バックスの明治?:ラグビー 慶応対明治<2>(11月2日)
明治と言えばフォワード。
しかし吉田義人、元木由記雄が長い間ジャパンの中心だったことからもわかるように、伝統的にバックスも決して弱くない。
最近の明治も、ボールを左右に積極的に動かしてくるので、バックスの展開力が得点力の生命線といえる。
明治の「ゆさぶり」
今の明治のボールの動かし方。面白いのは、ラインアウトやエッジ付近のスクラムの場合、反対側のエッジまでボールを一気に動かしていくことだ。
戦略的にこうしたボールの動かし方を試みたチームとしては、1990年代後半の日比野監督率いる早稲田大学が挙げられる。いずれ「ラグビー戦術 基礎の基礎」の方で取り上げるつもりだが、このときの早稲田は「ワイドライン戦法」としてボールを端から端まで素早く動かすラグビーにチャレンジしていた。あるいは、伝統的に法政大学が好む戦い方でもある。
現代ラグビーの標準的な戦い方は、細かくブレイクダウン(=オフサイドライン)を作り、相手に絶えず防御体形の再編を強いながらボールを継続していくものだ。反対側のエッジまでボールを一気に動かすことはあまりない。特にフォワードの強いチームにおいてはその傾向が強い。
というのも、反対側まで持って行くと、ボールキャリアは全速力で走れるし、またディフェンダーの密度が薄いからゲインできる見込みは高いが、味方のサポートプレイヤーも少ないので、タックルに捕まってラックになったときに、ボールを失うリスクも高くなるからだ。
それを思うと、現在の明治の特徴である、セットプレーから反対側のエッジまでボールを持っていくスタイルはやや時代遅れのようにも思える。
ゲイン率36%!
この試合では、2分、8分、9分、16分、17分、26分、31分、39分、47分、48分、70分に明治は大きく展開している。このうち、ゲインできたのはトライした70分を含めて3回、ボールをキープしてブレイクダウンを作り継続できたのが6回(うちブレイクダウン後にゲインできたのが1回)、ボールロストが3回。そのため、11回中4回の36%ゲインできていることになる。
この数字を高いとみるか低いとみるかは難しいところだが、この試合に限って言えば、少なくともキックよりは有効な攻撃だったといえる。
明治の展開の特徴は、まず反対サイドまでボールを運んでラックを作ってから、内に折り返してフォワードを突っ込ませることだ。なので、反対サイドまでボールが動き、続いてラックが形成された時間に、フォワードはラインアウトやスクラムから移動して内側に並び、二次攻撃、三次攻撃のためのポジショニングを取る。
先ほど、反対側の端までボールを動かすラグビーを行うチームとして、90年代の早稲田や法政の名前を挙げたが、この点において大きく異なる。当時の早稲田や法政は、例えば右端から左端までボールを移動させたら、もう一度右端までボールを移動させようとする。
ところが今の明治は、右端から左端にボールを動かしたあと、左端でフォワードに縦を突かせる。つまり、通常のブレイクダウンの作り方が、最初のポイントから少しずつ左右に移動して行くものだとすれば、この明治のブレイクダウンの作り方は、一度大外でポイントを作ってから、内側にずれながらポイントを作っていくやり方で、他にあまり見られない独特のものだ。
トライはサインプレーから
ただ、この試合ではこうした連続プレイから得点を得ることはできなかった。70分のトライはスクラムからの展開だったが、ショートサイドにいた選手がオープンサイドに移動し、エキストラランナー(タックラーにマークされていない余ったランナー)としてボールを受け取り、タックラーのずれを誘って突破したゲインから一発で取り切ったトライだ。
慶応のタックルに手を焼いていたこの日の明治からすれば、タックラーの届かないところで人とボールを動かしてタックラーをずらしたという意味で、会心のサインプレーだったといえるだろう。
実はこのサインプレーは、前半2分にも試みているが、そのときはショートサイドから移動してきた選手はダミーだった。なので、この試合では同じムーブの「オモテ」と「ウラ」の両方を使ったと言うことになる。
前半18分のサインプレー
もう一つ興味深いサインプレーが前半18分にあった。自陣で得たスクラムで、ショートサイドに4人並び、オープンサイドに広めのスペースを作った。
こうなると、ショートサイドでポイントを作るのか、オープンサイドでスペースを突くのかはにわかに判断できない。
結果的には、いわゆる「ハチキュー」のサインプレー。つまり、ナンバーエイトがスクラムの最後尾から右側にボールを持ちだし、スクラムハーフにパス。スクラムハーフからフルバックに展開した。
フルバックはバックフリップパスで内に切り込むランナーに返そうとするが、残念ながらパスが通らず失敗。
結果的にこのプレーはそれほど大きなゲインには結びつかなかったが、面白いサインプレーだった。むしろ敵陣22mラインあたりでやったらトライにつながるのではないかと思った。
このように、ボールがよく動くので、今の明治のバックスは見ていて面白い。この日の試合はロースコアだったが、フォワードがテリトリーを上手く稼げれば、明治はかなりの得点力を持っている。しかし、この日のように、相手の戦略が上手くはまってテリトリー稼ぎができなかったら、厳しい戦いになる。その真価は、11月22日の対帝京戦で問われることになろう。そう考えると、日体大戦が中止になったことは、意外と大きな意味を持つかもしれない。
(終わり)