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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「ホームシックにならない寮」(Yale University・篠宮芽衣)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、Yale Universityに留学している篠宮芽衣さんによる寄稿です。

みなさん、はじめまして!
大阪生まれ、シンガポール育ち、神奈川県在住、アメリカのイェール大学で心理学を勉強中の篠宮芽衣です。南国育ちで寒さに耐性がない中、2度目の冬を極寒の東海岸で迎えていて、ヒートテックの枚数が日々増えています。

マイナス20度の中、Silliman Collegeの中庭で撮った一枚。

はじめまして、ということで本題に入る前に軽く自己紹介をさせてください:) 3歳から10歳まではシンガポールのインターナショナルスクールに通い、帰国後は神奈川県の公立の小学校に通ったのち、私立の中高一貫校に入学しました。高校卒業から9月の大学入学までの間は慶應義塾大学の環境情報学部に在籍していたので、ありとあらゆる教育スタイルを網羅したような気がします。笑

現在はイェール大学の2年生で、ざっくりとサイコパスの脳の仕組みや人格心理学の勉強をしていますが、主に発達心理学の分野で子供のモラルについての研究をしています。子供の発達心理のラボに所属しているのですが、ラボ帰りに「今日は5人の子どもに実験してきた!」などとルームメイトたちに言っているうちに、あだ名が "mad scientist" になってしまったので、今年のハロウィンはその仮装をしようかと。2年生になってからは、寮内にあるカフェでバリスタとして働き始めたので、最近ではラテアートをマスターしようと奮闘中。

冗談はさておき、みなさんお待ちかねの「寮生活」について触れていきたいと思います!「寮生活」という言葉を聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか。ハリーポッターファンの方はホグワーツを思い浮かべるのではないかと思いますが、そうでない方はイメージがあまり湧かないのではないかと。

そこで、みなさんに「学生生活の中で、キャンパスに住むことの意義」などを伝えていく中で、イェール大学のResidential College Systemについて紹介したいと思います!

住んでいる寮(Silliman College)の中庭での一枚。暖かくなると、この芝生の広場で本を読んだり、サッカーをしている人を見かけたりします。

イェール大学には14個の寮(通称:カレッジ)がキャンパス中に散らばっており、各寮にダイニングホール、ジム、映画シネマ、アートルーム、バスケットボールコート、学生カフェなどがあります。それぞれのカレッジには独自の特色やイベントがあったり、常に「私たちの寮が一番いい!」と競い合っていたりするので、寮内の団結がかなり強めなのが特徴です。また、生徒間の対決意識だけでなく、各カレッジで働く従業員や教授間でも自分たちのカレッジが一番だ!という意識が常にあります。秋になると、各カレッジのダイニングホールスタッフが旬な食べ物を使ったレシピで対決する収穫祭などのイベントがあったり、初雪の際にはカレッジ対抗の雪合戦を実施したりします。

カレッジの部屋は「スイート」という単位で形成されており、だいたい4~8人が一つのスイートに住んでいます。各スイートには各々の寝室に加えて、リビングルーム(通称:コモンルーム)があります。

普段映画を見たり、みんなで勉強をしたりしている、スイート内のコモンルーム。

学生は入学前に各カレッジに振り分けられ、生活リズムや清潔観念についてのアンケートをベースにルームメイト・スイートメイトのグループが組まれます。2年目からは同じカレッジ内で、自分たちでグループを組むことができ、くじ順で好きな部屋を選ぶこともできます。2年目の私は同じカレッジ内の仲良し6人でグループを組み、上位のくじ順で見事第一希望の部屋に住むことができました!

