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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「誰にも拘束されることがない究極の自由さ」(Hamilton College・船田美咲)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、Hamilton Collegeに留学している船田美咲さんによる寄稿です。

こんにちは!Hamilton College 1年生の船田美咲です。

生まれ育ちは東京の多摩地区ですが、小学生の頃からずっとアルペンスキーという競技に夢中で、高校も学力よりスキー部で選んだくらいでした。しかし、高校1年生の夏にスキーの合宿でニュージーランドに行った時に、カリフォルニア出身、13歳の大学生と出会いました。そこで自分の知っている世界のちっぽけさを思い知り、留学を志すようになりました。

高校時代は、スキーや学校行事しかしていなかったため、◯◯オリンピック、模擬国連、ビジコンなどといった所謂「意識高い系活動」は、参加はおろかその存在すら知りませんでした。だから私のバックグラウンドは、典型的な留学コミュニティーからは少し外れたところにあると思います。

今、大学での専攻は文化人類学です。副専攻はまだ迷っていますが、環境学やコミュニケーションあたりが気になっています。課外活動は、今学期スキー部に入り、人数が少ないのでVarsity athleteになってしまいました(笑)他には、文化人類学クラブの副代表、新しく始める日本クラブの代表、ヴィーガンクラブなどを主にやっています。時間がある時には、ヨガや哲学対話にも参加しています。

さて、私の通うHamilton Collegeはニューヨーク州の中心部の超ど田舎な場所に位置しています。キャンパスも20分で1周できてしまうほど小さいですが、そこに全校生徒1850人が寮で暮らしています。今日は、そんな寮生活について色々紹介していきたいと思います!

住んでいる寮、Southの外観。3-4階は1年生専用で、1-2階は上級生も住んでいます。

自分の住む寮が決まる仕組み

一年生の時の寮決めは、合格後にオンラインの長〜いアンケートに答えます。睡眠時間や清潔さの基準、アレルギー等の生活面に関する質問はもちろん、自分の性格や大学で取り組みたい課外活動など、こと細かに質問されます。私自身も、ルームメイト3人それぞれが自分と同じクラスをたまたま取っていたり、アカペラやスキー、フリスビー、サッカーなど同じ課外活動に興味があったりしたので、このアンケートの役目は大きいと思います。私の大学では、多くの人が最初のルームメイトとの相性が良くて、親友のようになっています。

二年生以降は、くじ引きをして番号が良い人から、住みたい場所と一緒に住みたい人を選ぶことができます。寮ごとに決まったテーマは特にありませんが、特徴的なものは、substance-free housing (アルコールやドラッグの持ち込みが禁止の寮)、少ないミールプランの生徒のために料理ができる家、4年生用のアパートなどがあります。ただ、キャンパスが丘の上に広がっているため、寮のテーマよりも立地で選ぶ人が多い印象です。

わたしの寮の良いところ

私の寮が一般的な寮よりも優れている点は、広さ・綺麗さ・便利さの三点です。私の部屋は4人部屋で、15畳くらいのコモンルームと8畳くらいのベッドルーム、ウォークインクローゼットと専用のトイレとシャワーがついています。初めて見たときは、ここで8人くらい暮らせるんじゃないかと思ったくらいでした。コモンルームが広いので、ルームメイトの友達が常に遊びに来ていて、常に活気があります。ただしそれが裏目に出て寮全体のコモンルームがほぼ使われないので、他の寮に比べると住民同士の広い交流は少ないように感じます。

そのために、RA(Residence Advisor)の学生が、定期的にイベントを企画してくれます。映画を見たり、期末試験前夜にココアを飲んだりと、特に大きなイベントはありませんが楽しくやっています。また、住人の半分が上級生であることと、激しくパーティーをする寮ではないため(小さなパーティーは週の半分以上起こってます笑)、共有エリアはとても綺麗です。また、キャンパスのど真ん中に位置しているため、メインの食堂まで徒歩30秒、図書館まで2分、数学の建物まで20秒、文学の建物まで1分で行けます。寮の中には専用の勉強部屋があるので、図書館まで行く必要すらありません。

