レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「文化の違いをありのままに受け入れる」(Harvard College・小林寛生)
HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。
HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。
今回は、Harvard Collegeに留学されていた小林寛生さん(2015年卒業)による寄稿です。
私は14歳から米国に住んでいたのですが、地元の強豪サッカーチームでプレーしていたところ、ハーバード大学を含む様々な大学のサッカーチームからオファーを頂きました。サッカー部はどの学校も毎年6~7名しか呼べないので狭き門ではあったのですが、ハーバードの当時のコーチが私を熱心に誘ってくださったので、高校2年生の夏休みを利用してハーバード大学サッカー部のキャンプに参加いたしました。そこで大学の文化やキャンパスライフに触れ、とても感激し、そこから2年間一生懸命勉強しました。スポーツ経由での大学入学は、Common Applicationを提出する一般入学と全く性質が異なってまして、実は日本ではあまり知られていないのですが、私はそのルートで無事にハーバード大学に入学することができました。
今回は私が大学1年生、いわゆるFreshmanのときに住んでいた学生寮についてお話したいと思います。
私が卒業したHarvard大学は、全寮制を取っております。1年生から4年生まで合わせて全校生徒がだいたい7,000人ほどいるのですが、少数の生徒を除く7,000人ほぼ全員がキャンパス内にある学生寮に住んでいることになります。
1年目からいきなり面識のない外国人とルームシェア生活を始めることになるのですが、まず入学の半年ほど前に大学から寮生活についての案内メールが入ります。そのメールの中で、寮生活に関するアンケートに答えることになるのですが、その中で希望するルームメイトの数、性格、趣味、その他自分の理想のルームシェア生活をかなえるために、様々なリクエストを送ることができます。そうすると、詳細は分かりませんが大学側がルームメイトをマッチングしてくれて、入学の2~3ヵ月ほど前にまた大学からメールが届き、自分のルームメイトが誰になったか知ることになります。私の場合は自分を含む5人部屋に割り当てられ、メールが届いたその日中にルームメイト全員からFacebookでの友達申請が届きました。さっそくグループチャットができて、それぞれ自己紹介をしたりしましたね。
1年生のときに住んだ「Weld」という寮。(画像は以下サイトより引用)
http://www.hcs.harvard.edu/~trishin/sergey/galleries/2004/froshdorms/weld/index.htm
入学初日、いざ私が住むことになったWeldという学生寮に向かってみると、割と大きい5階建ての1年生専用の学生寮で、自分の部屋の真下は、あのJohn F. Kennedyが住んでいた部屋として有名でした。まず初めに驚いたのは、両隣の部屋が女性の部屋だったことです。日本の学生寮はだいたい男女分かれていて、男女それぞれ互いの学生寮には入ることが禁止されているのが普通だと思いますが、自分が住んでいた学生寮は男女兼用でした。しかもシャワールームおよびバスルームが階にひとつしかなく、毎日タオル一丁の男女が廊下を行き来していたのは衝撃でした。
大学一年時に住んでいた寮の同じフロアに住んでいた友人との写真
次に驚いたのは、自分のルームメイトのうち1人がバイセクシャルであったことです。自分はそれまでの18年間、同性愛カルチャーに触れたことがなく、話では聞いたことがあっても、周りにホモセクシュアルの方はいませんでした。いや、いたかもしれませんが、同性愛者がカミングアウトするような文化の地域で育ってはこなかったので、気付いていなかっただけかもしれません。9月入学で、自分は実は10月まで彼がバイセクシャルであることに全く気付かなかったのですが、ある日たまたま彼が男性とキスをしているところを目撃し、部屋に帰り別のルームメイトに聞いてみたところ”Are you telling me that you did not know about it this whole time?” (逆に今まで知らなかったのかよ!)とツッコまれてしまいました。
どうやらアメリカ育ちの他の3人のルームメイトからすると、初めて出会ったときから、話し方や仕草で彼がバイセクシャルであることが一目で分かったそうなのですが、私には見たり話したりするだけで見分ける能力など当時はなく、結局ルームシェア生活を始めてから最初の2カ月ほど気づきませんでした。彼と1年間学生寮にて仲良くルームシェアした経験は、結局今の自分がいわゆるLGBTと呼ばれる人たちに対してとても寛容的でいられることに、大きく貢献していると思います。
大学一年時、長かった冬が終わり久しぶりに外に出て休憩していたときの写真
その他にも、1年目から学生寮に住んだことを理由に、日本にいたときは考えられなかった様々なカルチャーに触れることになり、そのたびにカルチャーショックを受け、そしてそれを繰り返していくうちに、だんだんと自分の中でショックに対して鈍感になっていくのを感じました。別の言い方をすると、「文化の違い」を、ありのままに受け容れることができるようになりました。多様性の重要さがさけばれる今日の世界において、恐怖心を抱くことなく、多様性の中で生きていく術を身につけることができたのは、学生寮生活が私に与えてくれた大きな財産です。
入学式に参加する前に寮の皆で撮影した集合写真
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