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わずか2年で観客数が10倍、5000名越え。フェンシング改革の仕掛け人・太田雄貴さんが語る、マイナーコンテンツの広め方 〈太田雄貴さんと考える未来のキャンパス〉

人びとの価値観や生き方の変化に伴い、教育のあり方も現代版にアップデートされつつあります。たとえば、生徒が能動的に授業に参加する「アクティブラーニング型授業」や、世界一流大学の講義を自宅で受講できる「MOOC」など、従来の受動的で画一的な教育ではなく、能動的に関心のある分野を探求できる機会が増えているんです。

そうした状況下において、HLABは新しい教育の形を広めようとしています。国境や世代を超えた生徒が集まり、寮で共同生活を営みながら学習する「レジデンシャル・カレッジ」がその1つ。2021年の開校を目指し、推進の前段階として「未来の教育の在り方」を探るためのイベント「未来のキャンパス」を開催しています。

本イベント第4回に登壇いただいたのは、日本フェンシング協会会長・太田雄貴さん。太田さんは、日本ではマイナースポーツであるフェンシングを広めるために、新たな概念「ベンチャースポーツ」を提唱。スポーツとの新たな関わり方を創出することで、世間のフェンシングへの関心を高めるべく尽力しています。

日本初の教育「レジデンシャル・カレッジ」を広めようとするHLABと、マイナースポーツの普及を目指すフェンシング協会。似た志をもった2団体の代表が集まった本イベントでは、「現時点では『マイナー』なものを『メジャー』にするために、どのようなアプローチを採るべきか?」というテーマで、セッションが繰り広げられました。

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「テレビに出る=メジャー」が成立しない今、応援者の参加機会を増やすことが重要

「フェンシングは、最終的には『メジャー』にはならないです」

イベントは、太田さんの意外な一言–––ある意味で、イベントの趣旨を覆しかねない発言でスタートしました。

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31歳の若さでフェンシング協会の会長に就任した太田氏の任務は、フェンシングを普及することだったはずーー。「メジャーにならない」とは、どういった意味なのでしょうか。続く発言から、太田氏の「戦略」が少しづつ明らかにされていきます。

太田:これまで「メジャースポーツ」であるかの判断軸は、「地上波で放映されているか否か」でした。たとえばフィギュアスケートの競技人口はフェンシングより少ないですが、世界大会が盛んに放送されているがゆえに、メジャーだとみなされていますよね。反対にバスケットボールは、実は日本で一番競技人口が多いにも関わらず、最近までは地上波での放送が少なく、マイナーだとみなされていました。こうした判断基準に則ると、フェンシングは「マイナースポーツ」と呼ばれることになるでしょう。

そこで、フェンシングはテレビから離れたポジションをとることにしました。観戦するだけでなく、参加するための機会を増やして競技人口を底上げすることで、「フェンシングって面白そうなことやってるよね」と思われるようにしたいんです。


“副業限定”の募集に対し、1127人が応募。太田雄貴が語る「”関わりたくなる”取り組み」の秘訣

フェンシング協会の取り組みに興味を持ってもらえるよう、「普及させていく過程そのもの」をコンテンツ化することにこだわっていると、太田さんは語りました。またそれを世の中に効果的に発信するためには、世の中の潮流を汲むことが肝要と言います。

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太田:僕が目をつけたトレンドは、「働き方改革」をはじめとする兼業・副業の流れでした。新しい働き方として、副業としてスポーツに関わるモデルを提示したいと思ったんです。そんななか、力を貸してくれたのがビズリーチ株式会社の代表取締役社長である南壮一郎さん。2018年10月にビズリーチ上で「副業・兼業限定」のスタッフ公募を開始し、経営戦略アナリストやPRプロデューサーなど、4職種を募集しました。

この募集には、1127名もの方々にご応募頂きました。僕も一部面接をしましたが、中には大手企業の幹部の方もいたりして、「あれ、僕が面接されてるのかな…?」と思っちゃうこともありましたね(笑)。でも多くの方々が、フェンシングを副業として「自分のスキルをアウトプットできる、学びの場」と認識してくださったのは、自信に繋がりました。

また、フェンシングをはじめとしたマイナースポーツに関わる楽しさとして「一緒に『0→1』で盛り上げていく感覚」を挙げる。

太田:フェンシングが有名になるまでの過程を一緒に追うことができるのは、特別なんじゃないかなと思いますね。弱小高校を甲子園の優勝まで導いていくような楽しみがある。これも「コンテンツ化」の1つですよね。

こうした取り組みのコンテンツ化の成果も、着実に結果として表れています。たとえば、2016年時点では600人ほどだった高円宮杯フェンシングワールドカップ東京大会の観客動員数は、2019年1月の開催時には5000人を突破。太田さんが自身のFacebookで、「来場者数というのは、現在のフェンシング界への評価だと思っています」と綴っている。

