引き返す道はもう無い
バイトへと向かう1本道。
道の先は闇に包まれている気がする。
今日も憂鬱な時間が始まる。
先輩の顔をもう見たくない。
バイト先の先輩を好きになった。
僕は想いを伝えたあの日。
幸せになれたのに…。
そんな日々はそう長く続かなかった。
ある日見た先輩の姿。
仲睦まじく2人並んで歩く姿。
それはどう考えても"彼氏"だった。
"…だって、●●くんのこと好きじゃないもん笑"
僕は壊れた。
誰を信じれば良いか…何を信じれば良いか。
だから…バイトには行きたくない。
ーーー
店長:おはよう、●●。元気か?
●●:まずまず…ですかね。
店長:あ、そうだ。シフト変わって今日、川﨑と一緒になるから。
●●:分かりました。(耐えた…)
そんな時に慰めてくれたのが、川﨑だった。
自分より少し後に入ってきた彼女。
どうやら同じ大学の後輩らしい。
包み込むような優しさで、壊れていた僕を支えてくれた。
今日は先輩とのシフトだったから、助かった。
川﨑:あ、おはようございます、●●さん!
●●:おはよ、変わったんだね。
川﨑:はい。何か××さんが急な用事が入ったみたいで。
●●:…用事ね。
川﨑:…大丈夫ですか?
●●:…うん、大丈夫。
川﨑:何かあったら言ってくださいね…?
●●:…正直バイトは辞めたい。居心地が良くないから。
川﨑:辞めないでください!流石に寂しいです。
●●:…ごめん。確約は…出来ない。
川﨑:…ですよね。ごめんなさい。
●●:仕事…始めようか。
川﨑:…はい。
ーーー
次の日の午後。
今日は流石にシフトが一緒か…。
もう消えてしまいたい。
そう思いながらもバイト先に向かう。
体調が優れない時、良くしてくれた店長。
そして支えてくれた川﨑。
2人への感謝の為に行かなければならない。
店長:おう、●●。
●●:あれっ、店長?今日、昼から休みでしたよね。
店長:あ〜笑。××が辞めたのよ。
●●:えっ…辞めた?
店長:朝一に来て、辞めさせてくださいって。
●●:…そうですか。
店長:で、俺が仕方なく。まあ、新しい人採用するから大丈夫だと思うよ。勿論、●●の負担は増やさないようにするからね。
●●:ありがとうございます。
店長:途中で川﨑と変わるから、また宜しく。
不意な出来事だったので驚いた。
何があったのかは分からないが…安心した。
これで呪縛からは解放されるんだ。
前を向いて進めるんだ。
ーーー
そうしてシフトが終わった。
最後の締め作業をしていると…。
川﨑:●●さん。この後、空いてます?
●●:うん、空いてるよ。
川﨑:一緒にご飯、食べに行きません?
●●:川﨑から誘ってくれるなんて珍しいね。
川﨑:たまには良いじゃないですか笑。
●●:うんいいよ、行こう。
こんなに気分良く仕事を終えられるなんて久々だ。
ーーー
ご飯の後の帰り道。
夜も遅いので、川﨑を送っていくことにした。
川﨑:××さん、辞めたんですね。
●●:そうみたいだな。
川﨑:…。
●●:…あ〜。もう大丈夫だよ笑。原因は去ったから。
川﨑:これで…●●さんが"辞めず"に済みますね。
●●:まあ、これからは気兼ねなくお世話になるかな。
川﨑:良かった…。
●●:川﨑、ありがとうね。
川﨑:えっ?!
●●:何で、そんなの驚くの?笑
川﨑:え、いや。
●●:いや、ずっとあんな話聞いてくれて。
川﨑:あ、あ〜。大丈夫ですよ!●●さんの為なら。
●●:嬉しいよ、そんな後輩が居て。
川﨑:"後輩"ですか…。
●●:…?
川﨑:もうそろそろ、私も1人の女性として見て欲しいです。
●●:えっ…。
寒いはずなのに…急に鼓動が高鳴る。
川﨑も俯きながら、顔をほんのり紅く染めている。
そして近づき…。
川﨑:キス…しちゃいましたね//
●●:川﨑…//
川﨑:●●さん、良いですか?
●●:…うん。
川﨑:ふふっ、嬉しい//
●●:…//
川﨑:●●さん、まだ時間ありますか?
●●:あるよ。
川﨑:まだ…一緒にいたいです。
●●:…。
川﨑:その代わり、全部受け止めてくださいね?
●●:…?
そうして、川崎の家に。
川﨑:全部、受け止めてくださいね。
その言葉の意味が分からなかった。
…が、すぐに分かった。
部屋に入って、驚愕した。
部屋の一角には、自分の隠し撮りされた写真達が。
××といる時の写真もそこにはあった。
●●:…もしかして…。
川﨑:私は●●さんのこと、高校から知ってますよ。追いかけてきたんです。
●●:同じ大学に…?
川﨑:やっと近づけたと思ったら、××さんが居て。
●●:…。
川﨑:××さんが浮気してるの知ってたんです。私はこんなに一途に思ってるのに、許せなかった。
●●:…。
川﨑:だからあの日。わざと消耗品をショッピングモールまで買いに行ってもらったんです。●●さんにその現実を見せる為に。
●●:…なる…ほど。
川﨑:そしたら…今度は辛そうで。居心地が悪くて辞めたい、って言い出したから。
●●:××が辞めたのって、まさか。
川﨑:辞めさせましたよ。とある方法を使って。
●●:…そっか…。
川﨑:●●さん。こんな私を、受け入れてくれますか?
答えは決まっていた。
それはきっと…知らぬうちに。無意識のうちに。
この間、擦り込まれていたんだ。
こんな存在を。
"包み込んでくれる"君を離したくない。
●●:…嬉しいよ。そこまで僕のことを思ってくれるなんて。そこまで行動してくれるなんて。
川崎:本当ですか…?
●●:うん。いつも川﨑に助けられてる。ありがとう。
川﨑:良かった…。これからもずっと一緒ですよ?
●●:もちろん。
どこで僕は道を踏み外してしまったのか。
否、初めから運命は決められていたんだ。
振り返っても道はそこには無い。
もう…全て川﨑の掌の上にいるんだ。
僕は君のモノなんだ。
でも…君がいれば。
愛してくれる君がいれば。
もう、それで良いか。