レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「自分と違う人と関われる場所」(Princeton University・浜田真帆)
HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。
HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。
今回は、カナダの全寮制高校(UWC Pearson College)を経て、Princeton Universityに留学している浜田真帆さんによる寄稿の続きです。今回はプリンストン大学での寮生活についてご紹介します。
プリンストン大学2年生の浜田真帆です。小さい時に帰国子女の友達を通して、アメリカの文化に触れていたことから、日本の外の世界にずっと興味を持っていて、高校2年生の時に、経団連の派遣プログラムでカナダの全寮制の高校に留学しました。カナダでの高校生活から、文化や芸術への興味は益々強くなり、大学では経済を勉強しながら、美術の授業をとったり、芸術に興味のある生徒と交流を深めたりしています。今学期は大学の交換留学生としてイタリア、ミラノの経済大学で勉強をしています。
前回の寄稿では高校時代の寮生活について書かせていただきましたが、今回はプリンストン大学での寮生活についてご紹介したいと思います。
1・2年生は全員寮生活
プリンストン大学では、新入生は6つの寮に振り分けられ、最初の2年間を過ごします。3年生に上がる時には、この6つのうち上級生も住むことができる寮・上級生専用の寮・もしくはキャンパス外に住むという選択肢がありますが、大学の外には大学生が住める場所があまりないので、結局ほとんどの生徒が4年間、寮で生活をします。
1年目は、入学前に答えるアンケートの回答を踏まえて、寮、部屋とルームメイトが決まります。アンケート内容は、ルームメイトの人数の希望や起床と就寝などの生活パターンから、音楽の好み、散らかった部屋に耐えられるかなど様々な項目に渡っていました。私はMathey College(マティー・カレッジ)の寝室が2つとリビングルームが繋がっている4人部屋に住むことになりました。「一人部屋がいい」と希望を出そうかとも思ったのですが、学校のシステムについても、アメリカの文化についても分からないことがたくさんあったので、結果的に色々なことを相談できるルームメイトがいたことはとても心強かったです。
1年目は運のいいことに、大学で最も美しい寮の部屋に住むことができた。
1年目の寮の部屋。エンジニアでファッションデザイナーのルームメイトからは、いつも自分の知らないことを教えてもらっていた。
それぞれの寮に生徒のためのサポート体制
学生の生活の中心として、各寮にサポートシステムがあります。まずは、学業面のアドバイザーと生活面での相談に乗ってくれるアドバイザーがいて、生徒の生活をサポートしてくれます。
また、寮ごとに生徒による委員会があり、テスト期間にピザやクッキーなどの夜食を提供したり、寮でお揃いのTシャツをデザインしたり、イベントを企画してくれたりします。さらに1年生は、寮で部屋が近い15〜20人のグループにつき、生活面と学業面のそれぞれで相談に乗ってくれる上級生がいます。2人の上級生は毎週グループで集まる企画をしてくれたり、授業や部活を選ぶ時期に親身に相談に乗ってくれたりします。教授や授業の評判だけでなく、専攻を決めた経緯、大学でやってよかったこと、逆に失敗したと思っていることについて先輩自身の体験談を話してくれました。
同じ大学内で生活をしていても、人によって目的も活動も様々で、新入生としては自分の興味を追求するのに、どのような機会が与えられているのか、把握することも難しいので、先輩のアドバイスは参考になりました。
それぞれ机に向かって勉強したり、熱く語り合ったりする共有スペース
寮を中心としたコミュニティ
寮のグループで一緒になった同級生とは部屋が近くて、共用の洗面所で顔を合わせることもよくあったので、すぐに仲良くなりました。お互いに連絡をしあって食堂で夜ご飯を食べたり、テスト前には集まって勉強をしたり、たくさんの時間を過ごしました。私の所属していたグループは、エンジニアと医学部志望が多くて、経済学部志望の私とは違う興味を持っている子が多かったので、自発的に集まることはなかったと思います。それでも一緒に住んでいることで関わる機会を持てて、話すたびに自分の知らないことを教えてもらえていたことが、寮生活の魅力の一つだと思います。
