高度なキック戦術と「3点」の重要性:パナソニックワイルドナイツ対サントリーサンゴリアス(5月23日)<2>
5月23日。ラグビー日本選手権決勝、パナソニックワイルドナイツ対サントリーサンゴリアス。31-26でパナソニックが勝った試合のレビュー2回目。
前回はボールロストマップを見てみた。パナソニックのわずか13個に対しサントリーが19個で、サントリーは6個もボールロストが多かったこと、そのうちノックオンやパスミス、インターセプトによるボールロストが合計12回という通常考えられない数だったことから、パナソニックのディフェンスのプレッシャーのきつさと、サントリーのリズムが崩されていたことを読み取ることができた。
ただ同時に、得点機会(敵陣22mラインを超えた数)はサントリー8回に対しパナソニック7回。いずれも多くはないが、ボールロストの多いサントリーの方が1回多かったのは数字としては興味深い。
2分に1回のキック
ところで、得点機会が8回と7回というのは両方とも少ない。拮抗したゲームだから片方に数字が偏らないのは当然ではあるが、それにしてもこれまでの傾向から見て少ない。ボールロストも、両チーム合計32回で、少ない方だ。
となるとあまりお互いに前進できなかったのか?と言うのが1つの疑問になる。そこで今日はまずキックから見てみよう。
パナソニック
再確保:8回
プレーエリア前進:5回
後退:4回
リターンキック:4回
サントリー
再確保:8回
プレーエリア前進:2回
後退:2回
リターンキック:5回(誤記してました。6/1 0:10頃、関連部分とともに修正)
ドロップアウト:1回
まず、合計キック数が39。すさまじい数だ。約2分に1回キックしていたことになる。タッチキックはカウントから除いてあるから、タッチキックを含めるともっと頻繁にキックされていたことになる。
また、前進回数も凄い数だ。再確保が双方8回ずつ(追い込んでの相手がタッチに出したためのマイボールラインアウトやペナルティによるマイボールを含む)というのは記憶にない。プレーエリア前進も多く、合計するとパナソニックは13回、62%前進。サントリーは10回、56%前進だ。
キックはルール上22mラインを越えると使える局面が限定される(高く上げるとフェアキャッチされる可能性が高い)ので、両チームとも、22mラインを越えるまでキックで前進を図り、しかも六割以上の確率で成功していたことが読み取れる。やはり国内最高の2チーム。それだけ高度なキック戦術を駆使していたと言うことだろう。
キックで22mライン手前までは前進できているものの、そこからのタイトなディフェンスでボールを失い、切り返されたりまたキックで押し戻されたり。そんな形で中盤の攻防が展開され、結果として22mラインは合計15回しか越えられなかったと言うことだ。
得点機会の約半分でトライ
次に、得点機会を見てみよう。
パナソニック
4分:トライ
18分:ノックオン
26分:ターンオーバー
29分:トライ
44分:ラインアウトスチール
50分:ノット・リリース・ザ・ボール
52分:トライ
サントリー
2分:ノックオン
15分:ペナルティゴール失敗
32分:トライ
41分:トライ
45分:ターンオーバー
60分:ノット・リリース・ザ・ボール
69分:トライ
75分:トライ
パナソニックは得点機会7回のうち得点は3回。いずれもトライ。なお、26分のターンオーバーと29分のトライは実質的には一連のプレーだ。
26分のターンオーバーは、フィールド中盤でのターンオーバーから福井翔大がビッグゲインしたもののトライ寸前で捕まってできたラックでのもの。ここで福井はボール保持にこだわってノット・リリース・ザ・ボールを犯すのではなく、素直にボールを奪われた。
サントリーは流がこのボールをタッチに蹴り出して22mラインを出たところでパナソニックボールのラインアウト。パナソニックはそこからボールを一度右に展開し、もう一度左に回して福岡堅樹がトライを奪った。
このことは、攻め込んでラックになったときにノット・リリース・ザ・ボールを「犯さない」ことの重要性を物語っている。ノット・リリース・ザ・ボールになってしまえば、ノープレッシャーでタッチに蹴り返されてユアボールラインアウト。おとなしくターンオーバーされたからこそ、プレッシャをかけながらタッチを蹴らせて、マイボールラインアウトにすることができたのだ。
サントリーは得点機会8回のうち得点は4回。言い換えれば、サントリーは1回得点機会が多い分そこでトライを取っている、と言うことでもある。
お互いが高度なキック戦術を駆使してなんとか22mラインに侵入し、お互いにその約半分をトライに結びつけた。しかし得点機会もトライ数も、多かったのは敗れたサントリーの方だった。
ペナルティゴール「3点」の重要性
単純な算数だが、コンバージョンが外れたトライで得られる得点は、ペナルティゴール2本で得られる得点よりも1点少ない。その点から言えば、パナソニックはペナルティゴール4本を決めたのが大きかった。
これらはいずれも22mラインより手前でのサントリーの反則によるもの。難しい位置を含め、すべて決めた松田力也の正確なキックのたまものだ。
一方、サントリーはそれほど難しい位置ではなかった17分のペナルティゴールを失敗し、そのあとも後半2分にコンバージョンを外した。結果論として言えば、この合計5点が最終的な点差になったと言うことができる。
バレットは成功率自体はそれほど高いキッカーではないので、このこと自体は驚くようなことではないが、やはりビッグゲームはキックで決まる、と言うこれまでの経験則が当てはまったと言うことでもあろう。
普通のゲームでは、「ペナルティゴールで3点を取る」ことは軽視されがちだ。しかし、この試合のスコアは、それを日常的に訓練していくことの重要性を物語ってもいる。もちろん、ペナルティゴールを狙える位置でペナルティを犯さないというディシプリンの重要性は言うに及ばすだ。この重要な試合でそれをやり遂げたパナソニックの選手たちには拍手を送りたい。
この試合、キック戦術やアタックで面白い局面があった。これらを次回以降「プレー解剖」で取り上げてみたい。ただ何日か空くかもしれないので(準備ができてないのでベガルタ戦のレビューの続きを入れると思う)、お待ちいただければ、と思う。