東大英語のリダクション 和文英訳(2018-3B)

作文系のなかでも、和文英訳って難しいよね、っていうのがあって、それってやっぱり、ふたつの言語の間の「翻訳」の難しさでもあり、母語から外国語に移すことの難しさでもあると思うんですね。

で、結局、英語を日本語に直すのはまだ易しいんですね。自分の感覚で言えば、母語の方が複雑に使いこなせるから、打てる手が多いんです。他方、日本語を英語にするのは難しいですよね。これって多分、母語の方が複雑なニュアンスをとらえられるのに、言葉足らずの外国語で表現しなおさなければならないからだと思うわけです。

なので逆に言えば、〈日本語→英語〉に直す過程で、〈日本語(オリジナル)→日本語(還元バージョン)→英語〉みたいな仕方で、ある種、中間的な言葉を挿んでやるといいのかな、と思います。

例えば、2018年の問題。3Aの方がシェイクスピアで、3Bの方が批評家・小林秀雄の引用ということで、教養度合が高いのですが(苦笑)、次のような日本語を訳すことが求められます。

「現在の行動にばかりかまけていては、生きるという意味が逃げてしまう」と小林秀雄は語った。それは恐らく、自分が日常生活においてすべきだと思い込んでいることをやってそれでよしとしているようでは、人生などいつのまにか終わってしまうという意味であろう

東大英語(2018年、3B)

太字部分ですね。もとが小林秀雄だからっていうこともあると思うんですが、微妙なところで日本語的な表現というか、論理的にはカットできるな、という部分があると思うんです。

まず、「チャンク」(意味の塊)に分けてみましょうか。

(a)それは恐らく~という意味であろう
(b)自分が日常生活においてすべきだと思い込んでいること
(c)~をやってそれでよしとしいるようでは
(d)人生など
(e)いつのまにか終わってしまう

で、ちょっと日本語的というか、細かいニュアンスに関わるような微妙な表現を太字にしてみています。この辺って、やっぱり、英語に直すの嫌ですよね(苦笑)。わたしも、正直、すぐにどうにかすることはできない。

でも、これって、英語では残らないような、というか、英語では別の言い方にするしかないかも、というのもあるんです。

(a)の「であろう」。どうですかね。「である」にしちゃってもいいのかもですし、wouldみたいな助動詞を使うか、I imagine(わたしは想像する)みたいな動詞で処理するかですかね。なんか入れてもいいけど、究極、「である」にしちゃっても意味は通じる感じです。

(b)「思い込んでいる」。若干ハードル高いですよね。これもシンプルに「思ってる」(think)にしちゃってもいいと思いますし、ちょっと重み残して「信じている」(believe)くらいでもいけそうです。

(c)は2個あると思っていて、まず、「やってそれでよしとする」。これ日本語表現ですよね。難しいです。でも、論理的には「それをやることで満足する」(be satisfied to V)とかに直せそうです。

2個目の「いるようでは」、どうしましょうか。仮定のifなんかで処理するイメージで「いるなら」とかに直せば道筋見えそうです。

(d)「人生など」の「など」。これはわたしは無視します(笑)。「人生は」にしちゃう。

(e)「いつのまにか」。これは表現探し求められそうですけど、入試レベルならば、「すぐに」でいいかな。

となると、下記のような仕方でシンプルに、書き換えられると思うんです。

「それは恐らく、自分が日常生活においてすべきだと思い込んでいることをやってそれでよしとしているようでは、人生などいつのまにか終わってしまうという意味であろう」

(日本語還元バージョン)
「それは恐らく、自分が日常生活においてすべきだと信じていることをやって満足しているならば、人生はすぐに終わってしまうという意味である」

これなら、まだいけそうな気がしてくるわけです。例えば、

It probably means that if you do what you believe you should do in your daily life and you are satisfied with this, your life will finish soon.
(訳:日々の生活の中で、自分がやるべきと思うことをやって、それで満足していたら、すぐに人生が終わってしまう、ということなのでしょう。)

google翻訳の和訳そのままコピペしてますが、まあ近いですよね。

ここでは本当にベタに、if節のなかも2文にしちゃってます。でも、多少とも複雑ならば、シンプルなもの2つにしちゃっていいんです。ある意味ではね。あとはほとんど、中学英語で処理できます。

満点はもらえないかもですが、一定の部分点取れればいいわけなので・・・。

まあ、なので、小林秀雄とか出てきちゃうとビビっちゃうと思うんですけど、日本語→英語の過程で、シンプルにするというか、「還元」(reduce)するという感覚があってよくて、こんな感じで処理していくこともできるわけです。

英語って不思議なんですよね。例えば、カントの難しい哲学書とかって、日本語に読むと異常に難しくみえるんですが、英訳で読むと思いのほかシンプルだったりするんです。日本語がニュアンス色々出せるということもあると思うんですが、いずれにせよ、和文英訳は「シンプル化」の作業でもある、ということは知っておいて損はないかなと思います。

Have a nice translation!
栗脇




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