組織の緊張感を保つために「絶対に裏切れない人」を入れる

観客動員数も増え、順調に見える日本フェンシング協会の活動ですが、太田さんは「マネジメントの難しさを感じる」と言います。副業をはじめとした様々な関わり方が増えるなかで、「フェンシング協会を『自分ごと化』してもらうためには、どうすればよいか?」と日々考えているそうです。

イベント終盤の質問コーナーで、メンバーに「自分ごと化」させるためのコミュニケーションの好例として、Yahoo!株式会社常務執行役員を務める小澤隆生氏のスタイルを紹介してくれました。

太田:以前、小澤さんが地方にある自社コールセンターに直接赴き、担当スタッフに声を掛けていらっしゃる姿を見たことがあります。コールセンターは日頃からクレーム対応に従事していることもあり、ストレスを抱えやすい仕事。日々エンドユーザーと接している方々に対して、トップが「見守っているよ」と伝えることは、それだけで救いになると実感しました。こうした事例を参考に、疲れたメンバーがいたら「大丈夫?」と声を掛けることで、僕自身が組織のガス抜きができるようなコミュニケーションを取っていきたいと考えます。

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小澤さんは、日本フェンシング協会のマーケティング委員長も勤めています。この外部人事にも、太田さんの戦略があるそう。

太田:セルフマネジメントの一種でもあるのですが、多くのひとを巻き込む以上「絶対に裏切れない人」を入れるのが大事だと思っていて。フェンシング協会には小澤さんや、メディアアーティストの落合陽一さんを招聘しているのですが、優秀な外部の方々に仲間に入っていただくことで、気持ちが引き締まるんです。また、組織にシンボリックな方が所属していることで、PR効果も生み出される。

そうしたネームバリューのある方々にジョインしていただくためには、「すすんで頼まれごとをされる関係性になると良い」と続けます。

太田:一方的にお願いをするのではなく、こちらから“GIVE”を行うことで、相談に乗ってもらえるようになります。そして、彼らにフェンシングが「勝ち馬」だと思ってもらうことが重要です。だれもノーポテンシャルな業界を手伝いたいとは思いませんから。

メダルはあくまで「通行手形」。 太田雄貴は、なぜ引退後も燃え尽きなかったのか

ここで、話題は太田さん本人に移ります。北京オリンピック・ロンドンオリンピックと立て続けにメダルを獲得した太田さんが、引退後も燃え尽きることなくフェンシングの為の活動を続けることができるのは、なぜか。HLAB代表小林からの質問に対し、太田さんは「通行手形」という概念に触れ、メダル獲得の“真の意味”を教えてくれました。

太田:多くのスポーツ選手にとって、オリンピックは最強の「目的」。メダルという強烈な目的のために、辛い練習を乗り越えます。反面、メダルを獲得して目的を失ってしまうと、燃え尽き症候群になってしまう選手が多いんですよね。

でも、僕にとってのメダルは、フェンシングを広めたり、会いたい人に会うための「手段」にすぎませんでした。メダルは、“期限付きの通行手形”のようなもの。「メダル獲得者」という肩書きのレバレッジをきかせて、会いたい人に会ったり、どれだけやりたいことができるかが大事だと思います。

さらに、太田さんは「通行手形を手にする機会可能性は、誰にでもある」と続けます。

太田:「メダル」と聞くと縁遠いと感じるかもしれないですが、みなさんにも「通行手形」を得るチャンスはありますよ。藤原和博さんの有名な話に「100分の1の掛け算」がありますが、「100人に1人」の希少性を3つの分野で達成すれば、100万分の1の人材になることができます。まずは1つの分野で専門性を身につけ、そこから自分のポジションを確立していくことが大事なのではないでしょうか。

イベントの最後に、太田さんからHLABの「レジデンシャル・カレッジ」への印象と、今後の活動へのエールを語っていただきました。

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太田:多様な学生が集まり、住環境を通じて学び合う…。率直に、夢のあるプロジェクトだし、一緒に関わっていきたいひとはたくさんいると思います。これから協力者を募っていくなかで、話題性はもちろん、参画することがステータスになることも必要。参加者と運営がいい緊張関係になるといいのかなと思っています。フェンシングも、関わってくれる人びとがステータスだと思ってもらえるような組織を目指していきたいですね。

太田さんのフェンシングへの熱量が冷めやらぬまま、講演会は幕を閉じました。イベントで述べられていたように、マイナーな取り組みが世間で広まっていくためには、「取り組みのコンテンツ化」と、緊張感をもって取り組める「シンボリックな人材」が必要です。HLABの「レジデンシャル・カレッジ」をより普及させられるよう、太田さんの話を教訓にしていきたいと思っています。

今後もHLAB「未来のキャンパス」では、「多様性」「レジデンシャル教育」「コミュニティ」といったキーワードを活動の軸とされている方をお迎えし、新たな学校の形を探るための議論を行なっていきます。もし興味をもったら、HLABのFacebookをチェックしてみてください!
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過去3回の「未来のキャンパス」記事はこちらからご覧いただけます。

執筆:半蔵 門太郎
編集:小池 真幸
写真:植田 陽

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