食堂で新入生オリエンテーションでの友達とごはん
芸術・人文学のコミュニティ
2年生に進級するとき、通常は同じ寮に住む友人とグループを作って、抽選で決まった順番で希望の部屋に住むことになるのですが、私は希望を出して、芸術・人文学をテーマとしたコミュニティに所属することになりました。このコミュニティは芸術・人文学に興味のある30人弱の生徒が集まり、この分野を専門としている2人の大学院生とともに同じ寮に住みます。主な活動としては、美術館へ行ったり、演劇を鑑賞したり、長期休みにロッジを貸し切って、製作活動をしたりします。コミュニティのメンバーは、専攻としてそれを中心に大学生活を送っている生徒から、芸術に触れる機会を増やしたい、という思いで参加している生徒まで様々です。
私は、経済学部を志望していると、授業もそこで出会う友達も偏ってしまい、興味のある芸術や人文学に関わりを持つことが難しいので、このコミュニティに所属することが、色んな分野について知る機会になれば嬉しいと思って参加しました。大学院生が毎週提供してくれるブランチで演劇のプロジェクトについての話を聞いたり、現代風にアレンジされたくるみ割り人形を観た帰り道にクラシックバレエを専門にしている友達と感想話し合ったりするのは、このコミュニティに所属していたからこそ、実現したことだと思います。
コミュニティの活動の一環としてバレエを観にいったときの様子
助け合いの精神と面倒見の良さ
キャンパスを歩いていると、至る共有スペースで一緒に勉強している生徒を見かけます。プリンストン大学ではどの授業においても、教授から生徒同士で協力して課題に取り組み、テスト勉強をすることを勧められます。大学も基礎的な数学の授業など、履修する生徒が多い授業には、その授業を既に受けた生徒に1対1で教えてもらえるシステムを提供してくれています。一人一人がより良い成績を取れるように、昼夜問わず勉強をしていますが、決してクラスメイトを意識して競争するような雰囲気はなく、お互いに協力しながら一緒に乗り越えていくような感覚さえあります。
先輩の面倒見もとても良くて、相談を持ちかけると忙しいスケジュールの中に時間を見つけてくれたり、相談の内容に合わせて友達を紹介してくれたりします。先輩自身も、やはりさらに上の先輩にお世話になっていて、大学生活において数年先を行っていることで後輩に比べてどれだけ多くの気づきがあるかを実感しているので、上級生として快く応援をしてくれます。この文化は多くのプリンストン生が大学の好きなところとして誇りに思っていることなので、これからも上級生から下級生へと引き継がれて、続いていくと思います。
寮の部屋で友達と勉強している様子。試験前になると他の部屋からも友人が集まり、わからないところを教えあっていた。
自分と違うからこそ教わること
プリンストン大学に入学して、自分と違う興味を持っている人、違うライフスタイルを持っている人と関わる機会を見つけるのが意外にも難しいことに驚きました。アスリートはアスリート、芸術家は芸術家、エンジニアはエンジニアで(アメリカはいくつか掛け持つ人ももちろん大勢いるので、はっきりと分けることはできませんが…)活動場所や生活リズムが違うので、なかなか一緒に時間を過ごすことがありません。
そんな中、寮というのは自分とは違う活動をしている同年代の友人を作り、深い関わりを持てる場所です。自分と必ずしも同じ興味を持っているわけではない、違う人生経験や価値観を持つ友人たちと学業に関係なくいろいろな話をして考えを深められます。それぞれに取り組んでいることは違いますが、同じ“プリンストン大学での学生生活”を一緒に乗り越える仲間になります。同じ場所で生活をしていた、ということは不思議なほど強い絆を生むので、卒業生同士の繋がりもより一層強いものであるように感じます。
寮のグループのみんなと食堂でごはん(筆者は左から2番目)
浜田さんのUWC Pearson Collegeでの寄稿はこちらからお読みください。
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