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得点機会、天理は11、早稲田は5:ラグビー大学選手権決勝 早稲田対天理<2>

 1月11日の大学選手権決勝、早稲田大学対天理大学は、55対28で天理大学が勝利した。

 天理が圧倒した試合だったが、これまでの試合と同じ基準で比較したらどのような数字が出てくるだろうか。まずはいつものようにキックと攻撃機会を比較してみよう。(1月14日に追記あり)

得点機会で天理が圧倒

 まずは敵陣22mラインを突破した回数を見てみる。

(天理)
 1分:トライ
 6分:トライ
 22分:ペナルティゴール
 28分:ラインアウトでボールロスト
 29分:トライ
 37分:トライ
 41分:ラックでターンオーバー
 43分:トライ
 54分:ノックオン
 63分:トライ
 73分:トライ

(早稲田)
 16分:トライ
 51分:トライ
 60分:ノックオン
 66分:トライ
 78分:トライ

 天理だが、敵陣22mラインへの進入回数は圧巻の11回。そのうちの8回(トライは7回)を得点に結びつけている。

 一方早稲田は5回。そのうちの4回でトライということで、今季の早稲田の決定力の高さは垣間見えるが、それにしても進入回数5回というのは少なすぎる。

 プレビューでは両軍7回程度を予想したが、まずこの得点機会の数で大幅な差が出てしまっている。早稲田にしてみれば、6回というのは完敗した早明戦を下回る数だ。両方とも得点機会の約8割で得点しているので、得点差は決定力によるものではなく、得点機会の数の差によるものといえる。

キックでも天理優勢

次にキックを見てみよう。

(天理)
 再確保:0
 前進:7
 後退:1
 リターンキック:3
 フェアキャッチ:0

(早稲田)
 再確保:1
 前進:0(48分のペナルティキックからのクロスフィールドのキックパスはカウントしていない)
 後退:2(ダイレクトタッチ1含む)
 リターンキック:1

 こうしてみると、天理はキックも実に有効に使えている。11回のキック中7回でプレーエリア前進。つまり64%だ。特に得点後のキックオフを効率よく蹴り返していた。

 一方の早稲田は、そもそもキックがわずか4回。再確保は1回あるものの、再確保後にまた蹴ってそれがダイレクトタッチになってしまっているから、実質的にはプレーエリアを前進させられたのは0回ということになる。

 また、明治同様、後半はキックを使っていない。やはり点差が開くとキックで陣地を稼ぐ戦術は使いにくいということか。キックによるプレーエリア前進0回というのは、なかなか衝撃的な数字だが、明らかに敵陣22mラインに入った回数が少ない原因の一つだといえる。

早稲田が負けた試合はキックが少ない

 もう一つ気になるのは、やはり負けた早明戦の時も蹴ったのはさらに少ない3回だったということだ。

 キックの少なさと敗戦の関係。これを因果関係とみるか、単なる相関関係とみるかは難しいところ。キックを使わずに陣地を取れなかったから負けたとみるか、今年の早稲田は劣勢の試合展開だとキックを使わない(使えない?)とみるか。

 前者の場合は因果関係としてみる見方。後者の場合は真の原因は別にあるという見方。

 ただ、今季の早稲田の敗北2試合で同じ傾向が見えているところを見ると、偶然ではないように思える。フォワードの劣勢は全体的な傾向としては変わらないのだから、テリトリーキックをもっとチーム戦術として確実に使える形にしていくことが求められる(早稲田の悪弊である数年での監督交代はこういうところで悪い効果しかもたらさないはずだ)。

ボールロストマップ:早稲田の場合

 また、観戦していて気になったのは、早稲田が攻撃している時にターンオーバーなどでボールを失い、押し戻されることが多かったことだ。

 そこで、JSPORTSの映像から、フィールドプレイでボールを失った場所を特定し、マッピングしてみた(インゴールまでの距離はまあまあ正確だと思いますがタッチライン方向の距離はかなり大まか。字が重ならないようにずらしてあります)。これが早稲田。
(略語の説明= DT:ダイレクトタッチ、KO:ノックオン、MUP:モールアンプレイアブル、NR:ノット・リリース・ザ・ボール、NS:ノットストレート、OT:オーバー・ザ・トップ、TF:スローフォワード、TO:ラックでのターンオーバー)

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 ボールロストの多さに言葉を失う。特に中盤でのボールロストが多い。10mラインの中間で8回。自陣10mラインより自陣側でも8回。これでは22mラインを越えられないはずだ。

 逆に敵陣10mラインより向こうに攻め込んでいるときのボールロストはわずか3回と比較にならないくらい少ない。

 中盤で、ノット・リリース・ザ・ボール3回はともかく、ラックでのターンオーバー3回、リップされてボールそのものを奪われたのが2回というのは大きい。特に4分のターンオーバーは、そのままボールをピックされてまっすぐ突破されトライされたものだ。連続写真で見ると、早稲田のボールキャリアがタックルを受けて倒れた後、誰もバインドしていない状態でモアラが早稲田のプレイヤーを排除している。

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 誰もバインドしていないのでこれはラックが成立していないのではないか。だとすれば厳しく見ればアーリーヒットによるオブストラクションのようにも見える。レフェリーは目の前で見ているのでラック成立と判断したということだろうが。

 この早稲田の中盤でのボールロストの原因となったのは、天理が厳しいディフェンスをしたこと、特に上の写真のように、リップやラックでのファイトで積極的にボールを奪いに来たことだ。

 これは開始0分でのリップの写真。

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 これは後半7分のリップ。

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 早稲田は天理のこうしたディフェンスを想定していなかったように思える。

(以下1月14日に追記)
 例えば早慶戦の時は、慶応の強いタックルを想定して、ボールキャリアーのすぐそばにサポートプレイヤーが随伴しており、タックルを受けた瞬間にサポートに入ってターンオーバーを阻止していた。慶応三木のハードタックルが何回かクリーンに入ったが、ボールを失わなかったのはそれが理由だ。次の三枚を見ていただければ、サポートが素早く入っているのがわかると思う。

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 ただこの日は、ボールキャリアとサポートの間に距離があり、サポートの前に絡まれることが多かったように思う。(以上1月14日追記分)

 また、天理は、ラインオフサイドを2回取られるほど前に出てきた。ただ、現地観戦でも思ったし、ビデオでも確認したが、さらに2-3回ラインオフサイド見逃しがあるように見える。

ボールロストマップ:天理の場合

 次に天理のボールロストを見てみよう。
(略語の説明= DT:ダイレクトタッチ、KO:ノックオン、MUP:モールアンプレイアブル、NR:ノット・リリース・ザ・ボール、NS:ノットストレート、OT:オーバー・ザ・トップ、TF:スローフォワード、TO:ラックでのターンオーバー)

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 早稲田と対照的に、敵陣10mラインより自陣側でのボールロストがほとんどない。スクラムのコラプシングだけで、中盤では全くハンドリングエラーもターンオーバーもなくボールを運べていたと言うことだ。

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画像9

 また、トライ寸前でのスローフォワード1回、ノックオン2回があり、それがなければもっと点を取れていたということが言える。

 こうしてみると、ラインオフサイドやオブストラクションのジャッジなどで大勢が変わったようには思えない。全般的な天理優勢を作り出したのは、天理のよく考えられた攻撃フォーメーションであり、それによる早稲田ディフェンスの突破だった。次回はそれについて詳しく見てみよう。


(続く)

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