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高峰「人間冥煙」

面白い異色の一冊。あの世の人への紙贈り物コレクション図鑑。供えものを燃やして、亡くなった人に贈るという習慣は中華文化の一つの特有もの。世界がどんなに進んでいっても先人に対する敬意や想いやりは変わっていない。香港に「紙紮文化」はいまだに健在。



紙紮のお供え物は生きている方があの世の人が豊かな「暮らし」のためだから、日用品から贅沢品まで色々あります。好きな食べ物はもちろん、その他に、買い物に使う紙幣や元寶があれば、実用のお湯ポット、炊飯器、医薬品などもある。豪宅や高級車が有れば、スマホやSIMカードもある。本当にこの世に必要な、というか欲しいものならなんでもある。



よく考えて見れば、まえがきにも書いたように「あの世」はコンセプト的には最近流行のメタバースに近い。メタバースにはもう一人の自分、しかも現実にいる自分と全く違う存在だ。せっかくだから、メタバースの自分は現実にできないこと、欲しいけど手に入れないものを持たせたいのだ。同じように「あの世」の人たちにこの世に手に入れなかったものを贈るのは愛と敬意の表なのだ。
この図鑑には140件ほど載っています。もちろん全紙紮品目の一部に過ぎない。店主は最初に本をちらりと読んだ時、「なんでもっと大きいもの、例えば車とかメイドさんとかは載ってないだろう」という疑問が出た。
実は作者は香港人じゃなく、オーストラリア人でした。実名はChris Gaul。彼はデザイナーで、大学でデザイン科講師も務めている。近年コースを教えるため、毎年数ヶ月間香港に滞在する機会があったという。紙紮文化にはまっていて、たくさんの紙紮品を買ってきた。問題はオーストラリアに持ち帰りの困難さ。とてもデリケートなものですし、搬送も大変だ。なるほど、だからでかいものはハードルが高いのだ。納得。で、この図鑑の写真は彼の自分のコレクションで、自宅のスタジオで撮ったものという。
その写真集を見れば、それらの紙紮品の細かさや本物っぽさは伝わる。
このテーマの図鑑はこれが唯一無二のものかもしれない。ぜひ見てください。

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