見出し画像

"4月"の恋

どんな人にだって新生活はある。

と言っても自分は変わらず実家暮らしで、地元の高校に通うのだが。

それまでのコミュニティだけでは過ごせない。

新しい人と出会い、付き合っていくことが増える。




そして俺は初めて…一目惚れというものを知った。




五百城:初めまして。兵庫県から来ました、五百城茉央です!




五百城茉央さん。

15年以上、関東に住む人間にとってイントネーションが違う、関西弁というだけで特別感を抱くのだが…。

身長も高くてスタイルが良く、可愛い。

愛嬌もあって、優しい。

瞬く間にクラスで人気者になった。

そんな五百城さんに恋をするな…なんて無茶なことだ。







ーーー







担任:じゃあ、係決めします。事前にとった希望アンケート通りに一旦書きます。




委員会・係決め。

自分は中学の時、図書委員だった。

本が好きで、何よりあの静かで独特な雰囲気が好きだ。

だから高校でも図書委員を希望した。




担任:うん、委員会の方は希望通りでいいかな。みんな、大丈夫?

クラスメイト達:…。

●●:……。

担任:大丈夫そうだね。じゃあ、委員会決まった人は今日の放課後、顔合わせあるからお願いします。




うちのクラスの図書委員は自分と…。




五百城:●●くん…やんな?よろしく!

●●:うん…こちらこそよろしく、五百城さん。




こんなことがあっていいのだろうか。

クラスを春風が吹き抜ける。

平常心で接そうと必死だった。







ーーー







担任:じゃあ今日はここまでです。日直さん号令お願いします。

日直:起立。気をつけ、礼。

クラス:ありがとうございました。




五百城:●●くん、図書室行くで?

●●:え?あ!忘れてた。当番って今日からか。

五百城:もう。忘れんといてや?

●●:…!…ごめんごめん!




その顔で言われる関西弁に、まだ慣れない。

いや…慣れないというよりかは、敵わない。




五百城:誰もこーへんな。

●●:まあまだ、新学期始まってすぐだしね。そんなに借りようとする人もいないんじゃないかな。

五百城:先に整理の仕事終わらせとく?

●●:そうしようか。




2人並んで書架の整理をする。

窓からは春の陽気が差し込む。

満開の桜が立っている。




●●:そういえばさ、五百城さんってなんでこっちに来たの?

五百城:ん〜、家族の事情ではあるんやけど、関東に行ってみたいっていうのがあったんよ。

●●:へえ。

五百城:色々、面白そうやん?

●●:俺からしたら関西の方が面白いと思うよ。ほら…お笑いとか。

五百城:そういう面白さとはちゃうやん!笑

●●:え〜?笑

五百城:そうや、聞きたかってん。●●くんはなんで図書委員になったん?

●●:中学の時も図書委員やってたから、またやりたいなって。図書室の雰囲気が好きなんだよね。

五百城:なんかわかるかも。この、ちょっと秘密基地感がね。

●●:うん。五百城さんは?

五百城:なんとなくかな〜。委員会やってみたいとは思ってたんやけど、学級委員とかは難しいやろうし。でも、やり甲斐のある委員会がいいから。

●●:なるほどね。

五百城:でも、選んでよかった。

●●:何で?

五百城:●●くんみたいな良い人と出会えたからに決まってるやん!

●●:…!//

五百城:あ、何〜?照れてんの〜?笑

●●:違うよ!もう…//

生徒:すいません、貸し出しお願いします。

五百城:あ、はーい。ちょっと待っててな。




自分は関西弁に弱いのか、それとも五百城さんに弱いのか。

偶然がお互いを図書委員にさせたなら、感謝するべきは誰だろう。




●●:今日の分の整理は終わったよ。

五百城:早!さすが図書委員やな。

●●:五百城さんもでしょ?笑

五百城:中学時代からやってた人とは効率がちゃうわ。

●●:まあまあ、慣れていくって。

五百城:慣れていくんかなぁ…。

●●:なんか心配なことがあるの?

五百城:いや…関西弁ってだけでチヤホヤされてる気がして。まだちゃんとした友達がおらんから不安やねん。

●●:みんな関西だから…じゃなくて五百城さんだから集まってるんだよ。

五百城:ほんとに…?

●●:愛嬌あって優しくて…あと…。

五百城:あと…?

●●:…やっぱダメ…笑。

五百城:え〜!教えてや!

●●:まあまあ…そんな五百城さんが好きなんだよ、みんな。

五百城:そう…なんや、ありがとう●●くん。

●●:何かあったら言ってよ!同じ図書委員なんだし!

五百城:うん…//

司書:そろそろ、図書室閉めるね。あとは先生がやるから帰って大丈夫よ。2人とも初仕事お疲れ様。

2人:ありがとうございます。




日は紅く、窓際を照らしていた。







ーーー







帰り道。




●●:五百城さんもこっちなの?

五百城:そうやで。

●●:そうなんや。

五百城:あ、ちょっと関西弁みたいやったで笑。

●●:ちょっと移ってきたかもしれへんな。

五百城:イントネーションがちゃうから、エセやけどな!笑

●●:勉強しないと。

五百城:いやいや…むしろ標準語を私が勉強せな。

●●:あ。

五百城:ん、どうしたん?

●●:いや…あの公園の。

五百城:うわぁ…!ちょっと行こうや!

●●:ちょっと、置いてかないで…!




●●:はぁはぁ…。

五百城:うわぁ…満開やん!

●●:そうだね…あ、五百城さん。

五百城:ん?

●●:ちょっとじっとしててね。

五百城:えっ…。

●●:ほら、髪についてた。はい。

五百城:ありがとう…//

●●:うん…//

五百城:綺麗な花びらやなぁ…。

●●:…。




五百城:なあ、●●くん。

●●:?

五百城:やっぱり…こっちに来て、この高校で、図書委員選んでよかったわ。

●●:本当に…?

五百城:うん、今日改めて実感した。

●●:なら、良かった。これからもよろしくね。

五百城:もちろん。

●●:じゃあ…帰ろっか。

五百城:…ちょっと待って。

●●:どうしたの?

五百城:名前、呼び捨てにせーへん?

●●:えっ…?

五百城:その方が距離も縮まらへんかな〜って。

●●:…じゃあ、そうしよう?

五百城:改めて…よろしく"●●"。

●●:こちらこそ、"五百城"。

五百城:なんか恥ずかしいな笑。

●●:こっちもだよ笑。

五百城:…ほら、帰るで!

●●:はいはい!




夕焼けに照らされる2人の影と一本の大きな桜。

満開の桜から花びらが溢れる。

少し、期待が膨らんだ今日。

また、明日からが楽しみだ。




散る桜が告げるは、青春の合図ー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?