ハイレベルのキック戦術:リコーブラックラムズ対キヤノンイーグルス<1>
今日からは3月27日のリコーブラックラムズ対キヤノンイーグルスのマッチレビューを。他にも2試合ほど残っているのだけれど、こちらを先に見てみることにした。
最終スコアは31-28。後半はトライの取り合いになり、77分に田村優がPGを決めてキヤノンが勝利した接戦だった。
ボールロストは勝ったキャノンの方が多かった
まずはボールロストマップから。
一見してわかるとおり、キヤノンの方がボールロストが多い。これまで、ボールロストマップを作った試合では、これまでボールロストが多い方が必ず負けていたのだが、ついに多い方が勝った。
しかも22というかなり多めの数字。一方リコーは15と、大きく差が開いている。
キヤノンの場合、特に敵陣22mラインより向こうでのボールロスト10回が目を引く。全体の半分近くが22mラインより攻め込んでから、と言うことになる。それだけリコーが粘り強いディフェンスをしたと言うことではあるが、以前観戦したキヤノン対NTTドコモ戦でも、キヤノンは22mラインより奥で5回ボールロストしていた。
そう考えると、テリトリーを稼いで攻め込むことはできても、仕留めきることができないことがキヤノンの課題だと言える。
ただし、自陣22mラインより内側でのボールロストがないのは特筆すべきだろう。
一方リコーは、全体のボールロストが15とやや少なめ。敵陣22mラインより奥でのボールロストは3回にとどまるが、自陣22mラインよりも内側で3回ボールロストしているのは多い。特にそのうちの1回が77分のノット・リリース・ザ・ボールで、勝負を決めるPGを田村に決められる原因となった反則だ。
得点機会はキヤノンの方が多いがトライは同数。
興味深いのは、両軍4トライなのに、得点機会(=22mラインを越えた数)が11-6で、キヤノンの方が4回も多いこと。にもかかわらずトライが同数にとどまった理由が、22mラインを越えてからのボールロストの多さだ。
細かく見てみよう。(ボールロストしても、22mラインの中にとどまっていた場合にはここでは「連続した攻撃で1回」とカウントするので、ボールロストマップとの間で数が一致しない)
キヤノン
5分:トライ
16分:ノックオン
18分:ラックターンオーバー
21分:オーバー・ザ・トップ
31分:ノックオン
43分:スローフォワード
57分:トライ
61分:トライ
72分:トライ
75分:ノット・リリース・ザ・ボール
77分:ペナルティゴール
リコー
10分:ノット・リリース・ザ・ボール
12分:トライ
26分:ラインアウトスチール
41分:トライ
52分:トライ
68分:トライ
こうしてみると、リコーの「トライを取りきる力」が際立つ。6回攻め込んで4回トライを取りきったのは立派なものだ。
キヤノンはせっかく攻め込んでいるのに、ノックオン・スローフォワードが3回、マイボールのラックにもかかわらずオーバー・ザ・トップを犯したのが1回と、ミスで4回ボールを失ってしまっている。
キックでテリトリーを稼いだキヤノン
これだけキヤノンが攻め込めた理由は何か。まず思いつくのはキックだ。そこでキックを見てみる。
キヤノン
再確保:5回(1回はキックパスによるトライ)
プレーエリア前進:5回
後退:2回
リターンキック:1回
リコー
再確保:1回
プレーエリア前進:4回
後退:4回
こうしてみると、やはりキックを非常に効果的に使えていたことがわかる。
リコーも、再確保とプレーエリア前進を合計して5回あり、けっこうな数ではあるが、キヤノンは合計すると10回に達する。さらに、リコーのキックからボールを獲得して前進したのが4回ある。例えば最後のPGも、蹴り合いからキヤノンが裏に蹴ったボールに対して犯したノット・リリース・ザ・ボールによるものだ。
つまり合計すると、キックがらみの前進が合計で14回となる。これは凄い数だ。5分ちょっとに1回はキックで前進していると言うことだから。このキックのかなりの部分は田村優によるものだから、さすが日本代表スタンドオフと言うところだ。
後半は両軍ともボールロストが少なかった
この試合、後半はボールがよく動く、とてもエキサイティングで締まった試合だった。後半に限ったボールロストマップを作ってみるとその理由がよくわかる。
どちらもボールロストが少ない(キヤノン6、リコー5)。つまり、ミスやペナルティでボールを失うことなく、お互いに意図した攻撃を継続できていたことになる。
それは見ていて面白いはずだ。接戦だからと言っていい試合とは限らないのだが、この試合は間違いなくいい試合だった。こう言う試合をまた見たい。
これだけキックでテリトリーを稼がれながらも、同じ数のトライを取ったリコーの攻撃もまた素晴らしかった。次回はリコーの攻撃を細かく見てみることにしたい。