早稲田の攻撃も鋭かった:ラグビー大学選手権決勝 早稲田対天理<4>
1月11日のラグビー大学選手権決勝。これまで天理の攻撃を中心に見てきた。
レビューは前回で終わりにするつもりだったのだけれど、早稲田の攻撃もやはり面白いので最後にもう一回、早稲田の攻撃を取り上げることにする。
再現性の高い攻撃
この日の両軍の攻撃に共通しているのは、いわゆる「再現性」の高さだ。天理の攻撃は10シェイプからの突破が繰り返し成功したという意味での再現性があり、早稲田の攻撃もこれまでの試合で何度も見られた攻撃が成功したという意味での再現性があった。
例えば昨日連続写真をアップした後半12分の河瀬諒介のトライ。
まずはラインアウトモールを押し込もうとしたが押し込めず、右に展開。押し戻されたのを13番長田、15番河瀬で押し込んでラック。そこからフォワードが右に2回続けてラック。
ちょうど真ん中くらいに作ったラック。早稲田は左に両センターを含むアタッカーをダブルラインの形で並べる。その攻撃体形に天理も反応。早稲田左サイドにディフェンダーを並べる。
しかし早稲田は逆を突いて右に展開。右にいたのは吉村、河瀬、槇の3人。吉村は河瀬と槇に2対2の勝負を仕掛けさせる。
そして河瀬が抜いて見事にトライ。
この攻撃、二度の慶応との対決で見せたのと同じ攻撃だ。
ゴール前でブレイクダウンを繰り返す。
真ん中でラックを作ったとき、どちらか(基本的には左側)にアタッカーを集める。
集めた上でダブルライン攻撃というのが「オモテ」。逆を突いて人数は少ないがスペースがあるところで2対2ないし3対3で勝負するのが「ウラ」。
この河瀬のトライは「ウラ」のパターンだ。左側に両センターを含め、7-8人のアタッカーをダブルラインに並べる。そうなると天理もそちら側にディフェンスを置かなければならなくなり、右側が手薄になる。当然早稲田のアタッカーも少ないのだが、2対2で勝負してもスペースがあるので躱しきってトライを取りきった。
というか強豪同士の試合では「オモテ」のパターンでトライを取りきったことはないような気がする。なのでこの「ウラ」は苦し紛れの攻撃ではなく、「オモテ」自体が「ウラ」を効果的に使うためのオプションということなのだろう。
吉村がセーフティゾーンを使う攻撃
次に前半16分のトライを見てみる。
これもラインアウトモールを押し込めなかった後で右に展開したものだ。スクラムハーフ小西から直接フォワードにパスしたり、スタンドオフ吉村を経由してダブルライン使ったりして右に左に展開。重ねたフェイズは18。
最後に、右側で作ったラックからスクラムハーフ小西がスタンドオフ吉村にパスアウト。吉村はパスせずセーフティゾーン(ディフェンスラインの手前だがタックルが届かないエリア)を斜めに走る。
それにつられて斜めにスライドした天理ディフェンスの逆を突いて、内に切り込むような角度で走り込んできた13番長田にパス。長田は吉村が作ったスペースを縦にビッグゲイン。
捕まったがその後左展開で小林がトライを取った。
早明戦や大学選手権準々決勝の早慶戦を初めとして、このセーフティゾーンの吉村の横走りは再三見られた。これも今年の早稲田の一つの「型」だった。
ダブルラインからのプロップ小林の突破
最後は後半27分のトライ。
早稲田、トライを取られてからこの日初めての浅いキックオフからリスタート。天理が蹴り返したボールを抑えて左展開。9シェイプと10シェイプを組み合わせて左右に展開した後、左のライン際を13番長田がゲインしてラック。
ここで右側にダブルラインを形成。スクラムハーフ河村は右のフロントドアに並んでいた9シェイプのフォワード3人にパスアウト。
そのままクラッシュと思いきやバックドアの吉村にパス。吉村は横に並んでいた3番小林にパス。小林はトップスピードで走り込んでボールをキャッチ。そのまま前進。前にいたのはフッカー佐藤だが、プロップとはいえフィールドプレイのレベルの高い小林。ステップを切って躱す。ウラに出られると第一列では追いつけない。
そのままゲインして左を追走していた河村にパス。そのままトライ。
このダブルラインの攻撃や小林をランナーに使ってのゲインも、今シーズン早稲田が再三見せていたものだ。
やはり「矛」対「矛」の対決だった。けれど「矛」を持たせなければ・・・。
こうしてみると、早稲田の攻撃もレベルが高い。天理はきちんと止められていなかった。
しかしラグビーは、ボールを持っていないと攻撃できない。その意味で、再三(16回!)の中盤から自陣でのボールロストは早稲田に取って痛かった。
攻撃を継続できていれば、その分天理の攻撃時間は短くなる。しかしボールを失えばその分天理の攻撃時間になる。
早稲田にとって、特に痛かったのはやはりハンドリングエラーだろうか。
明治も天理戦では決定的な場面でハンドリングエラーを連発した。
こうしたハンドリングエラーの場面、それほどプレッシャーは受けていない。
天理の圧力によってミスしたと言うより、点差が開いてしまったので速いテンポでアタックしようとして自ら余裕を捨て去った結果のように思える。
これから1年、どうやって天理を倒すのか。関東の大学の工夫、楽しみに待っていたい。
(終わり)