描いた未来へ
今日は新年初の満月。
朝の天気予報。
どうやら晴天で、稀に見るほど空気が澄んでいるらしい。
いつもよりも星が綺麗に見れるかもしれない。
…この町には言い伝えがある。
あの丘の上で満月の日、想いを声に出せば願いが叶う…と。
親は昔、特に新年初の満月の日がそうらしいと言っていた。
いわゆる文化祭マジック的なおまじないだろう。
でも…今年だけはどこか意識してしまう。
ーーー
近くに住む幼馴染の菅原。
いつからお互いに"下の名前"で呼べなくなっただろう。
幼馴染である事はいつまでも特権ではない。
それでも…今も一緒に登校している。
だって、君が嬉しそうだから。
…俺も嬉しいから。
その笑顔が見れるなら…もうそれでいい。
でも、いつか…曖昧な関係は終わりたい。
君はどう考えてるのだろう。
菅原:おはよー、●●!!
●●:朝から今日も元気そうだな…笑
いつもの時間。いつもの待ち合わせ場所。
あと僅かしか着れない、少し綻びた制服。
今日は何故だか…目を逸らしてしまった。
菅原:ほら、行くよ!
●●:…おう。
数ヶ月後には別の道を歩んでいくはず。
ーあと何回、君とこの道を歩けるかー
いつもと同じような他愛もない会話。
でも違ったのは…君が少しだけ緊張しているように見えたこと。
俺も何故か緊張していること。
そして、何より…学校に着く直前に満月の話をしたこと。
菅原:…そういえば今日、新年初の満月らしいね。
●●:俺も見たよ、ニュースで。
菅原:…今日は晴れてるから綺麗に見れるかもね!
●●:…そうだな。
菅原:ねぇ…●●。
●●:?
菅原:あのさ…今日の夜、空いてる?
●●:…空いてる。
菅原:じゃあ、7時にいつものとこに集合!
●●:…そんな時間にどこに行くんだよ笑。
菅原:良いから…!ね?幼馴染からのお願い!
●●:分かったよ。
菅原:…約束だからね!!じゃあ…またね!
…きっと、俺の考えていることは正しいと思う。
でも、確証なんて無い。
いつも通りの授業は身に入る訳もなかった。
ーーー
昼休み。
手を洗いに、廊下の一番端にある手洗い場へ。
歩いていると、隅の方で菅原がサッカー部の奴と話していた。
あいつは人気がある。
勉強もできる。
スタメンだったし、活躍していたし。
誰が見てもイケメンだと思う。
正直…太刀打ちなんてできない。
知らないふりをして、通り過ぎる時に聞こえた。
"俺と一緒に今日の夜、丘に行ってくれませんか?"
ああ、俺だってそんな風にできれば…。
でもその瞬間、微かに聞こえた言葉。
"…ごめんね"
自分の描くことは現実になるのか…?
やっぱり不安と希望が入り混じる。
ますます授業のことなんてどうでも良くなった。
ーーー
帰宅。
今日は一緒に帰らなかった。
"早く帰って準備するから、また後でね"
ますます落ち着かない鼓動。
早く7時にならないか…?
勉強も動画もゲームも、何をやってもソワソワしてしまう。
日はもう間も無く暮れる。
ーーー
いつもと同じ場所。
でも…いつもと違う時間と格好。
菅原:●●、早くない笑?
●●:なんか落ち着かなくて…早く出ちゃった。
菅原:そ…そっか。じゃあ、行こ!
菅原に連れられ、坂を登っていく。
1月はやっぱり寒い。夜は尚更で、手が悴む。
君の後ろをついていく。その背中に…重なる記憶。
〜〜〜
〇〇:あ〜あ、花火なくなっちゃった。
さつき:たのしかった!
〇〇:もうちょっとしたいなぁ…。
さつき:…ねえ、〇〇!空見てみて!
〇〇:うわぁ、キレイ…。
さつき:願い事、言わなきゃ!!
〇〇:さつきちゃん、お母さんが言ってたこと信じてるの?
さつき:うん!!だって、お父さんもかなったって言ってたもん!
〇〇:何、お願いするの?
さつき:…〇〇とずっと一緒にいれますように!!!
〇〇:さつきちゃん、はずかしいよ//
咲月母:ほら〜、もう帰るよ?
〇〇母:片付けするよー!
2人:は〜い!
〇〇:いこう。はい、手つなご!
さつき:うん!!
〜〜〜
君は覚えてるのかな。
●●:こんなに…ここの坂って…急…だったっけ。
菅原:ハァ…確かにね。ほら、でもあとちょっとだから!
段々、街灯も少なくなっていく。
あと…もう少し。
ーーー
何年振りかに来たこの丘。
ここの公園でよく遊んだ。
もう、ブランコもシーソーも色褪せていた。
何の動物が描かれているかも分からない。
菅原:よし…着いた!
●●:うわぁ…。
目の前には陰影さえもはっきりと見える美しい月。
思わず息を呑むほどの輝かしい空。
互いの吐息が聞こえるほどの静かな世界。
長い静寂。ふと君の方を見る。
君の横顔が少しだけ月に照らされている。
その時だった。
君が口を開いた。
菅原:ねぇ、〇〇。
●●:…。
2人だけの世界。
この景色のためにだいぶ遠回りしたのかもしれない。
"好きだよ"
白い息を吐きながら…その小さな声が響いた。
ーーー
帰り道。
君とまた繋がれた手。
手はもう悴んでいない。
〇〇:急に言うから…びっくりしたじゃん//
咲月:…もう今日しか無いなって思ってたから//
〇〇:そうかもしれないけど//
咲月:私もだけど…〇〇も遅いよ…。
〇〇:だって…怖かったもん。
咲月:これからも…絶対に一緒だよ!!!
〇〇:…うん!
距離は離れようとも、心はいつまでも繋がっていられるように…。
俺からも伝えよう。
〇〇:…咲月。
咲月:…?
〇〇:俺も…
"大好きだよ"
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?