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目の肥えたサッカーファンにこそ、ボーデン・バレットのプレーを見てもらいたいと思う

 昨日のラグビートップリーグ、サントリーサンゴリアス対クボタスピアーズ戦。最後は世界最高のラグビープレイヤーの一人、ボーデン・バレットのトライでサントリーが勝った。

 バレットは、足も速く、コンタクトも強く、パスやキックも正確。最後のトライは彼のランニングスキルを遺憾なく見せたもの。

 ただ、昨日見て感じたのは、バレットが世界最高たるゆえんは、そういった個々のスキルにあるのではないということ。何より抜きん出ているのは、フィールド全体のスペースを、俯瞰的にしかもリアルタイムで把握する能力だと言うことに気づいた。

 なので、相手がいなくて、味方が追いつける場所にボールを素早く運ぶことができる。「判断の正確さ」はよく言われるが、それは単なる判断力ではなく、フィールド全体の把握能力の高さを反映していると言うことだ。これはテレビで見ているだけではわからなかった。今日ビデオで見直したけれども、スタジアムで感じたほどの衝撃は感じなかった。あれは現地で見ないとわからない。

 プレーを見ていて、バレットがボールを動かした瞬間に、「あ!そこにスペースがあるんだ!!」と言うことが一瞬あとにわかる感覚だ。

 普段、撮影しながら観戦しているから、先読みをするためにスペースがどこにあるのか、常に意識している。そして気づいたスペースにボールが運ばれたとき、「あ、この選手はわかっているな」と思う。最近で言えば早稲田大学の吉村紘からそういう感じをよく受ける。けれどバレットの場合、こちらが気づくより前にスペースの存在を把握しているので、こちらがスペースを認識するのが後追いになってしまうのだ。

 バレットのプレーを見ていて思いだしたのは違うスポーツの場面。サッカーだ。中村憲剛の全盛時の大久保嘉人とのコンビネーションにもそんなことがよくあった。闇雲に中村憲剛が蹴っているように一瞬感じても、その先にはスペースがあり、大久保嘉人が走りこんでいる。そんな場面を思い出させるプレーぶりだった。

 この種の俯瞰的なスペース認識能力というとやはりアンドレス・イニエスタが思い浮かぶ。こう言う能力は、サッカー選手でもごく一部のプレイヤーにしかない希有な力だ。メッシとかクリスチアーノ・ロナウドも優れたプレイヤーだが、彼らの力はまた別のところにある。

 これがどれだけ凄い能力か、ラグビーしか見ていないとわからないかもしれない。ラグビーは基本的にオフサイドラインに沿ってプレーが展開するスポーツだから。むしろフィールド全体を奥行きや逆サイドを含めて俯瞰しながらスペースを認識して観戦する習慣は、サッカーファンにこそある。

 だからこそ思うのだ。サッカーファンにこそいまのバレットのプレーを見てほしいと。これがどれほど希有な能力かすぐにわかってくれる人に見てほしいと。

 自分は全盛時のイニエスタをスタジアムで見たことはないのでイニエスタとの比較はできない。自分にできるのは中村憲剛までだ。けれど、もしかしたら全盛時のイニエスタと並ぶ能力を、目の前で見られるかもしれないのだ。今年はチケット入手が容易ではないけれど、5000円以下で買える。

 バレットが日本にいるのは今年だけなので、あと数試合しか見る機会はない。けれど、その中で、是非見てみてほしいと思う。心の底から、そう思う。

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