見出し画像

レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「違いを認識し尊重する文化と寮生活」(Swarthmore College・中野かりん)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、Swarthmore Collegeに留学している中野かりんさんによる寄稿です。

みなさん、こんにちは!現在 Swarthmore College 2年生の中野かりんです。
現在大学では、教育学とコンピューターサイエンスの2つの分野を学ぶと同時に、東アジア学、特に日本に焦点を当てた授業を取ったり、統計学なども学んでいます。
寮生活とはどんなものなのか、想像するのは難しいと思います。私も大学生活が始まるまで、どんな生活が待っているのか検討がつきませんでした。キャンパスに住むことはただ単に部屋に寝泊まりするだけではありません。今回は Swarthmore での生活を通して、そんなレジデンシャルカレッジの様子をみなさんに紹介できたらと思います!

Swarthmore College のユニークなところ

レジデンシャルカレッジについてお話する前に、少しだけ Swarthmore College の根幹となっている 思想について紹介したいと思います。
Swarthmore では他の大学では珍しく、ダイニングホール(食堂)がたったひとつしかありません。この背景にあるのが、プロテスタントの一種で、平和主義としても知られる Quaker だった大学設立者の宗教思想です。彼らが唱える平等主義は、今でも大学の様々なところに活きています。「バックグラウンドやアイデンティティ等に関わらず、全員が同じ屋根の下で食を共にする」という Quaker の考えから、ダイニングホールも一つしか存在しないのです。

<Sharples Dining Hall:ダイニングホールが一つしかない分、中はいくつかのエリアにわかれていて、比較的静かなエリアや、広くてにぎやかなエリアなどがあります。みんなそれぞれお気に入りのエリアがあり、ダイニングホールは大切な交流の場のひとつです!>
出典:Swarthmore College Meals on the Go (https://www.swarthmore.edu/dining-services/meals-go

寮の仕組みと選び方

Swarthmore では約1600人いる全学生のうち、98%の学生が4年間を通して寮に住みます。
Quaker の平等主義に基づき、他の大学にあるようなテーマごとの寮はなく、2つほどある男女別の寮以外、すべての寮がどんなバックグラウンド・アイデンティティ(ジェンダーを含む)をもつ学生でも住めるようになっています。ジェンダー別となっていない寮では、トイレ・シャワーも ジェンダーに関わらず誰でも利用できるものと、男女の性別でわかれているものがあり、ワンフロア以内の移動でどちらも利用できるような配慮がなされています。
入学が決まり夏が近づくと、大学からアンケートが送られてきます。夜型か朝型か、自分の部屋に人を連れてくるのは良いかなど、生活や性格に関するものが聞かれ、寮やルームメイトを決める際の重要な判断材料となります。私が印象に残っている質問は、ルームメイトは同性・異性・どちらでもよいかという質問(Swarthmore では異性の友達とルームメイトになることも珍しくありません)や、政治観について聞かれたことです。2年目以降は抽選番号順に住みたい人と寮を自分で選んで決めます。


寮の優れているところ

私は1年生の間、Dana という寮で1人のルームメイトと一緒に住んでいました。

<Dana の外見>(筆者撮影)

<部屋に初めて着いた時に撮影した写真(内装とドア)。どのドアにも名前、Class Year、出身地が書かれた紙が貼られ、RAがメッセージを書いてくれていました!>(筆者撮影)

Swarthmore の寮の各フロアには、学生のサポート全般を担うRA(Residential Assistant)の他に、マイノリティの学生のサポートを行うDPA(Diversity Peer Advisor)、フロアのサスティナビリティを維持・教育するGA(Green Advisor)と、アカデミック面のサポートをする SAM(Student Academic Mentor)がおり、4人の学生がチームとなってフロアに住む他の学生のサポートを行います。

< 寮にあるゴミ箱にも分別についてしっかりと表示がある >(筆者撮影)

RAは毎週日曜日の夜に MMK(Monday Morning Kickoff)というゆる~い集まりを企画し、フロアメイトとお菓子を食べながら「最近どう?」という感じで、チェックインをしていました。私も来年度の授業を決める際にはSAMに相談したり、学期初めにホームシックになった際にはRAの部屋(といっても、隣の隣の部屋(笑))に招いてもらい、RAがいれてくれたお茶を飲みながら2人で話したりもしました。
またDana は、Hallowell と Danawell という3つの寮が合体した寮になっていて、Hallowell や Danawell に住む学生とも繋がれたり、3つの寮の RA をはじめとする学生のサポートチームがピザパーティーやムービーナイトなどのイベントを開催してくれ、3つの寮をまたいだ交流があったことは、とてもよかったと思います。

<寮のキッチンを使って、日本文化クラブのメンバーと日本食を作りました!2枚目の写真は隣の寮(Danawell)のラウンジにて。>(筆者撮影)

<寮のラウンジで開催されたハロウィンパーティにて>(筆者撮影)

Swarthmoreの文化と私の寮生活

入学直後のオリエンテーションで知り合った友達に、自分が日本人だと伝えたら「じゃあ、かりんは日本語は話せるの?」と聞かれたことがあります。「日本人なんだから、話せるよ!(笑)」と返したら、「Swarthmore には様々なバックグラウンドをもつ学生が集まっているから、その国から来たからといってその国の言語が話せると仮定したくなかったの」と言われ、はっとさせられた経験があります。自分にとっての当たり前が、必ずしも他人の当たり前ではない、ということを自覚する重要さを身に染みて感じた日でした。
このように、学生がみな多様なバックグラウンドをもっていることを認識する文化は Swarthmore に強く根付いていると思います。寮にテーマがないため、Swarthmore では寮それぞれの文化はあまりありませんが、寮生活を含む学生生活全体には inclusivity(包括性)が重視されています。授業ではもちろん、ダイニングホールで生まれる会話や寮生活の中でも、様々な背景をもつ学生が集まっていることを認識し、違いを尊重する文化があり、自分の常識を相手の常識としないことが共通認識としてあるように感じます。
Swarthmore での寮生活を通して、私は生活の中で相手との違いを受け入れ、互いを尊重することを学ぶことができたと思います。寮生活は、授業など一時的に接する環境よりも、より濃密で深い関係を構築することを求められます。洗面所やシャワーの使い方、生活習慣、パーティーに対する考え方など、一緒に住むからこそ気づく違いがあり、そのような違いを尊重し共に生活する術を学ぶことができます。同じ部屋、同じフロアに住んでいるからといって、みんなが同じスタンダードをもって生活することはありません。そんな中で、自分にとって大切なことや自分の生活ルーティン、また違う生活習慣をもつフロアメイトや友達と共に生活する上で、大切なコミュニケーション力や忍耐力、柔軟な姿勢が学べたように思います。

HLABと一緒に「多様な人々が共に住みながら学び合う」環境をつくっていきませんか?小さなサポートから、新しい時代の教育を!