「三笘対策」への対抗策:10月31日フロンターレ対FC東京戦<2>
10月31日の「多摩川クラシコ」。約一ヶ月前にルヴァンカップ準決勝でFC東京が講じてきた策に対する、右サイドの対抗策を見てみた。今日は、三笘薫を中心とした攻撃をどう組み立てていったかを見てみる。
両サイドのバランス
この試合の特徴は、ここんとこ数試合の攻撃が左に偏重していたのに対し、この試合はもうちょっと右とのバランスが取れていたということに特徴がある。
例によって、ペナルティエリア脇のスペースに侵入した回数を数えてみる。
前半
右サイド:8
左サイド:15
後半
右サイド:6
左サイド:10
やはり左サイドの方が多いが、その半分くらいの数は右サイドも使っている。
これはディエゴ・オリベイラを怒らせた家長の股抜きの瞬間(笑)
やはり山根視来のポジションを高く取れるようにしたことの効果が表れているといえるだろう。
サイドチェンジも数回行われているので、この試合、両サイドのバランスはここ数試合の中で一番取れていたといえる。
ミトマドリブルの前の「下ごしらえ」
また、左サイドも、三笘のドリブルの前の「下ごしらえ」に工夫が見られた。
三笘の立ち位置は、サイドでスペースを伺いながらドリブルを狙える場所だけでなく、かなりハーフスペースに寄ってくることが多かった。ではハーフスペースでドリブルするかというと、ドリブルはしない。
ハーフスペースではワンタッチでパスをさばく。そこで登里享平とポジションを入れ替えたりしながら、マーカーをずらす。ずれたところでドリブルを仕掛ける、という、「下ごしらえ」をしてからのドリブルの崩しが、新しく見られた工夫だった。
三笘のドリブルの成功率も示しておく。シュート、ないしはシュートにつながるパスで終わったのが大成功、味方につながるパスが成功、ボールロストが失敗だ。CKは大成功と見なす。
前半
大成功:1
成功 :11
失敗 :0
後半
大成功:1
成功:7
失敗:1
ルヴァンカップでは、16回のドリブルを試みて失敗が5回あったので、ボールロストが著しく減っている。このあたりが、「下ごしらえ」が上手くいったことを表しているだろう。
三笘へのパスの出所とプレー選択
では、「下ごしらえ」を具体的にどのように行ったのか。三笘が敵陣で受け取ったパスの出所を見てみる。
前半:
登里:10
家長:8(うち2本はサイドチェンジ)
谷口:7
守田:6
中村:5
田中:3
山根:1(セットプレイからの流れで左サイドにいたときのパス)
ダミアン:1
後半:
登里:15
家長:6
守田:6(うちサイドチェンジ1)
中村:4
田中:1
山村:1
さらに、受け取ったボールに対して、三笘がどのようなプレーを選択したかを次に示す。
前半
ドリブル:12
パス :26
シュート:3
後半
ドリブル:9
パス :16
シュート:2
これまでの他の試合のデータを取っていないので比較はできないのだが、縦のコンビネーション関係にある登里とのパス交換が際だって多く、中村憲剛や左サイドに移動した家長とのショートパスでのパス交換も多い。
こうした数字からも、近い位置関係のプレイヤーとショートパスでマーカーをずらしていたことがうかがえる。あとは前の数試合時々見られたダミアンとのコンビネーションがあまり見られなかったことも指摘できる。これはダミアンがゴールに近い位置にポジションを取るよう徹底していたということだろう。
あとは家長がペナルティエリア近くで繰り出したサイドチェンジのパス2本と、守田のサイドチェンジというのも、ルヴァンカップでのFC東京戦では見られなかったパスだ。
このような形で、三笘の単独突破だけでなく、三笘の突破をより有効に生かせるような形を作ったということが、この試合のフロンターレの優位の大きな要因だ。
「三笘の突破を前提としたディフェンス」への対抗策
最後のポイントとして「三笘の突破を前提としたディフェンス」への対応策がある。
ルヴァンカップの時は、三笘のドリブルに中村帆高のディフェンスを当てるとともに、突破されても、中村が稼いだ時間を使ってゴール前にディフェンダーを集めることで、シュートもパスも誰かに当たるような、トータルとしてのディフェンス態勢を作っていた。
この試合も同じだった。
特に、パスと違って、ドリブルは人が走れるスピードでしか進めないから、ドリブルだけで最終ラインの裏を突くことはできない。ディフェンス側から見れば、ドリブルに合わせて最終ラインを下げていくことは十分に可能だ。
この、ゴール前に人数をかけたディフェンスを崩したのは、中村憲剛の位置取りだった。決勝点となった中村憲剛のゴールは、三笘が2回切り返してマーカーの中村拓海を突破したのがきっかけだ。
しかしこの瞬間、ゴールラインの中に4人、ゴールラインのすぐ外に3人の合計7人が三笘からのボールをカットしうる位置にいた。
中村憲剛はその間にするすると入って、三笘からのパスをシュートした。ブロックの間に入るのと同じ要領で人の間に入ったこの中村憲剛の位置取りがなければ、この突破も得点には結びつかなかっただろう。その意味で、中村憲剛の存在の大きさを示しているゴールといえる。
まとめ:多摩川クラシコはこれからも続く
まとめてみると、この試合は、ルヴァンカップ準決勝でFC東京が繰り出した対抗策へのさらなる対抗策をフロンターレが準備し、それを実行することで、優位に試合を運ぶことができたといえるだろう。さて、この次、おそらく来年の対決ではFC東京はどのような対抗策をとってくるのか。
多摩川クラシコはまだまだ続くのだ。
(終わり)