寮の1階と4階には広いコモンルームがあり、キッチンやテレビなどを共有しています。

わたしにとっての「寮生活」

寮生活の魅力として間違い無く言えるのは、勉強に集中するのに最高の環境だということです。無駄な移動時間がないので、朝起きた瞬間から寝るまで、自分の時間を最大限に使うことができます。ド田舎にキャンパスがあるリベラルアーツカレッジでの生活では、不便さを心配する人が多いですが、実際に住んでみた感想としては、必要なものが全て徒歩15分以内にあって東京にいるよりも楽です。

また、自分とは違う人の暮らし方を間近で見て、理解を深めることもできます。私のルームメイトの3人は、とても裕福で、平日の夜にも遊びに行くほどのパーティーピーポーです。私自身はそこまで夜遊びをするタイプではないので、彼女たちから自分とは全く違う大学生活のあり方を学んでいます。寮生活を通して、授業や課外活動だけでは見られない、その人の一面がわかるのがとても興味深いです。

ルームメイト(中央二人)と別の寮に住む私の親友(右)

寮の文化

私の寮ではほとんどの人がスポーツをしていて、いわゆる”mainstream”の白人が多い印象です。毎週末、複数の部屋でパーティーが起きてます(笑)

部屋で踊るルームメイトたち

またHamiltonのキャンパスは、新しいキャンパスと古いキャンパスが”Dark side”と”Light side"に別れていて、それぞれに特有のイメージがあります。Dark sideには社会科学やアート系の建物があって、食堂もヴィーガンやグルテンフリーを意識した料理が多いです。したがって、Dark sideに住む人に対するステレオタイプは”arty, nerdy, ethnically diverse, humanity”といったものがあります。Light sideにはサイエンスセンターやジム、アドミッションオフィスなどメインの建物のほとんどがあります。Light siderに対するステレオタイプは”preppy, athletic, mainstream, sciency”などです。

このDark side vs. Light sideに関する文化は、キャンパスツアーや先輩からの話で聞きました。また、社会学や教育学、文化人類学などの授業内でよく扱われるトピックでもあります。しかし、それぞれのサイドに関するステレオタイプが事実とは異なることもしばしばあって、この文化を無くすべきではないかという議論もよく聞きます。だから、大学側や生徒たちが積極的に継承しようとしている姿は見たことがありません。

大学の文化として感じること

Hamilton全体の文化は、のんびりとしていて、それぞれが自分の好きなように生きている感じです。賢くて努力家の人が多いですが、生徒間の競争は皆無なので、私自身の高校時代に比べて、ストレスの少ない毎日を過ごしています。また、最初の学期で気がついたことは、「大学の文化」と「裕福な白人の文化」が混同されがちだということです。私の大学は7割近くの生徒が白人なので、彼らの文化がメインストリームになりがちですが、Hamiltonはどのバックグラウンドの人でも自分のコミュニティーを見つけることができる場所です。お互いの違いを尊重し、他人の目を気にすることなく自分らしくいられるのが、Hamiltonの文化だと思います。

具体的にそのような文化を教育されたことはありませんが、色々なクラブ活動や周りの人の日々の暮らしを見ていて実感します。また、私の友達は謙虚でフレンドリーな人がほとんどで、会話の中でもリベラルでオープンマインドな発言をよく聞きます。こういった文化は、Hamiltonを選んで来る生徒の性格によるものだと思うので、アドミッションオフィスの受験生選別が、文化の維持に貢献しているのかもしれません。でもそれ以外は、何か積極的に取り組んでいる仕組みなどはありません。

まとめ

寮生活は、私がアメリカの大学受験を目指した理由の1つでもあります。他人と同じ屋根の下で生活するのは決して簡単なことではありませんが、その分、授業からは得られない「生きる力」が育まれていると思います。誰にも拘束されることがない究極の自由さを毎日心から楽しんでいます。それと同時に、何をするにも責任が伴います。授業に出るのも、食事を取るのも、友達と遊ぶのも、全てが自分の積極的意思決定に基づいています。だから、大学4年間をどれだけ実りのあるものにできるかは、個人の態度次第だと思います。それは日本でアメリカでも決して変わらないことですが、「寮生活」がアメリカの大学生活に占める役割はとても大きいと感じています。そのような環境下で、勉強だけでなく人としてバランスのとれた成長ができるのが、リベラルアーツ教育の醍醐味だと思っています。

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