計画された「凡戦」:翌朝マッチレビュー(11月1日関東大学ラグビー 慶応対明治)
廃人週末締めくくりは秩父宮の第二試合、慶応対明治。早慶明の対決なのに、早慶戦や早明戦に比べるとなぜか影が薄いが、歴史的にはいろいろな名勝負が行われてきている試合だ。
毎度の速報マッチレビュー。この試合は銀杏並木のベンチで書こうと思っていたのだけれど、スマホのバッテリーが足りなくなりそうだったので帰宅してから。いろいろ書いているうちに眠くなって早寝したので結局翌日になってしまった。。。もう速報ですらないですね。。。
この試合、ロースコアの凌ぎ合いで、13対12(前半3-7)で慶応が勝った。インジャリータイムに入ってからのペナルティゴールでの逆転という非常に劇的な試合だった。
「凡戦」だったが・・・・
ただ、正直うーん。。。。というところ。
両軍ともに、ノット・リリース・ザ・ボールやノット・ロール・アウェーの反則が多すぎる。いいところでのノックオン、スローフォワードも頻発。
両チームのファンやツイッターなどで盛り上がっている人には申し訳ないと思うのだけれど、自分は「凡戦」だったと思う。正直後半眠くなった。
ただ、この「凡戦」。実は慶応がこういうゲームプランを意識的に持っていたのではないかという気がしている。
慶応の戦い方
慶応は強いタックルを徹底。「低い」だけでなく、状況によってはボールを抑えるタックルも仕掛けていた。
最近の明治は、意外にボールを横に展開する。今年1月の大学選手権決勝の早稲田戦もそうだったし、この日もそうだった。サイドに寄ったところでスクラムを取ったり、あるいはラインアウトの時、ブレイクダウンを作らずに一気に逆サイドまで展開してゲインを狙う、というのがよくある。
慶応はそれに対し、前に踏み込んでボールキャリアを確実にタックルで止めるとともに、内から外に寄せていく二線防御でスペースを埋めて、決定的な突破を防いだ。実際、前半7分のインターセプトからの偶発的なトライを除いて、後半31分のトライまで、決定的に崩されることがなかった。
後半31分のトライは、明治が取った右サイドのスクラムから左に一気に展開したもので、ループを入れて明治が人数を余らせたら慶応のディフェンスがずれてしまって、一気に持ってかれてしまったものだ。
これはある意味、思い切って前に踏み込んでタックルに行っていたことの副作用といえる。
慶応の戦い方でもう一つ際立っていたのは、テリトリーキックを上手く使ったことだ。お互いのプレイヤーの広がりをよく把握した上で、安全にキックを使いながら陣地を挽回した。
特に、22mラインギリギリ手前に落とす正確なキックを何度も繰り出してきたのは特筆すべきだろう。
逆に明治の場合、22mラインを超えたことが2回あり、フェアキャッチされていたことと比較すると、慶応がよく準備してきたことがわかる。さらに最後の慶応のチャンスも、せっかくターンオーバーしたのに蹴り出したタッチがダイレクトになってしまったことがきっかけになっている。
キックを中心に陣取り合戦をするようになると、どうしても試合展開はぶつ切りになる。今の慶応と明治の力関係を考えると、こういうぶつ切りのゲームの方が慶応には有利だ。なので、「もしやこの『凡戦』化の半分ちょっとは、慶応が意図したゲームプランによるのでは?」との印象を受けている。
3点をきちんと積み上げることの重さ
こういう地道なロースコアの展開に持って行くというゲームプランを持っていた場合、普通はPGで点を稼ぐというのが常道だ。
ただ、今日の慶応は後半は2回狙ったものの、前半あった3回のPGのチャンスはタッチ2回(しかも失敗)とスクラム選択だった。結局そのとき、一点も取れなかった。
昨日の法政もそうだが、3点取るチャンスがあるときにはちゃんと3点を取るようにした方がいいと思う。前半PG決めていれば、後半のゲーム運びはもっと楽になっていたのだから。
ラックでは立ってプレーしてほしい
さらにゲームをぶつ切りにしていったのが反則だった。実は自分の「凡戦」という印象は、ゲームの流れがぶつ切りだったという以上に、反則が多かったことによる。ボールが動いても、ノックオン、スローフォワード、そしてノット・リリース・ザ・ボールで上手く継続ができなかった。
結局、試合を決めたのも反則だった。攻め込んだ慶応が作ったブレイクダウンに対する明治のオーバー・ザ・トップだ。英語ではoff the feetと呼ばれるこの反則、ラックの状態で自立しないでプレーし、ボールが出るのを妨げた場合に適用される。
この写真がおそらくペナルティを取られたときのものだが、慶応のプレイヤーにのしかかるようにして球出しを妨害している。
他にもいくつかこういうプレーは散見された。「自立」というのは、「膝をつかない」という意味ではなく、手でバランスを取ったりもしない、ということだ。バインドしてバランスを取るまでは許されるが、手をついたら「自立」とは見なされない。
明治の大きな問題は、ラック時に自立しない習慣がついているように思えることだ。実際にはこれは明治に限らず、日本の大学ラグビーの大きな問題で、大学段階でラックで立ってプレーする習慣づけをさせることができていない(例外は強くなってからの帝京。日本代表のフォワードに帝京出身者が多いのは偶然ではない)。
そのため、日本の社会人ラグビーも長い間「ラックで寝てプレーする」習慣がついており、それが世界との差を広げる一つの大きな理由になっていた。最近ではトップリーグでは立ってプレーすることが多くなってきているが、大学レベルではまだまだだ。
実際、反則を取られたこのときだけではなく、慶応が終盤に明治ゴール前で次々と作ったラックにおいて、何回かノット・リリース・ザ・ボールの反則を慶応は取られているが、それは自分の目から見ると、慶応が球出ししなかったのではなく、明治が上からのしかかって球出しを妨害したもので、「これは海外のレフェリーだったら明治のoff the feet取るだろうな」と感じていた。
なので最後にほとんど飛び込むようにして球出しを妨害したとき、オーバー・ザ・トップを取られたことに驚きは全くない。というか、もっと前に取るべきだったと思っている。
こうした規律の部分、明治はきちんと立て直してほしいし、ファンはもっと厳しく見てほしい。明治主将箸本龍雅は、「ジャパンに最も近い大学生」と言われることがあるが、ブレイクダウンで立ってプレイできないフォワードを国際試合に出すわけにはいかない。ペナルティを量産して得点機会を相手に献上するからだ。
最後は厳しいことを書かせてもらったが、それは明治大学には素材のいい選手が集まっているので、きちんと育てる責任があると思っているからだ。元々日本の大学ラグビーという制度は、代表強化の視点から言うとデメリットの方が大きい。ハイレベルの試合数が少ないし、一年生、二年生はさらに試合経験が不足する。
「成長を見守りたい」などとファンが言っている間に、海外では20歳前後の選手がプロレベルでプレーしているのだ。サッカーのように、トップリーグのチームがユースチームを作って大学と二本立てにしないと、系統だった強化ができるようにはならない。その点を考えると、大学が選手育成に負っている責任はとてつもなく大きい。その責任をきちんと果たしてほしいということを強く感じた試合だった。