってたもんな。

友人C:皆でこそこそしながら、なんでか一生懸命作ったよね。カルメ焼き。

友人B:ね。

友人A:でもさ、俺らなんで普段から持ち歩いてたんだろうな。重曹。

友人B:何のために持ち歩いてたんだろ。重曹。

友人C:掃除とか?五徳の汚れとか、漬けとくと落ちるし、手も荒れない。天然成分だから。

友人A:そんな主婦知識満載の高校生、ちょっと微妙だな。

友人C:というか、カルメ焼きの作り方なんか、良く知ってたよね。

友人A:あ、それはあいつが。

友人C:あの子、そんなこと知ってたの?

友人B:うん。

友人A:微妙だろ?

友人C:うん。微妙。その、人生においてあんまり必要としない程度の知識の持ち加減が。

友人A:な。でも、あの頃はそれを知ってただけで、なぜだか英雄扱いだったよなあ。『あー、あいつカルメ焼きの作り方知ってるんだぜ』って、言ったら『えースゲェ』って。なってたもんなあー

友人B:カルメ焼きの作り方知ってるだけだったのにね。

友人C:不思議だよねえ、学生って。

友人A:わからないことを知ってる、ってだけで、すごい扱い受けることが出来てたもんな。あの頃は。

友人B:わからないほうが良かったことなんて沢山あったのにね。

友人C:そうだよね……。あ、ねえねえ。覚えてる?

友人A:何が?

友人C:高校最後の夏休みのこと。

友人A:夏休みのこと……?

友人C:ちょっとーそんくらい覚えててよー。高校卒業したら皆で遊べなくなるからって、一緒に海に行ったじゃない?

友人B:ああー……覚えてる覚えてる!懐かしいねー

友人A:あー……ああ、あったあった。というか、俺ら、高校三年のとき、本当に遊んでばっかだったんだな。

友人B:ねー。あの頃は気づかなかったよ。

友人C:ひどいよね。だって、あのときだって、皆、もうこれで卒業だし、思いっきり遊ぶぞ、ってすごいはしゃいでたもんね

友人A:アホみたいに騒いだよな。

友人C:ねえ。勉強もしないでね。

友人A:本当にな。

友人B:ね。

友人C:でね、そのときさ、皆めちゃくちゃ遊んでたのに、なのにあの子、気が付いたらビーチで寝てたじゃん?

友人A:ああ、そうだった、そうだった。あんまり気持ち良さそうだったから、皆で書いたんだよな。デコに『肉』って。

友人B:あー!そんなことあったあったー。

友人C:起きても気が付かなかったよね。あの子。

友人A:油性で書いたもんな。

友人C:しばらくそのまま遊んでたよね。

友人A:引いてたなー。周り。ドン引き。

友人C:そのあと、旅館で一生懸命落としたと思ったら……今度は焼けてたもんね。

友人B:きれいに『肉』ってね。

友人A:デコにしっかりと刻まれてたもんな。『肉』って。

友人C:懐かしいわねー。あれから五年しか経ってないのにね……

友人B:五年前はこんなことになるだなんて。

友人C:思いもよらないよ、こんな思い出話さえ、これからあの子とすることが出来ないなんて、ね……

友人A:本当にな……。本当に残念だよ……。いいヤツだったのにな……

友人C:ちょっとヌケてたけど、いい子だったのにね……あ、ねえ。ちょっと聞きたいことあるんだけど。

友人A:ん?

友人B:なに?

友人C:あのさ、アンタ(Aを指す)。あの、例の夏休み旅行んとき、あの子と付き合ったの?

友人A:え……?なんだよ今更。

友人C:だって、その後、なんか二人怪しかったんだもん。

友人A:じゃあ、そんとき聞けよ。なんだよ怪しいって……

友人B:そのときは付き合ってないよね。付き合ったのは高校卒業してからだよね。

友人C:え?ででで、で、そうなの?

友人A:まあ、そんときは、まあ……。受験もあるからって……。で、まあ、ね。付き合うとかそういうのは高校卒業してからにしようって……。

友人C:そうだったんだーやっぱり。そういう感じだと思ったんだよね。

友人B:そうだった?

友人A:なんだよーお前、変に気が付くなよ。

友人C:え?それで、何?もしかして、今もまだ……付き合ってたり…した、の…?

友人A:いや。少し前に別れたよ。振られちゃって、さ。

友人C:あ、そうなの……じゃあ、結構長く付き合ってたんだ。

友人A:そうなんだよ。でも、結構…そうだな、一年くらい前に俺、振られちゃって。それから連絡取ってなかったから。

友人C:そうなんだ……。

友人A:だからまさかこんなことに巻き込まれているなんて…知らなくて。知っていれば…。もし、俺が知っていたら、こんなことにならなくて済んだかもしれないのに…(俯き、拳を握り締める)

友人C:そんなに自分を責めないでよ……うちもさ、まさかあの子がストーカーに悩まされてたなんて、ちっとも知らなかった……。一言、たった一言でも相談してくれてたら、こんなことにならなかったかもしれないのに……

友人B:今更何を悔やんでも、どうしようもないことだよ。

友人A:……犯人、まだ捕まってないんだろ?

友人C:……うん。人づてに聞いた話だからうちも詳しくは知らないけど。

友人B:警察は本当、何やってるんだろね

友人A:警察はどんなこと言ってるとかって知ってるか?

友人C:さあ……。ただ、多分あの子を殺したのは、ずっとあの子をストーカーしてた奴の仕業なんだろうって、そう思ってるみたいだよ。かれこれ、一年近くもストーカーされてたみたいって。あの子。かわいそうに。

友人A:警察になんか聞かれた?

友人C:うん。まあ……。でも、いろいろ聞かれたけど、あの子ともう五年も会ってないから……。だからなんにも言えなくってね。なんの力にもなれなくて…

友人A:誰なんだよ……本当に!俺がとっ捕まえてやりたいよ!

友人B:何言ってるのよ。

友人C:落ち着いて……

友人B:……アンタがやったくせに。

【Bの表情と雰囲気が今までと明らかに変わる】
【Aの顔にも怯えと恐れの色が強まる】
  
友人C:大丈夫よ。今にきっと警察が犯人を捕まえてくれるから。

友人B:……アンタが殺したんでしょう……私を。

友人A:……ああ、うん。わかってる。わかってるよ。ああ、そうだ。俺、もう行かなきゃ。

友人C:えっ、そう?なんかあったっけ?

友人A:ああ。ちょっと、まあ…

友人C:そう。じゃあ、また。気をつけて。今度は違う形で会おう。

友人A:ああ。そうだな。お前も気をつけろよ。じゃあ。

【友人A、退場。その後ろをぴったりと付くようにして友人Bも退場】
【入れ替わりでマスターが再び、Cの注文を持って再度入場】

マスター:大変お待たせいたしました。こちら、ほぼミルクコーヒーでございます。

友人C:えっ?……頼んでませんけど?

―――終幕。

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