Liberation
2/13。
明日が何の日かなんて。
そんなこと、知らない人間はいないだろう。
貰いたいか貰いたくないか、答えは明らか。
…が、人間は欲張りなもので…誰でもいいというわけではない。
どうしても貰いたい存在がいる。
ーーー
先生:…だから、この式の解は〜…。
昼終わりの数学の授業。
人間の構造上、眠くなる時間らしい。
??:(プスッ…。)
〇〇:…痛って!
先生:どうした●●、大丈夫か?
〇〇:あ…はい、大丈夫です。ちょっと…捻っただけです。
先生:そうか、気をつけろよ。
〇〇:…おい、やめろよ"咲月"。
咲月:ん?寝てる〇〇が悪いでしょ?
〇〇:寝てない。
咲月:流石に無理がある笑。
〇〇:いくらなんでもさぁ…シャーペン刺すのはちょっと。
咲月:で、答えは?
〇〇:ん?
咲月:今、隣と答え合わせする時間!やっぱ話聞いてなかったんだ…ということは…?
〇〇:寝てません。
咲月:顧問に言いつけようかな〜?
〇〇:寝てました。すいません、解きます。
咲月:分かればよろしい笑。
クラスメイトの菅原咲月。
もとい、部活のマネージャーでもある。
1年から一緒のクラス。
うちの部活内では下の名前で呼び合うので、結果として日常生活でも下の名前で呼び合うことになった。
自分だけの特別なことでは無く、他の部員も下の名前で呼び合う。
そう、所詮普通のこと。
でも…最近少しその"普通"が気になってきた。
ーーー
担任:…はいじゃあ日直さん、号令お願いします。
日直:起立。気をつけ。礼。
終礼が終わった。
明日がどんな日であろうと部活はある。
直ぐに更衣室に向かい、着替える。
男1:そういえば明日バレンタインだよな〜。
男2:確かに。貰えるかなぁ。
男3:俺は彼女いるからな…笑。
男1:クッソ!確約されてんのか!
男2:ニヤニヤしやがって…くたばってしまえ!
〇〇:まあまあ…笑。誰かしらには貰えるだろうよ。
男1:まあ…マネージャーの咲月達からは貰えるか…。
男3:去年もあったしな。
男2:お前はもう貰うな。
男3:俺の扱い…どうにかなりません?
〇〇:…。
そう…咲月にはきっと貰えるはず。
問題なのは…それがどういう"もの"なのかということ。
大事なのは特別感。
他と違うかどうかということ。
ーーー
顧問:ほら、しっかり走れ!怠けるなよ!
男2:ハァ…こんなキツかったっけ…?
男1:明日オフ…だから…気合い入ってんじゃない…。
男3:バレンタインデートでもするんじゃね?
〇〇:あいつに限ってないでしょ…。
顧問:そこ!口動かすんじゃくて、足動かせ!
咲月:あと1分!怪我しないようにね!
バレンタインデーほど、片想いしている人間が心を動かす日はない。
クリスマスはもう…ゴールしている。
そうでないと、ツリーの前まで一緒に行けない。
一方で、バレンタインデーはまだ助走。
貰えるかどうか…仮に貰えたにしろ、貰えるものがどういう意味を指すのか…確約されない。
部活中もそんなことを考えてしまう。
いつも以上に疲れてしまうのは、そのせいかも知れない。
ーーー
顧問:今日もよく頑張った。お疲れ。しっかりと休めてくれ。誰か、何かあるか?
マネ1:あ、明日練習はありませんが、昼休みに部室前に集まってくだされば。
顧問:毎年恒例のやつだな。
咲月:はい!みんなの分ちゃんと用意してるんで。
顧問:他ないか?…よし、じゃあ解散!
全員:…ありがとうございました!
男3:良かったじゃない、1個は確定で。
男2:お前が言うと嫌味にしかならないから。
男1:ほんとだよ、〇〇もなんか言ってやって。
〇〇:…自惚れんなよ?
