分岐を越えて、辿り着く結果
??:今までありがと、●●。
●●:どういう意味??
??:そのままの意味だよ。ありがと。
"なぁ、なんで…なんで黙っていなくなるんだよ…。"
〜〜〜
●●:…っ!!
縛られたように何度も見てしまうこの夢。
この世界の…この日本のどこかにいるだろう幼馴染。
あの夏休みから、君はどこかへと行ってしまった。
もう一度だけでいい。
声を聞きたい。話をさせてほしい。
そう願って何度、孤独の夜を過ごしたか。
心の中のカレンダーはあの日で止まったまま。
ーーー
部長:4月から、●●くんには東京に行ってもらいたいんだが…いいかね?
●●:本社勤務…ということですか。
部長:君をエンジニアとして人事が高く評価しているそうだ。
●●:それは…ありがたい限りです。
部長:そこで新しいプロジェクトのチームに●●くんを…と向こうの主任さんがね。
●●:…なるほど。
部長:大丈夫かね。
●●:はい。向かわせていただきます。
部長:じゃあ、人事部と打ち合わせを頼むね。
幼馴染と約束した"夢"。
それがアプリの開発者になることだった。
〜〜〜
放課後の教室。
部活もしていない自分は、友達を待つ時によくパソコンを触っていた。
●●:よし…っと。
??:何してるの?
●●:うわぁ!びっくりした。田村。
田村:驚かせるつもりはなかったんだけどな〜笑。
●●:プログラミングしてた。
田村:え、プログラミング?!
●●:…うん。
田村:凄いじゃん。
●●:あんまり他の人には言えないんだけどね…。
田村:何でよ。
●●:だってなんか…趣味でこういうのしてるってちょっとさ…。
田村:自信持ちなよ!何で始めたの?
●●:お父さんがこの仕事に就いてて、かっこいいなぁって。
田村:いいね、そういうの。
●●:まだまだなんだけどね。いつかこういう仕事に就いてみたいとかはあるよ。
田村:良い夢だと思うよ、応援する!!
●●:ありがと…// いつか、最高のエンジニアの姿を見せるね!
田村:うん。(私も…頑張らないとな)
〜〜〜
人事部と打ち合わせて、今日は本社に研修に向かう。
電車に揺られ、東京への旅路。
そんな旅路の途中、あの頃、過ごしていた街を通る。
そして長い川を渡る。
この川。
思い出されるは会えなくなる少し前の夏の日。
〜〜〜
田村:ごめん、待った?
●●:全然、今来たところ。
田村:浴衣の着付けに時間かかっちゃって…。
●●:大丈夫、似合ってるよ。
田村:ほんと?嬉しいな//
●●:じゃあ、行こ?
田村:うん!
花火大会。
学校からの帰り道。
ふと、幼馴染のノリで行く流れになった。
多分…お互い。
少し意識していたはず。
そうじゃないと…浴衣なんて着てこなかっただろう。
でも、自分は怖かったんだ、きっと。
田村:あ、かき氷食べたい!
●●:じゃあ、そこで買お。
田村:うん!
皆が想像する通りの時間を過ごす。
かき氷に頭を痛めていたこと。
射的で欲しいものをゲットして喜んでくれたこと。
大盛りの焼きそばを分け合ったこと。
昨日のことのように覚えている。
そして、花火が打ち上がる。
田村:うわぁ…。
●●:…。
空を照らす光。
水面に反射する光。
周りにどんなに人がいようとも。
それは2人だけの世界へと引き込んだ。
そして、どちらからともなく。
お互いの指先は0センチに。繋がった。
君はまだ空を見ている。
…その瞳は、何を願っていたのだろうか。
最後に打ちあがった花火の星屑が消える、その最後の1秒まで。
その手は繋がったままだった。
〜〜〜
大きな音を立てて鉄橋を渡る。
●●:はぁ…。
車内に吐いた、そのため息は目の前に留まったまま消えない。
その日から1週間後。
君は目の前から居なくなった。
後に友達から聞いた話だと、家族の事情…らしい。
どうして何も言えなかったのだろう。
伝えたい言葉はどうして、離れ離れになってから溢れ出すのだろう。
●●:××から研修で来ました。●●〇〇です。
受付:●●さんですね、少々お待ちください。
本社に着く。
やはり大きなビルに、背筋が伸びる。
主任:お待ちしてました、●●さん。
●●:△△さん、部長からお話は聞いております。
主任:そうでしたか。主任呼びで大丈夫ですからね。
●●:自分も、●●で大丈夫ですよ。
主任:それじゃあ、早速説明していきしょうか。
主任:…という感じです。
●●:分かりました。広報部と協力しながら、やっていくプロジェクトなんですね。
主任:一応、プロジェクトチーム専用のオフィスがあるので、そこも案内しましょうか。
●●:ありがとうございます。
会社を挙げて、取り組む一大プロジェクトらしい。
"最高のエンジニア"という部分では夢は叶ったか。
主任:みんな。今度4月からここで一緒に働いてくれる●●〇〇さんです。
全員:(拍手)
●●:初めまして。××から参りました、●●〇〇と言います。エンジニアとして今後頑張りますのでよろしくお願いします。
全員:お願いします!
主任:じゃあ、●●の席は…そこだね。4月からここでよろしく。
●●:ありがとうございます。あ、向かい側の方は…?
主任:今日は休みを取ってる。広報部のメンバーだったね。確か…田村…。
女1:田村真佑さんです!
●●:…!!
主任:そうそう、真佑さんね。ん、どうした?大丈夫?
●●:あ、えっと、はい、大丈夫…です…。
主任:…そっか。あ、そうだ、よかったらみんな、自己紹介してあげて。
●●:……。
まさか…。
そんな筈がない。
皆さんには申し訳ないが、自己紹介はほとんど入ってこなかった。
その田村真佑…は離れ離れになった幼馴染、なのか。
研修は今日だけで、一旦4月までは今までの場所で勤務する。
それからというもの。異動となる4/1まで。
落ち着いて過ごすことはできなかった。
ーーー
迎えた4/1。
3月までとは違う街から、違うビルへ向かう。
そして、あのオフィスへ。
ドアを開けようとした瞬間。
??:●●…?
●●:…!!
そんなことがあるのだろうか。
振り向いた先には…あの頃と少し変わって。
でも変わらないままの君がいた。
田村:やっぱり…●●だよね?
●●:田村…。
プログラミングは、いくつもの分岐から成り立っている。
この操作がされた場合は、この表示を出す…という風に。
最終的には幾度の分岐を超えて、何かしらの結果が生まれる。
人生もそうなのかもしれない。
いくつもの不可避な分岐を経て。
人は成長していく。
でも…もしかしたら…きっと。
その分岐が、いつかもう一度結ばれることがあるのかもしれない。
●●:田村…!!
田村:●●っ…!!
それをきっと…運命と呼ぶんだ。