辞世の句 / #シロクマ文芸部
霧の朝
しばしの晴れ間
夜は雨
身を投げる者があとをたたない霧の湖。湖近くの老舗旅館から警察に捜索願があった。部屋には上のように書かれたメモが残されていた。
「昨夜泊りに来られた女性客の姿が朝から見えません。外出するときは必ずひと声おかけくださいとお伝えしていたのですが、何も言わずに朝早くに出て行かれたようです。また自殺なのではないかと心配で心配で……」
捜索願があったのは午前10時。異例のスピードで捜索が始まったが、ここ数か月の間に何件もの投身自殺があり、事態は急を要するとの警察の判断だった。
「警部。このメモは書置きでしょうか。辞世の句のようにも読めます」
「そうかもしれん。先行きの見えない人生に疲れ、少しは明るい兆しが見えたとしても、その一寸先は闇、雨が降るばかり。そんなようにも読める」
「……となると、もう生きていてもしかたがないと自殺する可能性はじゅうぶんありますね」
「すでに湖に身を投げてしまったのか、それともまだどこかで躊躇しているのか、とにかく急いであたりを徹底的に搜すんだ」
まだ池の周りには深い霧が立ち込め、捜索はなかなか捗らなかった。警察署員、消防隊員、村役場の職員、旅館で働く人々、多くの人員を割いて湖に沈んではいないか、身を投げようとさまよっていないか、と行方不明の女性を捜していた。昼になって霧は少し晴れてきたものの、良い報告は得られなかった。
ところが、夕方になって行方不明とされていた女性が湖付近にひょっこりと現れた。捜索隊は胸をなでおろした。
「無事でよかったです。今までどうしていたのですか」
「今日は天気が悪くなるとのことだったので、夜が明けてすぐに湖の向こう側の山に登っていたんです。雨が降る前に帰って来れてよかったです」
「部屋に書置きがあったのですが、あれは辞世の句ではなかったんですか」
「書置き? 辞世の句?」
「はい。
というメモです」
「ああ、それは今日の天気予報のメモです。
それで、朝早くに出て夕方には帰ってこようと思ったのです」
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
こちらの企画に参加しています。
#シロクマ文芸部 お遊び企画
お題: #霧の朝
小牧幸助さん。
いつもありがとうございます。
よろしくお願いします。
スキ、コメント、フォロー、記事紹介、サポート、大歓迎です。
よろしくお願いします。
#いつきさん 、いつもありがとうございます。#賑やかし帯 保管庫はこちらです。