[書評]センスメイキング
センスメイキングという本を丸善で見つけて手に取った。Amazon評価だと★1~★5まで付いているのには後から気が付いたのだけど。内容について見た後、なんで★1がつくのか触れてみる。
人文科学の力
筆者はデータやアルゴリズム、デザイン思考?のような文脈自由なツールに頼るのではなく、現実世界の息吹、人、歴史などに敬意を払わなければ真の課題を見つけることができないという。
平たく言うと、こんな感じ。
①ある商品に対するアメリカ人のニーズとインド人のニーズと日本人のニーズは異なるものだし、もっとこまかく「人」や文化的背景を見ないと受け入れらる解決策や商品を送り出すことができない。
②データだけではなくフィールドワークを通して現場を観測しなければ得ることができない観点がある。(①に関連する)
③フィールドを知ることで共感力ともいうべき何かに到達し、顧客に共感することで新しい観点が開けることがある。
④データは単なる数値の羅列ではなく意味があるもの。意味を理解できなければ分析しても効果は薄い。意味を理解するには知性とフィールドワーク、社会への洞察が必要だ。
⑤達人の仕事はデータの塊では解析できない。データ自体が役に立つことがあるのは確かだが文脈が無ければデータを読み解けず最高の結果に到達するには文脈の中で醸成された人のスキルが必要である。三ツ星レストランのレシピ通り料理しても同じレベルの味にならないみたいなそんな話。
300ページあるので取りこぼしもあるだろうけど、だいたい、まぁまぁ、賛同は出来る。「AIで人間の仕事が全部置き換わるんやー」とか思っていると賛同できないかもしれない。
メモリの模様を見る男は模様から意味を見出すわけでそこにはやはり経験に裏打ちされた人の技術があるしプログラマーにも達人はいる。
例:年金商品
とある保険会社の老後の安心のための年金商品についての話題が中盤のほうにある。成約率・解約率が問題レベルになり売上が全く伸びなくなってしまった、どうしようか?というようなところで筆者がセンスメイキングで課題に取り組む(p192)。
筆者たちは現場に入りフィールドワークを通して顧客が「老い」に対して抱いているイメージや不安を整理し、顧客目線でタッチポイントを再構成することでビジネスを立て直す。若者は「老い」に対して実感がないのでデジタル技術を多用したマーケティングで対処し、50歳以降の不安を抱える人たちに人的リソースを割いて真摯に対応し、解約率を下げるというような作戦だ。
データの意味を考えるときにその背景となる文脈のイメージを把握できないと足元をすくわれる(そのために人文科学の素養がいる)というような話になっている。
感想
言いたい事には共感できる部分もあるのだけど、何がこの怒りを生んでいるのかというほどシリコンバレーを目の敵にしいて気が散ってしまう。
怒りといればタレブの「反脆弱性」も怒りがあったが、タレブほど皮肉も知性も感じないので邪魔でしかない。
まじめなんだろうな・・
否定しているシリコンバレー風のやり方にしても、「起業の科学」なんかで読む限りは成功者はデータではなく強烈な実体験やフィールドワークを重要視しているのは同じである。ついでに序盤から称賛しているフォードの元CEOマーク・フィールズは業績が上がらずに3年で追い出されているのでさらに困る(GEの本でも似たようなことがあったが)。
多分シリコンバレーの現実ついてフィールドワークしてないよね?っていう。(私も知らんけど)
言いたい事は判るし、ヒントも与えてくれるし、哲学書も読むべきか、事件は現場で起こってるんだよな、等、事例付きで思わせてくれるのでそんなに悪い本ではないのだろうけども、ノイズが多すぎるというのが素直な感想。
モノを売るところに関してはクリステンセン教授のジョブ理論も似たようなこと言ってるんだけど、クリステンセンの方が素直だ。
内容をみるか本としての出来を見るかで★の数が変わる気がする。フィールドワークの実践例を見たければったところかなぁ。
データ万能論に関しては、マネーボールのインディアンズがなぜワールドシリーズには勝てないのかとか(短期決戦過ぎてという話だとは思うが)、アカギのニセアカギ編とかの話もちょっと思い出したり、まぁいろんな人が感じてる普遍的な話だろう。