私、歌えるようになったよ / #シロクマ文芸部 #ボケ学会 #歌は心を豊かにする
金色に輝くマイクを渡された。
あのとき、私はただ横に首を振り、「う、う、うた、うた えな い よ……」と蚊の鳴くような声を発した。
私は緊張すると言葉が詰まる。吃音症という言語障害だ。文化祭前に転校してきて、ただただみんなの手伝いに徹して最小限の会話しかしてなかったので、私が普通に話せないことにクラスのみんなは気づいていなかった。
私の声はみんなに届かない。テンションが上がっていたみんなは口々に私に歌わそうと声をかけてきた。
「大丈夫。歌えるって。うまい下手なんて気にしなくていいから」
「なんか1曲、歌ってよ。ねぇ……。AKBなんてどう?」
文化祭の打ち上げに行こうと誰かが言い出し、全員が参加するからとついて行ったのが間違いだった。カラオケなんて歌えない……。人前でまともしゃべることさえできないのに、ましてや歌なんて……。
「うたえない」とぼそぼそ言って、私はうつむいて固まってしまった。心配そうな周りの声もまったく耳に入らない。目の前がにじんできて涙がしずくとなってカラオケルームの床に落ちた。
そんな私を見てみんなはオロオロし始めた。
「悪かったよ。無理に歌わなくていいからさ」
「ごめんね。泣かないで」
「いいよいいよ。ただそこにいるだけで」
みんなはそう言ってくれた。誰一人、私を除け者にすることなく、仲間として扱ってくれた。それがとってもうれしかった。
それからみんな代わる代わる何曲もカラオケを歌った。私は歌えないけど、みんなの歌に合わせて手を叩いた。見よう見まねで踊ってみた。
楽しかった高校時代の想い出。
そのときカラオケでみんなと盛り上がった曲。なんだったっけ。おぼえてない。忘れちゃった。あんなに楽しかった想い出の歌なのに……。
あれから歌だけは練習したんだ。同窓会があったら今度は歌えると思う。話すのはまだ緊張するけど歌だったら大丈夫、と言えるくらいには歌えるようになった。
*
そんな昔のことをぼうっと思い出しながら、私は司会者から金色のマイクを受け取った。
note音楽大賞の授賞式。私は大賞を受賞した。
金色のマイクを手に私は歌う。自作した受賞曲『想い出の歌』を。
AIで制作したオフボーカルの楽曲が会場に流れる。リズミカルなイントロが私の心を揺らす。
『ど・ど・どうしても 歌いたいんだ
みみみみみんなの ために
あり・あり・あり・あり・ありがとうの
おも・想い出の歌』
(了)
こんばんは。2日続けての企画提出コラボです。
今日は字数縛りがなかったので安心して書けました。
#シロクマ文芸部
お題「金色に」
小牧さん、はじめまして。お遊び企画に参加させていただきます。
よろしくお願いします。
#ボケ学会
お題「想い出の歌」
ボーンさん。
すみません。昨日はひとつ前のお題で書いてしまいました。大ボケです。
今度こそよろしくお願いします。
これを書いていてあの企画にも参加しなくっちゃと思い立ちました。
#歌は心を豊かにする
ヨルシカ「あの夏に咲け」
蒼龍 葵さん、こんばんは。
ボケ学会に出した「想い出の歌」のように、冒頭、語尾が重複する歌詞(太字の部分)と飛び跳ねるようなリズムが楽しい曲です。Radikoで聞いたヨルシカというグループの曲をSpotifyの無料版でお気に入りして聞いていたら、この曲に行きつきました。
君が触れたら、
た、た、ただの花さえ笑って宙に咲け
君に倣って、て、照れるまま座って
バスの最終時刻 オーバー
出だしからごきげんな曲です。
公式チャンネルがなかったのでこちらのリンクを貼っておきます。