「確信」を持ってほころびを突く:大学選手権準決勝 早稲田対帝京<2>
大学選手権準決勝第一試合、早稲田対帝京戦。早稲田は、帝京のディフェンスラインの「でこぼこ」(=ギャップ)を利用してバックスが一気に突破して3つのトライを取った。
早稲田、61分のトライ
今日はまずそのうち61分のトライを細かく見てみたい。これはドロップアウト後のフリーキックを確保してからのカウンター攻撃だ。
まず、ドロップアウト後のフリーキックをキャッチした14番槇がカウンターからクラッシュしてラック。
ラックからのボールを9番小西がフロントドアにいる5番にパス(背番号はJスポーツの画面から読み取ったものなので不正確な可能性がある)。ここで帝京は早稲田5番のトイメンのタックラーが飛び出してタックルに来る。
これに対して早稲田5番は、隣にいる4番にパスすると見せかけ、タックルを受ける寸前に真後ろの10番吉村にパス。
実はこのタイミングで早稲田のアタックラインは形状変化をしている。13番長田が内にポジション修正をして、7番村田(多分)と縦に並ぶ位置関係になる。また、15番河瀬がアタックラインに入り、13番長田の左のポジションにつく。
10番吉村は縦を突きつつ、真横の7番村田ではなく、バックドアの13番長田にパス。
この段階で長田の左には河瀬だけでなく、ナンバーエイト丸尾、左ウイング古賀が並んでいる。
長田にはいくつかのオプションがある中、まっすぐ進んでトイメンのタックラー(尾﨑泰雅)を引きつけ、河瀬にパス。
河瀬は、尾崎が突っ込んできてできた「でこぼこ」を利用して内側にカットインして自分のトイメンのタックルを躱し、裏に抜けてインゴールまで走りきり、トライを取る。
河瀬が裏に出た段階で、左のサポートには丸尾と古賀が付いており、仮に河瀬がタックルに捕まったとしても外にオフロードでつないでトライとなった公算が高く、早稲田がほぼ完全に帝京ディフェンスを崩した結果のトライだったと言える。
早稲田の「トリプルライン」攻撃
これは、二回バックドアにパスしてディフェンスを混乱させているので、「トリプルライン」と言うべき攻撃だ。この三段攻撃は早慶戦でも使っている。
そうしてディフェンスラインに「でこぼこ」を作らせ、特に13番長田がトイメンのタックラーをおびき出して15番河瀬にパスして突破させた形になっている。
バックドアにパスするたびに、帝京のタックルのノミネートをずらし、もともと「でこぼこ」ができやすい帝京ディフェンスがバラバラにタックルに行かなければならない状況を作り出した。早稲田が今年多用している攻撃だが、有効性は極めて高かった。
実は同じ傾向は天理にも見られる。おそらく決勝戦でも早稲田はこの種の攻撃を多用して天理のディフェンスに「でこぼこ」を作りだそうとするだろう。
キックの評価は?
次に、お互いのキックについて見てみる。
なお、これまで、キックについては「再確保」「プレーエリア前進」「後退」「リターンキック」「フェアキャッチ」の5項目で評価してきたが、この中で「プレーエリア前進」と「リターンキック」が曖昧だと思っていたので、この2点についてはっきりと判断基準を作ることにした。
「プレーエリア前進」は、キックしたあと、最低3フェイズの間キックした場所よりも前方のエリアでプレーできていることとした。その3フェイズの間に相手側が反則を犯した場合も「プレーエリア前進」と評価する。
もう一つ、リターンキックについては、これまではキックで返されたら機械的に「リターンキック」とカウントしていたが、蹴り合いを総合的に評価することにして、蹴り合いの結果(タッチを含む)プレーエリアを前進させることができたら「プレーエリア前進」、後退させられたら「後退」と評価することにした。なお、最初からタッチキックとして蹴られたキックはカウントしていない。グラバーキックもカウントには入れていない。
(早稲田)
再確保:1
プレーエリア前進:6
後退:4(ダイレクトタッチ2回含む)
フェアキャッチ・ドロップアウト:0
(帝京)
再確保:1
プレーエリア前進:5
後退:1
フェアキャッチ・ドロップアウト:2
こうしてみると、帝京の方が有効にキックを使えていたことがわかる。
キックの結果前進できたのが9回中6回の67%、後退させられたのはわずかに1回だ。
一方早稲田は、前進率で言えば11回中7回で64%となり、ほぼ互角の数字だが、ダイレクトタッチを含め後退が4回の36%。しかも2回のダイレクトタッチで攻め込まれ、一度は切り抜けた(スクラムでのペナルティ)もののもう一回はトライを取られており、直接失点につながっている。
また、前回までは「リターンキック」としてカウントしていた蹴り合いが後半開始早々の40-41分に起こっていたが、最終的に早稲田がタッチで蹴り出しており、帝京としてはプレーエリアの前進に成功している。といった形で、キッキングゲームにおいては帝京が優位に立っていたと言うことができるだろう。
「確信」を持ってほころびを突いた早稲田
現地での試合直後は、スクラムでの劣勢はあったものの、全般的には早稲田が優位に試合を進め、危なげなく勝ったという印象を持っていた。
しかし、レビュー書くために見直したところ、6点差というスコア通り、どちらに転んでもおかしくなかった試合だったと評価を改めた。
そこで勝敗を分けたのは、帝京のディフェンスのわずかなほころび(ディフェンスラインの「でこぼこ」)を見切った早稲田の攻撃だったということだろう(モールももちろん有効だったが、11月の対戦でも両軍2本ずつモールからトライを取っているので、今回新たに生まれた要素ではない)。
早稲田バックスの3本のトライは、偶発的なものではない。そこに帝京の「隙」があると確信を持って突いたことの結果とみるべきだ。
今年の早稲田は、試合ごとに見応えのある攻撃を見せてくれている。11日の決勝戦、楽しみにしたい。