男3:…結構、ダメージ来るわ。〇〇に言われると…。
更衣室でそんな話をしていると…。
咲L:今日一緒に帰らない?
咲月からの珍しい誘い。
確かに帰る方向は同じだが…こんな風に誘われたのは初めてだった。
ちょっとだけ鼓動が早まった気がする。
〇L:分かった、校門で待ってて!
咲L:りょーかい!
〇〇:悪い、今日一緒に帰れなさそうだわ。
男1:お、珍しい。なんかあったか?
〇〇:ちょっと連絡が来て。
男1:そうか、気をつけてな!
男3:じゃあまた、明日。
男2:お前に明日が来るかなぁ…?
男3:えぇ…。俺…殺される?
〇〇:…笑。じゃあな。
寒空の下に待たせるわけにはいかない。
全速力で準備して、校門へ向かう。
〇〇:…お待たせ。
咲月:早!
〇〇:そんなこと…ハァ…ないと思うけどな。
咲月:息切れてるよ?笑
〇〇:…寒いかなって思ったから…。
急いで来たのがバレてしまった。
ちょっと恥ずかしかった。
そんな帰り道。
他愛もない話をしながら歩く。
いつもと変わらないように見える君。
いつも通りとは言えない自分。
…やっぱり、気になって聞いてみた。
〇〇:…あのさ、何で一緒に帰ろうって誘ったの?
咲月:…理由が必要…?
急に弱気そうになった君。
〇〇:いや…咲月から誘われるの初めてだったからさ。単純に…気になって。
咲月:そっか…。
〇〇:別に特に何も無いならいいんだけどね、全然。
ちょうど、その時…公園のある交差点に差し掛かった。
自分の家は左、咲月の家は右。
ここで分かれることになる。
咲月:…理由は明日のこと…かな。
〇〇:…明日?
咲月:…明日の朝、この公園で待っててくれない…?
〇〇:…。
咲月:どうしても…渡したいものがあるから…。これを誘いたくて…今日、誘ったの。LINEじゃなんか嫌だったから。
〇〇:咲月…。
…咲月のことを全然分かっていなかったのかも知れない。
まだ…分からないが、その言葉の意味は受け取った。
〇〇:分かった、ここで待ってる。
咲月:約束だからね。今日みたいに寝てて、寝坊したとか言ったらタダじゃおかないから!
〇〇:もう今日のは忘れてくれ…笑。
咲月:じゃあ、また明日ね。バイバイ!
〇〇:うん、また明日。
咲月の後ろ姿が見えなくなるまで…。
その場で夜風に吹かれていた。
ーーー
帰宅。
ご飯も食べ終わり、就寝の準備も済ませた。
また、通知が来た。
咲L:明日の7時半ね!!
〇L:公園に7時半ね、分かった。
アラームをいつもよりも少し早めに設定して、電気を消す。
だが…まるで幼いあの頃、遠足前日の夜に寝付けなかったように…。
ソワソワして直ぐに眠ることができない。
ーーー
2/14、7:30。
〇〇:何でこんなに寒いんだ…。
まだ朝晩は冷え込むとは言え、白い息が宙に舞う。
咲月:お待たせ。
〇〇:咲月!
いつもよりも…いつも以上に時間をかけてセットしたのが伝わる。
鼓動が早まる。
咲月:〇〇、ハッピーバレンタイン!
〇〇:…ありがと。
赤いハート型の箱。
その上には手書きのメッセージ。
"〇〇、大好きだよ!"
咲月:想い、伝わったかな…?
〇〇:…もう充分伝わってるよ、咲月。
咲月:…返事、教えて欲しい…。
考える必要もない。
答えはもう…はなから決まっている。
笑顔で静かに頷いた。
ずっと一緒にいた2人には…その意味が勿論分かった。
〇〇:ありがとね、咲月。
咲月:こちらこそ、朝早くからありがと!
学校へ向かう道。
朝日が繋がった2人の手を照らす。
2人の解き放たれた想いは…これからもずっと。
輝く朝日のように、希望に満ちているに違いない。
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