"6月"の恋
目を開けると、太陽はとうに山の上にあった。
梅雨だというのに雲ひとつない今日。
その日差しがカーテンを超えて部屋に届く。
〇〇:なんでこういう日に限って晴れなんだか…。
思わず独り言が出てしまった。
というのも今日は大学が休み。
最近は雨が続いていたから憂鬱だった。
部屋の掃除とか洗濯をしてゆっくり過ごそう。
そう思って遅めの朝ご飯を食べていた時だった。
昨日ゲームしたままで、マナーモードを解除したままのスマホが音を立てて震える。
桜L:昼から行く!
〇L:はい?
桜L:だから、昼から〇〇の家に行くから!!
〇L:急だし、嫌なんだけど。
桜L:じゃあ、よろしくね!
〇〇:変わってないな〜、相変わらず。
幼馴染からのLINE。
こっちの事情を聞く間もなく、予定を立てる。
もう大学生になって3ヶ月になるというのに、変わらない。
といっても、大学が終わったら連絡が来るだろう。
そう思いながら、食器を片付けた。
ーーー
洗濯が終わって干す。
取り込んだ洗濯物をベットに一旦、放置して。
そんなことをしているとインターホンが鳴る。
急いで出ると幼馴染がいた。
桜:やっほ〜。
〇〇:え、今から行くとか連絡来てないけど。
桜:え、言ったじゃん。昼から行くって。
〇〇:それじゃあタイミングがわかんないだろ…笑。
桜:えぇ〜?もしかして何か見られたくないものがあるとか?笑
〇〇:そういうことじゃないけどさ笑。
桜:じゃあ、良いでしょ?お邪魔しま〜す。
中学や高校の時はよくお互いの実家を行ったり来たりしていた。
勉強会を開いたり…。
でもそれはあくまで自分の"部屋"であって、"家"ではない。
どこか少し恥ずかしい。
桜:前に相談しに来た時より、家具が増えてる。
〇〇:そりゃね。4月よりかは増えるでしょ。
桜:あの時はありがとね。
〇〇:履修登録が分かんないって、びっくりしたわ笑。
桜:へへ。あ、洗濯物。
〇〇:いや、やろうと思ってた時に桜が来たから。こっちも干さないといけないし。
桜:じゃあ手伝うよ?
〇〇:え、そんなの別に良いよ。
桜:そのタイミングで来た私が悪いんだから。ほら、私は畳むから、ね?
〇〇:ありがと…。
始まった分担作業。
桜が取り込んだのを畳む間に自分は、洗剤の匂いがまだ良く香る服たちを掛けていく。
なんだか同棲しているみたいだ。
そんなことを思ってしまうと…少し意識してしまう。
幼馴染でずっと一緒なのに、今日はなぜかドキドキする。
〇〇:ありがと、桜のおかげでいつもより早く終わった。
桜:こちらこそ。
〇〇:で、今日は何しに来たの?
桜:え、特に。
〇〇:え?
桜:昼から無いし、暇だなと思って。
〇〇:俺の家をなんだと思ってるのよ…。
桜:良いじゃん、別に笑。
〇〇:まあ、良いけどさ…笑。
桜:ふわぁ…。
〇〇:眠いの?
桜:昨日遅くまで課題してたから…。
〇〇:俺のベッドでいいなら、寝る?
桜:いいの?せっかくお邪魔してるのに。
〇〇:その間やらないといけないことやっとくよ。
桜:じゃあお言葉に甘えて。
〇〇:うん。
桜:あ、一緒に寝る?笑
〇〇:何言ってんの?!
桜:冗談冗談笑。驚き過ぎだって笑。
〇〇:警戒心なさ過ぎだって…。
大学生になってまだそんな桜が不安になる。
下心はないにせよ、自分だって男だし。
何かあったらどうするんだと思うこともある。
でも、やっぱりこんな幼馴染の桜がいい。
気付けば微かな寝息が聞こえてくる。
そっと布団をかけ直して、俺は教科書と向き合った。
ーーー
日が少し傾いてきた。
あらかた勉強も終わった時、桜が目覚めた。
桜:んぅ…。
〇〇:あ、桜。おはよ。
桜:おはよ〇〇。ごめんね、ありがと。
〇〇:俺も勉強進んだから別にいいよ?
桜:なんか、同棲してるみたい。
〇〇:え…?//
桜:…なんてね、もしかして照れてる?笑
〇〇:家、入れなければよかった。
桜:冗談だって、そんな怒らないで?笑
そう思ったのは自分だけじゃなかったのか。
またドキドキしてしまう。
それはお互いに大人になったからなのか。
それとも…。
〇〇:これから、どうする?
桜:久しぶりに〇〇の料理が食べたいな〜。
〇〇:料理?
桜:勉強会の時、昼ごはん作ってくれてたじゃん。
〇〇:まさか、夜ご飯食べるつもり?
桜:そういうこと!
〇〇:はぁ…仕方ないな〜。
桜:やった〜。
〇〇:じゃあ、出かける準備して。
桜:え?
〇〇:買い出し行くの!ほら!
桜:もう、せっかちなんだから…笑。
空は茜色に染まり始めている。
ある意味日常で、それでも特別な今日。
これからもこの関係を大事にしたいと思いながら…
いつかは"特別"になりたい。
そんな風に思う、1日になった。