日本では当たり前ですが、少なくともアメリカの寮生活ではなかなかありえない「スイート内では土足禁止」のポリシーが私たちのスイートにはあり、きれいに保つようよくみんなで掃除をしています。もちろん掃除するだけではなく、部屋のみんなのみならず、他のカレッジの友達ともコモンルームで映画を見たり、みんなで勉強したり、ワッフルを作ったりしており、スイートは私にとって憩いの場となっています。

2人が住むベッドルーム。

先ほど述べたように、寮内にダイニングホールなどの施設があるので、外が凍てつくような寒さでも気軽にジムにいくことができるので、大学に入ってからすごく健康になったような気がします。勉強の合間や気晴らしに、ジムに行って5キロ走ることが日課になり、大学生にしては珍しく健康的な毎日を過ごしています(笑)

ラテアートをマスターしようとしている、Silliman College内にあるThe Acorn Cafe

アメリカの大学といえば "work hard play hard" で、みんな毎週末パーティーをしているイメージですが、実は私は一度もパーティーに行ったことがありません!そういう "Social" なイベントに参加しなくても、自然と仲のいい友達がたくさんできたのは、寮に住んでいるおかげだと思います。

一緒に住んでいるからこそ、その人たちの様々な価値観に触れることができ、一緒に授業を受けるだけではなかなか話す機会のないトピックについて話したり、「深い」関係を築き上げることができます。「グリーンアップルだと思って食べたら実はセロリだった」などの本当にどうでもいいくだらないその日の出来事の話から、政治や宗教の役割などの真面目な議論までを夜な夜な勉強しながら、紅茶を飲みながら、洗濯を畳みながらできるのは、寮生活ならではの魅力だなと個人的に感じています。

仲良しのスイートメイトとMid-Autumn Festivalを祝ったときの一枚。

また、各カレッジにはそれぞれHead of College・Dean of College・College Affiliatesという形で、学生のみならず、教授や大学院生までもが一緒に住んでいます。Dean of Collegeは勉強面でのサポート、Head of Collegeは学生の精神面でもサポートをしており、College Affiliatesは学部生のためにイベントなどを開いたりします。

私の住むSilliman Collegeのヘッドは、イェールの有名教授Laurie Santosで、昨年イェールの史上最多の受講者を記録した "Psychology and the Good Life"という授業を教えた教授です。有名教授でありながら、Sillimanでは母親のような存在で、カレッジ内の500人の名前を把握していたり、みんなの健康を思ってヨガクラスを開いたりしています。加えて、ダイニングホールで気軽に一緒に食事したり、自分の興味分野のイベントがあったりするとわざわざ連絡をくれたり、いつも気にかけてくれる存在です。

心理学の教授なので、私の興味のある分野のゲストスピーカーなどがイェールに来るときは、Head of College House(寮内のヘッドのお家)で、なんと合わせてくれたりもします。有名教授とこのような関係を築くことはなかなかできないので、これもまた教授とも一緒に住むことのできる寮生活の魅力だと思います。

食事をするだけでなく、交流の場となっている寮のダイニングホール。

ただただキラキラしているように見える海外大学生たちですが、ご飯が不味かったり、課題やテストに追われていたり、家族に会いたかったりして、留学中一度はホームシックになる人がほとんどです。しかし、このResidential College Systemのおかげか、「私は一度もホームシックになったことがない」と自信を持って言えます。スイートメイト、ルームメイト、寮の友達、ダイニングホールのスタッフやHead of College、全員が家族のような存在で、ホームシックに感じさせる隙さえ与えてくれません。

まだ大学を卒業すらしていませんが、私にとってこれらの経験はイェールで寮生活をしていたからこそできたことで、ここで築き上げた友人関係や絆は一生ものだと断言できます。イェールでの生活は2年ほど残っていますが、最近はよく友達と「卒業後ぽっかり心に穴が空いてしまいそう」などと半分冗談で話しています。それほどイェールでの寮生活・学生生活は私にとって貴重な経験で、大切なものになっていることに気づかされる日々です。

寮生活のほんの一部しか紹介できませんでしたが、どうしたか?本当はもっともっとたくさん大学でのエピソードを紹介して、みなさんにイェールの魅力を知ってもらいたいのですが、言葉だけではなかなか溢れ出るこのイェールに対するラブが伝わらない部分があると思います。笑(ちなみにちなみに、イェール信者を増やすことが私の密かな野望です。笑)

キングス・クロス駅の9と3/4番線ならぬ、ニューヨークのGrand Central StationからMetro Northでイェール大学へ、一度イェール大学の寮生活をのぞいてみてはいかがですか?

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