吉村紘の優れたスペース感覚と正確なプレー:ラグビー 早稲田対帝京<2>(11月1日)
45-29で早稲田が勝利した11月1日の早稲田対帝京。早稲田のトライは少ないフェイズで取り切っていたのが特徴だ。ゲームプラン全体として、むやみにフェイズを重ねるよりも、ある段階でキックで裏を突く、という傾向が見られた。その攻撃の中心となっていたのがスタンドオフの吉村紘だ。
今日は吉村のプレーを細かく見てみる。
前半13分 ラインアウトからのトライ
最初のトライはスクラムからの一発のプレーだった。これは、スクラムが曲がって、ナンバーエイトの丸尾が持ち出し、12番の平井亮佑が飛び込んで取ったトライ。崩れたスクラムではあったが、スクラムでああいう形でトライが取れるのはちょっと珍しいので驚いた。
このときは吉村がショートサイドに立っていたため、帝京はショートサイドに2人配せざるを得ず、その分オープンサイドにスペースができていたと言うことではある。
見てみたいのは、そのあと、前半14分の7番村田重悟のトライにつながるプレー。
13分にペナルティから敵陣10m付近でマイボールラインアウトを得る。このときラインに並んでいるのは5人。両フランカーはアタックラインに。
ラインアウトはきれいに決まり、スクラムハーフ小西泰聖から吉村にきれいなパス。吉村は少し内に膨らみながらまっすぐラン。そこに12番平井亮佑がクロスするように走り込む。これはラインアウトに並んでいた選手の視線を引きつけるためのダミーラン。
吉村がまっすぐ走り込んでいくのに対し、帝京は3人がタックルに向かう。そして、吉村のすぐ外に並んでいるフランカーの2人に対し、「アンブレラディフェンス」的に外から抑え込むように2人がタックルに入る。このとき、外側の早稲田の6番の選手に対して、外からかぶるようにタックラーが先行して突っ込んできた。
このとき、帝京のディフェンスラインは一直線になっていない。そのタックラーが突出したためだ。そのため、1人外のタックラーとの間にほんのわずかなスペースができた。
そのスペースに対して、早稲田13番長田智希が走り込んでゆく。
吉村は、3人に囲まれながら、ギリギリのタイミングでパス。パスした先は、すぐ外を走っていたフランカーの2人ではなく、さらにもう一つ外の長田。長田はちょうどスペースに走り込んだところでそのボールをキャッチ。ちょうどタックラーとすれ違うようにして裏に出てビッグゲイン。
そのあと一つのラックを挟んでトライ。ラインアウトから2フェイズで見事にトライを取り切った。
前半38分 ビッグゲイン
もう一つは、前半38分の古賀由教によるビッグゲイン。
前半38分、早稲田は自陣22mライン付近からハイパント。そこからアンストラクチャーな状況が発生するが、早稲田はなんとかボールをキープしてラックに。
そのラックから小西が吉村にパス。
吉村は左サイドに広大なスペースが広がっているのを見て、そこにキック。左のエッジに待機していた古賀が走ってそのボールを追う。
バウンドの気まぐれでキープはできず、その後のプレーの中でノット・リリース・ザ・ボールを取られてここからはトライはできなかったが、帝京を押し戻したいい判断だった。
早稲田の試合を見ると、こういうとき、古賀が逆サイドのエッジで待機していることが多い。
おそらく、22mラインでハイパントを上げたときから、逆サイドにキックを蹴り込むというのは用意されたアタックの一つなのだろう。
キレキレの吉村紘
他にも、いいタイミングでのキック、いい間合いでのパス、ランといい、この日の吉村のプレーは非常に切れていた。何よりも、周りのスペースがよく見えている。
頭が衝突したときは心配したけれど。
これは後半29分の裏へのキック。直接はトライにならなかったが、これも帝京をインゴール手前にまで押し戻した。
ランでもいい働きを見せていた。
Man of the Match(なんでワールドカップみたいにPlayer of the Matchといわないのだろう?性差の問題からManではなくPlayerと呼んでいたのに。日本ではそんなこと気にしないと言うことか??)は2トライを記録した坪郷智輝だったが、私が決めるならば吉村にすると思う。まあ、こういう賞は得点を直接決めたプレイヤーに決まることが多いというのは、様々なスポーツで当てはまることなのだけれど。
このように、キックを巧みに使うゲームプランを見せた帝京戦だったが、次の筑波戦では一転、パワー勝負に出てきた。ラグビーであれサッカーであれ、フットボールは相手の出方で最適な戦い方は変わるもの。こういう駆け引きを見るのは大好きなので、次の試合も楽しみだ。
次回は帝京のアタックについて見てみる。