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キックの攻防 テリトリー獲得とアンストラクチャーからの攻撃:11月23日ラグビー早慶戦<1>

11月23日の早慶戦。速報レビューに続き、試合を掘り下げる本格レビューを。

試合前の私の注目ポイントは3つあった。
(1) 序盤の慶応のタックルラインの位置
(2) テリトリーキック後のアンストラクチャーからの早稲田の攻撃
(3) 早稲田のダブルライン攻撃

キック戦術の練度が高い慶応

 それらを見ていく前に、慶明戦同様、まずはテリトリーキックについて見ていきたい。まずは慶応だ。
 再確保:0
 プレーエリア前進:5
 後退:2(1回はペナルティ)
 リターンキック:2
 フェアキャッチ:1


 こうしてみると、慶応は再確保はできなかったが、プレーエリアの前進に成功したのが50%となる。まずまずの数字とは思えるが、慶明戦では64%だったから、かなり数字を落としてしまっている。

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 特に、後退の2回が大きい。もしその2つでエリアの前進に成功していたら70%の成功率になるのだから。この2回のうち1回は、キャッチしようとして吉村紘にアーリータックルをしてしまったもの。
 もう1回は後半終了間際に、早稲田の新人の伊藤大祐にキャッチ後のタックルをかわされてロングゲインされてしまったものだ。

 だから、「キックが長すぎてセーフティエリアでボールを確保され、カウンターを受けて結局後退した」というものではない。その意味で、適切な長さのキックを蹴り、チェイサーが連携しながらうまくレシーバーにプレッシャーをかけており、キック戦術としての練度は高いと評価できる。

 ただ、前半最後のPGはテリトリーキックでの前進がきっかけとなったものだが、キックでのテリトリー確保がトライには結びついていなかったのは課題だろう。

キック再確保からトライを取った早稲田

次に早稲田を見てみよう。
 再確保:2
 プレーエリア前進4
 後退:3
 リターンキック4
 フェアキャッチ:1

 早稲田は再確保含めて前に進んだのは43%。率では慶応に劣るし3回ほど後退させられている。

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 ただし、慶明戦の明治(7%)よりははるかに高いし、再確保に2回成功しているのが大きい。しかもそのうち1回はトライに結びついている。

 ただし、後退3回とフェアキャッチはいずれもキックが長すぎたので、キックの長さやチェイサーとの連携について、まだまだ向上の余地がある。

キック後のアンストラクチャーからの早稲田の攻撃

 今日は、この、早稲田の33分のトライにつながった再確保後の攻撃を見てみたい。最初に上げたポイント(2)と(3)に関わってくる攻撃だ。見れば見るほど、早稲田がキック後のアンストラクチャーな局面の準備をしてきているのが見てとれる。
 まず当初の状況。1往復キックをしたあと、吉村がハイパントを蹴る。正直これはちょっと長かったのだが、それが幸いして慶応は誰もキャッチできずワンバウンド。その間にチェイサーの古賀由教が追いつき、ラック。

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早稲田は上手くスイープに成功し、ラックのボールを確保した。

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戦術図で示すとこんな形になる。

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  それから早稲田はオープンサイドに。まず2人飛ばして6番にパス、12番を経て7番村田へ。

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  村田は直進して22mラインを越えるところまでゲイン。

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そしてラック。

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戦術図で見るとこんな感じになる。

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 そこからまたオープンサイド(この場合は逆方向)にパスアウト。


 この攻撃がすごい。まずスクラムハーフ小西からのパスを最初に受けたのはスタンドオフ吉村ではなく3番の小林。小林はすぐ横の2番宮武にパスすると見せかけ、後方にいる吉村にスイベルパス。

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 この段階で慶応のタックラーのマークはずれている。さらに吉村は横にいる4番、5番ではなく、後方(バックドア)にいる河瀬にパス。

 ここでもまた、慶応のタックラーは4番、5番を狙っていたので河瀬は完全にノーマークだった。この時、パスがちょっと乱れたが、河瀬に対するマークは誰もいないため河瀬はすぐにボールをキャッチ。斜め方向にゲイン。
 そして河瀬はマークを引きつけて外側の14番槇にパス、見事にトライになった。

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 この一連の攻撃、早稲田はまず反対側のエッジまで飛ばしパスまで使って一気にボールを持っていってラックを作り、再び素早くオープンサイドに展開。

 その展開の中で2回ダブルラインを使って慶応のタックルをずらし、タックルが届かないところでボールを動かして最後は外のスペースでバックスの走力で勝負してトライまで持ち込んでいる。これは瞬間的な即興の積み重ねではなく、間違いなく計画された攻撃パターンだ。
 村田が作ったラックの時、早稲田は9-1-3-2が一番浅いラインを形成し、10-4-5が二段目のラインを形成し、15-8-14が三段目のラインを形成するという、三段ラインのポジショニングをしていた。

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 そして9-3-2と回すと見せてタックルを引きつけて2段目の10番にパス。10番も10-4-5と回すと見せかけて15にパス、15は8を飛ばして14にパスしてディフェンスを崩しきった。しかも14番は一連のプレーの間ずっと右タッチライン沿いのポジションを崩さない。

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 こんな複雑なプレー、あらかじめ準備されていなければできるものではない。おそらくアンストラクチャーな局面からの攻撃パターンの一つとして練習してきているのだろう。帝京戦と同様に、この日もこういう形で少ないフェイズでトライを取りきった。

 ただしこの試合には他にも見ておきたいポイントがある。それは次回に。

(続く)


 



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